日本の3地域の小児甲状腺超音波検診結果について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2013年12月のPLOS ONE誌に掲載された、
福島以外の日本の3地域における、
小児甲状腺超音波検診の結果をまとめた論文です。
福島でかつてない規模の、
小児甲状腺超音波検診が行なわれていますが、
それと比較するべき、
被ばくの影響が考えられない地域での、
お子さんのデータを取ることが、
その主な目的です。
対象は3歳から18歳までのお子さんで、
青森で1630名、山梨で1366名、長崎で1369名が、
今回集計されています。
これだけ多くの健康なお子さんの甲状腺の検診データは、
これまでにあまり例のないものだと思います。
その結果をかいつまんでご説明します。
まずこちらをご覧下さい。
年齢で補正した甲状腺の嚢胞と結節の頻度を示したものです。
5ミリ以下の嚢胞はお子さんの半数で認められるので、
病的な意味は殆どないことが分かります。
5ミリを超える嚢胞の頻度が3.82%、
5ミリを超える結節の頻度が0.99%です。
お示しはしませんが地域差は殆どありません。
5ミリを超える病変については女児に多い性差が認められます。
では次をご覧下さい。
年齢毎のしこりの頻度を見たものです。
元の図から年齢の与える影響を計算した、
統計の数値の部分をカットしています。
5ミリを超えるしこりは、
5歳以降で増えて来ることが分かります。
10歳未満でそうしたしこりがあれば、
それが嚢胞であっても、
経過を見た方が良いと思われます。
年齢と共に増加すると言うことは、
長い期間を掛けて徐々に大きくなる、
ということを示唆しているように思われます。
そのうちで治療を要するようなものは、
極僅かであると考えられます。
ここではお示ししませんが、
女児に多い性差は、
10歳以降で明瞭となって来ます。
つまり性差に関わりのある、
何らかの増殖因子があると、
考えるのが妥当です。
では次をご覧下さい。
個人的には今回のデータで、
最も興味のあったものですが、
甲状腺腫瘍以外の異常所見の頻度と、
その年齢による変化を見たものです。
一番上のEctopic thymusと書かれているのが、
異所性胸腺腫で、
その多くは甲状腺内胸腺腫と思われます。
トータルでは1.95%にあたる85例で認められています。
年齢では特に5から9歳での検出頻度が高く、
4.49%に達しています。
10から14歳くらいも多いのですが、
15歳以降はグッと少なくなります。
これまで多数例での検討や明確な頻度は不明でしたから、
今回のデータの意義は大きいと思います。
この所見の詳細は、
昨日のブログ記事をご覧下さい。
今回検査が行われた3地域の1つである長崎では、
250名のお子さんの甲状腺超音波検査の結果が、
2001年の日本内分泌学会誌に発表されています。
その研究の趣旨は、
チェルノブイリの被ばく地域のゴメルのデータを、
長崎と比較することにあり、
結論としてゴメルでは甲状腺腫も結節の頻度も多かったのですが、
日本では250名の検査で、
5ミリを超える充実性の結節は、
1例も検出されなかった、
という結果でした。
2001年の報告で0%の結節が、
今回は0.99%は存在しているのですから、
その差はどうしてなのか、という疑問は当然起こります。
上記の文献のその点についての説明は、
主に検査機器の進歩により、
多くの異常が検出可能となったためではないか、
というものです。
ただ、以前にも書きましたが僕はこの見解は疑問に思います。
1990年代の初めには、
僕は大学で甲状腺の超音波検査を担当していましたが、
当時既に機器の性能はかなり進歩し、
少なくとも5ミリを超える結節が、
そう見落とされたとは考えられません。
それでは何故こうした結果になったのかと言えば、
僕の見解は2001年の検査が、
そもそも長崎ではゴメルと比較して異常が少ない、
という想定の元に行われたものであったので、
そのバイアスがかなり強く掛かり、
端的に言えばあまり積極的に異常を検出しよう、
というような検査ではなかったためではないか、
と考えます。
ですから、あまり2001年の文献の数値については、
そもそも所見の検出基準自体が曖昧ですし、
無視しても良い性質のものではないかと思います。
いずれにしても今回のデータは、
今後の小児の甲状腺の超音波検診を考える上で、
多くの情報を提供してくれる、
非常に有意義なものだと考えます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2013年12月のPLOS ONE誌に掲載された、
