SSブログ

副腎偶発腫瘍の長期予後について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
副腎偶発腫の経過.jpg
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
偶発腫と呼ばれる副腎腫瘍の、
長期予後を検証した文献です。

副腎偶発腫瘍(インシデンタローマ)というのは、
その名の通り偶然見付かった副腎腫瘍のことです。

副腎は両側の腎臓のすぐ上に存在している腺組織で、
糖質コルチコイドやアルドステロン、カテコールアミンなど、
多くの身体にとって必須のホルモンを分泌しています。

副腎腫瘍は以前には、
クッシング症候群や原発性アルドステロン症など、
病気の症状から疑われて、
その後に発見される、
と言う経過を辿ることが多かったのですが、
最近ではCTやMRIの検査の普及により、
他の目的で画像の検査をして、
それで偶然発見されることが多くなりました。

つまりこれが偶発腫瘍という名前の由来です。

海外の統計では、
副腎偶発腫瘍は人口の1から4.2%に存在していて、
その殆どは特にホルモンなどは分泌しない、
非機能性腫瘍だと考えられています。

数年以上の経過観察を行なうと、
偶発腫瘍はその大きさを増すことがあるという報告がありますが、
悪性腫瘍は0.1%未満という低率です。
しかし、その5から30%で、
潜在性の副腎皮質機能亢進症が存在している、
という報告があります。

この場合の副腎皮質機能亢進症というのは、
通常より多くの電解質コルチコイド、
すなわちコルチゾールのようなステロイドホルモンが、
腫瘍から分泌されている、という意味です。

明確に血液のホルモン値が異常値を示し、
下垂体のACTHという副腎皮質刺激ホルモンが、
明確に抑制されている状態が、
クッシング症候群と呼ばれる、
顕性の副腎皮質機能亢進症です。

それに対して潜在性の副腎皮質機能亢進症は、
血液のホルモン値は正常範囲ですが、
ホルモンの反応自体が異常となっているもので、
具体的にはデキサメサゾン抑制テスト、
と言う検査で確認されます。

正常では少量(0.5から1ミリグラム)のデキサメサゾンを夜飲むと、
翌日の朝のコルチゾールは抑制されますが、
潜在性副腎皮質機能亢進症では、
その抑制が充分には働かないのです。

デキサメサゾンは比較的強力な合成ステロイドなので、
それを飲むことで身体はステロイドの過剰状態と判断し、
下垂体からのACTHは抑制されるので、
自前の副腎からのステロイドも抑制されます。
それが抑制されないのは、
要するに副腎に正常な調節を受けない細胞がある、
ということを示しているのです。

さて、
潜在性の副腎皮質機能亢進症は、
顕性のそれと比較すれば、
身体に与える影響は当然小さいのですが、
それでも肥満、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、
骨粗鬆症などの発症リスクを増加させる、
という複数のデータが存在しています。

副腎腫瘍の切除により、
そうしたリスクが低下した、という報告もありますが、
データは限られています。

問題は心筋梗塞などの発症にまで、
潜在性の副腎皮質機能亢進症が影響しているのか、
と言う点にあります。
仮にそうしたことが明確にあるとすれば、
潜在性の状態でも、
副腎の切除手術が検討される、
ということになるからです。

今回の研究はそうした点を明らかにしようとしたものです。

イタリアの複数施設において、
診断された206名の副腎偶発腫瘍の患者さんを対象として、
その平均で6年、最長で15年余の長期経過を、
後ろ向きに観察しています。

潜在性副腎皮質機能亢進症の診断は、
デキサメサゾン1ミリグラムの抑制試験で、
翌日の朝のコルチゾールが5μg/dLを越えている場合と、
3μg/dLを越えているか、ACTHが低値であるか、
尿中の遊離コルチゾールが低値であるか、
そのうちの2つ以上に当て嵌まる場合のいずれか、
と規定されています。

その結果…
 
基礎値において潜在性の副腎皮質機能亢進症が診断された患者さんは、
206 名中39名で、
それがない偶発腫の患者さんと比較して、
より年齢が高く、
糖尿病の患者さんは多い傾向にありました。
基礎値における潜在性副腎機能亢進症は、
心筋梗塞などの観察期間中の発症リスクを、
有意に3.1倍増加させていました。
このリスクの上昇は年齢とは無関係に成立していました。

観察期間終了の時点で、
基礎値では潜在性副腎皮質機能亢進症がなかった患者さんのうち、
新たに15名が診断基準を満たすようになりました。
腫瘍のサイズが開始時に2.4センチを越えていると、
その後に潜在性副腎皮質機能亢進症に進展するリスクが、
高くなることが確認されました。

経過観察中に心筋梗塞などの発症は22名で認められ、
潜在性副腎皮質機能亢進症の存在は、
そのリスクを2.7倍有意に増加させました。

つまり、潜在性副腎皮質機能亢進症を来す偶発腫瘍は、
それほど高い比率ではなく、
例数自体が少ないので、
明瞭に何かを言える、と言うレベルのデータではありませんが、
偶発腫瘍が認められた場合には、
デキサメサゾン抑制試験を行なって、
潜在性副腎皮質機能亢進症の有無を確認すると共に、
そうと診断された場合には、
心筋梗塞などの危険因子の管理を厳密に行なうと共に、
手術治療の適応についても、
慎重に検討する必要があるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(25)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 25

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0