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異所性甲状腺内胸腺腫の超音波画像 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
異所性甲状腺内胸腺腫の画像所見の文献.jpg
2012年のJournal of Clinical Ultrasoundという、
聞き慣れない雑誌に掲載された、
小児の異所性甲状腺内胸腺腫という、
特殊な疾患の超音波画像についての韓国の文献です。

お子さんの甲状腺の超音波検査において、
大人とは異なる所見として注意の必要なものの1つが、
異所性甲状腺内胸腺腫です。

1980年代には既に隈病院の先生による報告があるのですが、
日本で超音波の教科書などを見ても、
殆ど記載はありませんし、
画像など全く載っていません。
しかし、診療所でお子さんの甲状腺の超音波検査をしていても、
時々所見がありますから、
そう珍しいものではありません。

異所性甲状腺内胸腺腫とは何でしょうか?

胸腺というのは、
心臓の前面に存在する腺組織で、
主にT細胞と呼ばれるリンパ球の産生や分化を行なっています。

その大きさは思春期をピークとして縮小し、
次第に脂肪組織に置き換わります。

甲状腺は首にあり、
胸腺は胸の心臓の位置にありますから、
本来は別個の組織で、
そのある場所も違います。

しかし、
発生の過程においては、
咽喉の位置にあった胸腺が、
次第に下がって来て胸に位置するようになるので、
何らかの異常により、
胸腺の一部が甲状腺くらいの高さに、
残ってしまうことがあります。
甲状腺の横の位置に残ることもありますし、
甲状腺の中に巻き込まれるようにして、
胸腺の組織が残存することもあります。

ここでポイントは、
小さなお子さんにおいては、
甲状腺の中に胸腺腫が残るケースが、
意外に多い、ということと、
そうした場合にそれを甲状腺のしこりと鑑別することが、
意外に難しい、ということにあります。

実際にそうした事例の報告もあります。
こちらをご覧下さい。
甲状腺内胸腺腫の手術事例論文.jpg
これは1997年のJournal of Pediatric Surgery誌に掲載された、
症例報告ですが、
6歳の少年がスクリーニング目的の甲状腺超音波検査で、
左の甲状腺に8ミリ大のしこりを認められ、
穿刺吸引細胞診を行なったところ、
異形成のあるリンパ球様の細胞が検出されたため、
甲状腺髄様癌の疑いで甲状腺左葉の切除手術を受けたのですが、
摘出された組織を詳細に検討したところ、
異所性の胸腺腫で悪性ではなかった、
という事例です。

その超音波画像がこちらです。
甲状腺内胸腺腫の手術事例の画像.jpg
画像が悪いのですが、
矢印で示された黒い紡錘形の部分が、
異所性の甲状腺内胸腺腫です。
内部には粗大な白っぽい部分があるようですが、
この画像でははっきりしません。

ポイントの1つは矢張り、
形状にあるように思います。
癌は通常はこのような紡錘形のような形態は取りません。

教訓として小児の甲状腺のしこりでは、
悪性を疑って手術をしても、
異所性胸腺腫の可能性が否定出来ないケースでは、
術中にその確認をしてから切除を行なった方が良い、
という結論になっています。

他に31歳で甲状腺内胸腺腫が見付かった、
という症例報告がありますが、
これは極めて稀なケースで、
殆どは思春期かそれ以前です。

それでは最初の文献に戻ります。

こちらでは3195例のお子さんの甲状腺の超音波検査の結果を検討して、
そのうちの0.4%に当たる12例で、
異所性胸腺腫が疑われたとしています。
何らかの疑いがあって検査をされたお子さんからの集計ですから、
頻度はあまり意味のあるものではありません。
年齢は2歳から14歳です。
片側の甲状腺のやや下の位置に見られるのが典型的ですが、
3例は両側に病変が認められています。
大きさは大きなもので2センチ程度です。

取り上げられた画像を幾つか見て頂きます。
まずこちら。
甲状腺内胸腺腫画像1.jpg
甲状腺の横切りの超音波画像で、
説明はありませんが食道の憩室が見えています。
白い矢印の先に、
やや黒っぽく見えていて、
中にキラキラするような白い点が見えるのが、
甲状腺内胸腺腫の所見です。

では次を。
甲状腺内胸腺腫画像2.jpg
同じ事例の縦切りですが、
矢印の先の紡錘形の部分が胸腺腫です。
黒い中にキラキラした白い点が、
矢張り特徴的です。

では次の事例です。
甲状腺内胸腺腫画像3.jpg
矢張り矢印の先に、
縦長の病変があり、
黒い中に線状や点状の白い部分が散在しています。

このように異所性の甲状腺内胸腺腫は、
形は紡錘形で縦に長く、
辺縁は比較的奇麗で乱れはなく、
病変全体はエコーレベルが低く黒く見えるのですが、
内部に白い粗大な点や線状の構造を認めるのが特徴です。
乳幼児では、正常な胸腺の上縁が、
しばしば甲状腺の下縁に接していますから、
同種の構造物を甲状腺の下方に認めれば、
より診断の確実性は増します。

その一般の人口における頻度は、
これまで不明でしたが、
2013年12月のPLOS ONEに掲載された、
福島以外の地域での小児甲状腺検診の結果において、
明確な頻度が示されています。

それについては明日改めてご紹介したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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