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血液のリン脂質分析によるアルツハイマー病の発症診断の可能性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
認知症の発症前診断.jpg
今月のNature Medicine誌にレターとして掲載された、
認知症の発症前診断についての文献です。

認知症を症状が出現する前に診断する方法があるでしょうか?

通常脳ドックと称するような検診では、
脳のMRIの画像と頸動脈の超音波検査、
医師による問診と、
質問による認知症の検査を、
組み合わせて行なうことが多いと思います。

ただ、これで診断が可能なのは、
認知症に関してはある程度症状の出たものだけです。

アルツハイマー型認知症で、
たとえば症状が出現する数年前の状態では、
MRIで脳の委縮などはありませんし、
頸動脈の所見はあくまで動脈硬化の指標です。

従って、現行の脳ドックでは、
認知症の発症前診断は出来ないのです。

それでは、他に発症前診断の方法はないのでしょうか?

アルツハイマー型認知症においては、
脳の神経細胞にアミロイドβという異常蛋白の蓄積が起こることが、
明らかになっています。
このアミロイドβの蓄積は、
まだ発症前の認知症でも認められるので、
髄液のアミロイド蛋白やタウ蛋白と呼ばれる異常蛋白を、
直接測定する方法や、
脳のアミロイドの蓄積を、
脳の画像に描出する方法などが、
手法としては既に確立されています。

ただ、髄液の検査は侵襲がありますし、
病気の診断には使用出来ても、
発症前診断への活用については、
議論の余地が残っています。
画像診断も研究段階で、
まだ一般臨床への活用には時間が掛かります。

そこでもっとシンプルに、
血液の検査のみで将来的なアルツハイマー病の発病を、
予測出来るような検査はないのでしょうか?

今回の文献においては、
血液中のリン脂質と呼ばれる物質を10種類測定し、
そのトータルな変化から、
正常と認知症との判別を行ない、
それがアルツハイマー型認知症の発症前診断に、
活用出来るかどうかを検証しています。

リン脂質やアミノ酸は、
身体の細胞の重要な構成成分の1つで、
これまでにもその複数の血液濃度の測定の組み合わせによって、
癌や脳卒中のリスクなどを、
判定しようという試みが幾つか実用化されています。

今回の研究においては、
トータル525名の70歳以上の高齢者を対象として、
まず基礎値として血液中の多くのリン脂質の測定を行ない、
その後5年間の経過観察を行なって、
その間にMCIと呼ばれる軽度の認知機能低下と、
アルツハイマー型認知症を発症した比率と、
リン脂質の測定値との関連性を検証しています。

これは登録の時点で認知症であった患者さんと、
最初は認知機能の低下はなかったけれど、
5年以内に認知症が発症した患者さんの、
両方が含まれています。

具体的には登録の時点で74名が認知症で、
観察期間中に正常から認知症に進行した方が28名です。
平均の発症までの期間は2.1年となっています。

ここで様々なリン脂質の組み合わせを検討すると、
特定の10種類のリン脂質の組み合わせが、
ROC曲線という手法で、
AUCが0.9以上という精度を持って、
正常と認知症との判別を可能としていました。
これは統計的に容認出来る診断能を持って、
認知症であるかどうかを判断出来、
それは症状が出現する数年前の患者さんでも、
同様に有効となる、
という結論になります。

使用された脂質は、
フォスフォチジルコリンに属する6種類のリン脂質と、
ライソフォスフォチジルコリン、
アシルカルニチンに属する2種類の脂質の10種類です。

非常に興味深い結論ですが、
これは純粋に統計的な結論で、
あくまで今回検証した525名の高齢者でのみ、
成立するデータです。

最初からある数値で診断が出来る、
という明確な推測があったのではなく、
525名のデータを用いて、
最も病気とそうでない人とを区分け出来る指標を、
計算から割り出したものに過ぎません。

それが10種類のリン脂質でなければならない、
という生理学的な根拠のようなものが、
存在している訳ではないのです。
こういう病気であれば、こうした成分は減って、
こうした成分が増えてもおかしくはないだろう、
という程度の曖昧な推論があるだけです。

従って、
もっと他の独立した集団で、
同様の検討が行なわれた上でないと、
この検査の有効性は確認はされませんし、
同時に別個の検討により、
その因果関係も明確にする必要性があると思います。

ただ、今回のデータのポイントは、
症状出現の数年前の時点で、
既に検査上は正常者との区分けが可能である、
ということで、
今後アミロイドの画像診断や、
髄液のアミロイドやタウ蛋白の測定との対比により、
意外にその有用性が確認されることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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