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ソーラ受容体によるアルツハイマー病予防効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルツハイマー病とソーラ遺伝子.jpg
今月のScience Translational Medicine誌に掲載された、
アルツハイマー病の進行を予防する、
生体内の蛋白質の作用についての論文です。

これについては某大新聞に、
こんな解説記事がありました。

【アルツハイマー病から脳守るたんぱく質 阪大チーム解明】
アルツハイマー病の原因とかんがえられている物質の分解を進めるたんぱく質を、大阪大などの研究チームが見つけた。もともと脳内にあり、病気から脳を守る働きをしているらしい。新しい予防、治療法の開発につながる可能性があるという。

これは色々な意味で微妙な記事です。

この記事を読むと、
日本の研究者が主導して、
研究を行なったように読めます。

しかし、実際の文献では、
トップネームはドイツの研究機関に属する、
海外の研究者の名前で、
ドイツ、日本、アメリカ、デンマークの研究機関の共同研究となっています。
ただ、大阪大の高木順一先生が、
Coresponding authorという、
全体の取りまとめ役のようなポジションにあるので、
「阪大チーム」という名称も間違いではないのです。
しかし、ちょっと言い過ぎのような気がします。

また、上記の記事では、
くだんのアルツハイマー病予防効果のある蛋白質を、
初めて発見したように書かれていますが、
それも正確ではありません。

ここでアルツハイマー病予防効果を持つとされているのは、
ソーラ(SORLA)という蛋白質ですが、
この物質は脳内に存在していることが、
1996年には既に同定されていて、
アルツハイマー病で脳内に蓄積する、
アミロイドβの前駆体であるAPPという蛋白質に、
結合して分解する性質を持つことも複数の発表があります。
更にはこの蛋白に変異があると、
特定の家族性のアルツハイマー病の原因となっている可能性のあることや、
家族性ではないアルツハイマー病が、
発症し易いことも報告があります。

つまり、
この蛋白質にアルツハイマー病の予防効果のあることは、
これまでにほぼ明らかになっていることで、
今回初めて判明した事実ではありません。

それでは、
今回の研究の何が新しいのかと言うと、
まずこのソーラ蛋白を過剰に発現するように遺伝子操作した、
特殊なネズミを用いて、
細胞レベルの検討ではなく、
動物実験において、
明瞭にこの蛋白質が、
脳のアミロイドβ蛋白の蓄積を阻害することを証明している、
と言う点にその1つがあります。

もう1つはこれまでの考えでは、
ソーラ蛋白の効果は、
APPの阻害にあると考えられていたのですが、
今回の検討においては、
アミロイドβそのものに結合して、
それを細胞の不要な物質を分解する、
リソゾームという小器官へと選択的に運ぶ、
というメカニズムを持つことを、
初めて明らかにしています。

こうした点が、
これまでの研究より、
ソーラ蛋白の役割を解明するものとして、
評価されているのです。

ただ、これはまだネズミの実験レベルの話で、
具体的に人間でこの蛋白の発現を増やすような方法も、
その安全性や効果の検討も行なわれてはいませんから、
仮にこの知見がアルツハイマー病の臨床に結び付くとしても、
それはまだかなり先の話になりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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