福島以外の日本の3地域における、
小児甲状腺超音波検診の結果をまとめた論文です。
福島でかつてない規模の、
小児甲状腺超音波検診が行なわれていますが、
それと比較するべき、
被ばくの影響が考えられない地域での、
お子さんのデータを取ることが、
その主な目的です。
対象は3歳から18歳までのお子さんで、
青森で1630名、山梨で1366名、長崎で1369名が、
今回集計されています。
これだけ多くの健康なお子さんの甲状腺の検診データは、
これまでにあまり例のないものだと思います。
その結果をかいつまんでご説明します。
まずこちらをご覧下さい。
年齢で補正した甲状腺の嚢胞と結節の頻度を示したものです。
5ミリ以下の嚢胞はお子さんの半数で認められるので、
病的な意味は殆どないことが分かります。
5ミリを超える嚢胞の頻度が3.82%、
5ミリを超える結節の頻度が0.99%です。
お示しはしませんが地域差は殆どありません。
5ミリを超える病変については女児に多い性差が認められます。
では次をご覧下さい。
年齢毎のしこりの頻度を見たものです。
元の図から年齢の与える影響を計算した、
統計の数値の部分をカットしています。
5ミリを超えるしこりは、
5歳以降で増えて来ることが分かります。
10歳未満でそうしたしこりがあれば、
それが嚢胞であっても、
経過を見た方が良いと思われます。
年齢と共に増加すると言うことは、
長い期間を掛けて徐々に大きくなる、
ということを示唆しているように思われます。
そのうちで治療を要するようなものは、
極僅かであると考えられます。
ここではお示ししませんが、
女児に多い性差は、
10歳以降で明瞭となって来ます。
つまり性差に関わりのある、
何らかの増殖因子があると、
考えるのが妥当です。
では次をご覧下さい。
個人的には今回のデータで、
最も興味のあったものですが、
甲状腺腫瘍以外の異常所見の頻度と、
その年齢による変化を見たものです。
一番上のEctopic thymusと書かれているのが、
異所性胸腺腫で、
その多くは甲状腺内胸腺腫と思われます。
トータルでは1.95%にあたる85例で認められています。
年齢では特に5から9歳での検出頻度が高く、
4.49%に達しています。
10から14歳くらいも多いのですが、
15歳以降はグッと少なくなります。
これまで多数例での検討や明確な頻度は不明でしたから、
今回のデータの意義は大きいと思います。
この所見の詳細は、
昨日のブログ記事をご覧下さい。
今回検査が行われた3地域の1つである長崎では、
250名のお子さんの甲状腺超音波検査の結果が、
2001年の日本内分泌学会誌に発表されています。
その研究の趣旨は、
チェルノブイリの被ばく地域のゴメルのデータを、
長崎と比較することにあり、
結論としてゴメルでは甲状腺腫も結節の頻度も多かったのですが、
日本では250名の検査で、
5ミリを超える充実性の結節は、
1例も検出されなかった、
という結果でした。
2001年の報告で0%の結節が、
今回は0.99%は存在しているのですから、
その差はどうしてなのか、という疑問は当然起こります。
上記の文献のその点についての説明は、
主に検査機器の進歩により、
多くの異常が検出可能となったためではないか、
というものです。
ただ、以前にも書きましたが僕はこの見解は疑問に思います。
1990年代の初めには、
僕は大学で甲状腺の超音波検査を担当していましたが、
当時既に機器の性能はかなり進歩し、
少なくとも5ミリを超える結節が、
そう見落とされたとは考えられません。
それでは何故こうした結果になったのかと言えば、
僕の見解は2001年の検査が、
そもそも長崎ではゴメルと比較して異常が少ない、
という想定の元に行われたものであったので、
そのバイアスがかなり強く掛かり、
端的に言えばあまり積極的に異常を検出しよう、
というような検査ではなかったためではないか、
と考えます。
ですから、あまり2001年の文献の数値については、
そもそも所見の検出基準自体が曖昧ですし、
無視しても良い性質のものではないかと思います。
いずれにしても今回のデータは、
今後の小児の甲状腺の超音波検診を考える上で、
多くの情報を提供してくれる、
非常に有意義なものだと考えます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2014-01-10 08:12
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