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妊娠中の抗うつ剤の使用と自閉症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
自閉症スペクトラムとSSRI.jpg
昨年12月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
自閉症と妊娠中の女性の抗うつ剤の使用との、
関連性を検証した論文です。

結論は明快なものではありませんが、
現代では非常に身近な問題ですから、
一定の信頼の置ける大規模なデータが、
発表された意義は大きいと思います。

ただ、これは非常に微妙な問題で、
まだ結論の出ているものではないので、
どうかくれぐれも慎重にお読み頂ければと思います。

自閉症はより大きくはアスペルガー症候群などを含めて、
「自閉症スペクトラム障碍」と呼ばれ、
他人の感情を理解したり、
他人と信頼関係を築いたりすることが苦手で、
社会生活において多くの困難を有するという特徴があります。
人口の100人に1人という頻度の多さから、
単なる病気と言う捉え方ではなく、
人間社会において常に対応するべき人間的な課題とも言えます。

自閉症スペクトラム障碍の患者さんから、
多くの天才が生まれ、
人間社会の活力や進歩の源泉の1つが、
そうした方の能力を活かすことにあるのは、
歴史が教える事実です。

ただ、その一方で自閉症スペクトラム障碍のお子さんが、
近年世界的に増えていることは事実で、
それが何故なのかと言うのは、
未だに結論の出ていない疑問です。

2011年のArch Gen Psychiatryという医学誌に、
妊娠中にSSRIと呼ばれる抗うつ剤を使用していると、
生まれたお子さんが自閉症スペクトラム障碍になるリスクが、
2倍に増加するとする論文が発表されました。

SSRIは脳内伝達物質であるセロトニンを、
選択的に増加させる作用を持った抗うつ剤で、
胎盤を移行するので、
妊娠中にこの薬を飲んでいると、
その一部はお子さんの体内にも入ります。
一方で自閉症スペクトラム障碍の患者さんの血液中には、
そうでないお子さんよりセロトニン濃度が高い、
とする報告もあります。
つまり、胎生期にセロトニンが高いレベルに誘導されることにより、
脳の発達に影響を与えて自閉症が生じる、
というような仮説を想定すると、
妊娠中のSSRIの使用と自閉症の増加とは、
無関係ではないという考え方が出来るのです。

しかし、2011年の論文では、
自閉症スペクトラム障碍のお子さんは、
298名しか対象となっていませんから、
これだけの数で結論を出すのは危険です。

そこで今回の文献においては、
国民総背番号制を取っているデンマークにおいて、
1996年から2005年に出生した626875人を全追跡調査するという、
大規模な方法を取り、
自閉症スペクトラム障碍のお子さん、3892例を抽出しています。
これは1年間に10万人当たり77.0人の発生率となります。
妊娠中にSSRIを使用していた女性42400人の追跡調査では、
そのうち52例の自閉症スペクトラム障碍が診断され、
これは1年間に10万人当たり122.6人の発生率となります。
これだけを見ると、
矢張りSSRI使用との関連がありそうに思えますが、
他に影響を与える因子を補正して検証すると、
リスクは1.20倍で、95%信頼区間は0.90~1.61となり、
下限が1未満なので、
統計的な有意な増加とは認められませんでした。

発症率の数字は、
最初の100人に1人というものとはかなりの開きがありますが、
100人に1人というのは、
診断がされない事例も含んで、
そうした傾向のあるお子さんはそのくらいになる可能性がある、
という意味合いで、
年間10万人当たり77人という数字は、
実際に診断された事例の数なので、
そうした結果になっているものと思われます。

一方で妊娠中ではなく、
妊娠より前にSSRIを使用していた女性のお子さんでは、
そうでないお子さんと比較して、
自閉症スペクトラム障碍のリスクが1.46倍に増加していました。
これは95%信頼区間が1.17~1.81ですから、
統計的に意味のある増加です。

要するにお母さんが、
SSRIを使用する必要があるような病気をお持ちの場合に、
若干ながらお子さんの自閉症スペクトラム障碍のリスクは、
増加する可能性がありますが、
それはSSRIの直接作用によるものではない可能性が高い、
という結論です。

自閉症スペクトラム障碍の発症は、
単純に薬剤の影響やお母さんのご病気や体調などで、
全て説明が付くものではありませんから、
これはあくまで1つの切り口を示したものに過ぎない、
と言う点には注意が必要です。

繰り返しになりますが、
現時点ではSSRIを仮に妊娠中に使用しても、
明確にそれで自閉症が増えたという根拠は乏しい、
というのが現時点での結論です。

ただ、それでは両者が全くの無関係かと言うと、
そうとも言い切れず、
この問題は今後も引き続き議論される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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myu

「自閉症と妊娠中の女性の抗うつ剤の使用との関連性を検証した論文」としましては、最新のものが米国小児科学の"Pediatrics"に発表されております。

Harrington et al による"Prenatal SSRI Use and Offspring With Autism Spectrum Disorder or Developmental Delay"で、先日(4月14日)掲載されたものです。

http://pediatrics.aappublications.org/content/early/2014/04/09/peds.2013-3406

母親と子供、966組を対象としたもので、大規模なものではありませんが、それでもオッズ比が自閉症で3.22、発達遅延は4.98と、非常に高いのが目を引きます。

特に男子で妊娠第三期のexposureとの関連の高さは驚きです。
by myu (2014-04-23 05:11) 

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