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マンモグラフィー検診は生命予後を改善するのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マンモグラフィの有効性.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
マンモグラフィーによる乳癌検診の、
長期的な有効性についての論文です。

乳癌の検診については色々な意見があります。

現状世界的に有効性の確認されている方法は、
乳腺を押し潰すようにしてレントゲンで撮影する、
マンモグラフィーによる乳癌検診です。

マンモグラフィーによる検診によって発見された癌は、
検診を行なわずに自覚症状などで発見された癌に比べて、
その大きさは小さく、
その予後も良い、とするデータがあります。

しかし、検診は常に、
生命に影響のない癌を発見してしまう、という、
所謂「過剰診断」のリスクがあるので、
これだけでマンモグラフィーによる検診が、
受診者の生命予後を改善した、
というようには言えません。

本来は検診をした場合としない場合をくじ引きで決め、
長期の経過観察を行なわないと、
こうしたことは実証はされませんが、
実際にはこれまでに、
そうした精度の高いデータは存在していませんでした。

今回の研究はカナダにおいて、
40から59歳の年齢層の女性に、
マンモグラフィーと触診を併用した検診を毎年行なうことの、
生命予後を含む長期的な効果を検証したものです。

1980年から1985年に掛けて、
40から59歳の89835名が、
カナダの複数の健診機関で登録され、
触診でしこりの有無を確認した上で、
マンモグラフィーと触診の併用による検診を毎年行なう群と、
40代では1回のみの触診の後は、
本人の判断に任せ、
50代では毎年1回の触診の検診のみを行なう群とに分け、
5年間は定期的な検診を毎年行ない、
その後は登録後25年までの長期の経過観察を行なっています。

癌検診の評価としては、
非常に規模も大きく、
厳密な方法で行なわれているものです。

その結果…

5年間の検診期間において、
マンモグラフィー検診では44925名中666例の浸潤性乳癌が発見され、
触診のみもしくは本人の判断に任せた群では、
44910人中524例の癌が発見されました。
そのうち、観察された25年以内に亡くなった患者さんは、
マンモグラフィー群で180名、
触診や観察のみの群で171名です。
この数字だけでもほぼ明らかなように、
統計的な処理を行なっても、
マンモグラフィーの検診を行なっても行なわなくても、
その後の患者さんの生命予後には、
明確な差は認められませんでした。

検診期間後の20年の観察期間中にも、
新たな癌は発見される訳ですが、
それをトータルに解析しても、
矢張りマンモグラフィー施行群と未施行群との間で、
その後の対象者の生命予後には、
明確な差は認められませんでした。

マンモグラフィーの方が、
多くの癌を早い段階で見付けているのですが、
仮に両群で同じ数の癌が発生しているとすれば、
マンモグラフィーを行なわずに、
見落とされた癌の多くは、
実際には患者さんの予後に大きな影響を与えなかった、
ということになります。

こうした点から考えて、
マンモグラフィー検診で発見された癌の22%は、
所謂過剰診断と判断され、
マンモグラフィーの検診においては、
424人の検診あたり1人の、
見付けなくてもその人の生命予後には影響を与えない、
過剰診断が発生する可能性が考えられました。

この結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

マンモグラフィーの検診が無意味である、
ということには必ずしもなりません。

触診では発見されないような早期の癌が、
この検査で発見されていることは事実ですし、
検診以外で見付かった癌も、
触診で疑ってマンモグラフィーで診断、
というような経過は辿っているのです。

ただ、早期に癌を見付けると、
その癌が本当にその人の生命を、
脅かすような性質のものであるのかどうか、
と言う点は進行した癌より分かり難くなり、
そのため実際には放置しても問題のない病変を、
治療してしまうという不利益が必ず生じます。

今回のようにそれを全て過剰診断と断じれば、
マンモグラフィーをしてもしなくても、
生命予後には何ら差はない、
と言う結論になってしまいます。

しかし、実際にはどの段階で癌を見付けるかによって、
その後の患者さんの負担も変わりますから、
そうした点も考慮に入れないと、
検診のメリットがない、とは簡単に言い切れません。

ただ、慎重に触診を行なって、
疑いのある病変は精密検査に廻し、
常に乳腺の状態を自分で確認する作業を行なえば、
マンモグラフィーの検診をしなくても、
それほどの差は生じない、
というのはおそらく事実で、
今後の乳癌検診のあり方については、
日本でもより先入観を捨て、
まず検査ありきではない、
費用対効果の高い癌の発見法を、
検討するべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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