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特発性間質性肺炎に対する胃酸抑制療法の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
特発性間質性肺炎に対する酸抑制の効果.jpg
今月のLancet Respiratory Medicine 誌に掲載された、
肺の病気の進展予防に対する、
胃酸抑制剤の効果についての論文です。

特発性間質性肺炎(肺線維症)は、
肺の間質と呼ばれる部分が肥厚し、
次第に線維に置き換わって、
肺炎などの急性増悪を繰り返しながら、
悪化してゆく原因不明の病気で、
ある種の体質を持つ人が、
加齢や感染症、喫煙などの誘発因子の影響で、
発症すると考えられていますが、
その原因の詳細はまだ不明です。

ステロイドや免疫抑制剤などを含めて、
多くの治療が試みられてはいますが、
その治療成績はまだ満足のゆくようなものではありません。

この特発性肺線維症の患者さんでは、
胃酸が食道や咽喉まで逆流する、
胃食道逆流症の頻度が多い、
という疫学データがあり、
胃食道逆流症が特発性肺線維症の増悪因子ではないか、
という見解があります。

急性増悪を来した肺線維症の肺から、
胃酸の成分が検出された、
という報告もあり、
このことは逆流した胃酸が気管に入り、
それが誤嚥性の肺炎の原因となって、
肺線維症の急性増悪に結び付いているのではないか、
という可能性を示唆しています。

プロトンポンプ阻害剤を使用している患者さんは、
そうでない患者さんより生命予後が良いのではないか、
という報告も最近見られますが、
まだ確認されたものではありません。

今回の文献では、
そうした疑問により精度の高いデータで答えるため、
これまでに行なわれた3つの臨床試験のデータより、
治療薬ではなく偽薬を使用した、
特発性肺線維症の患者さんを抽出し、
その背景から胃酸を抑制する治療を行なっている群と、
行なっていない群に分けて、
その後の経過を検証しています。

患者さんの数はトータルで242名で、
そのうち51%に当たる124名が、
プロトンポンプ阻害剤もしくはH2ブロッカーという、
胃酸抑制剤を使用しています。

30週間の経過観察期間において、
肺活量の減少量は、
胃酸抑制療法施行群では平均0.06リットルでしたが、
未使用群では0.12リットルと倍近い開きがあり、
この差は統計的にも有意なものでした。

肺活量の減少が少ないということは、
それだけ肺線維症の進展が抑制されている、
ということになりますから、
この結果は30週間という短期間においても、
胃酸を抑える薬の継続的な使用により、
肺線維症の予後の改善効果が期待出来る、
ということになるのです。

ただこれは、
最初から胃食道逆流症と肺線維症を合併している患者さんを、
エントリーして開始したような介入試験ではありませんから、
そのデータの質は、
それほど高いものとは言えません。

胃酸を抑える薬を使用している患者さんの全てで、
胃食道逆流症の診断が、
しっかりされている、
という訳ではありませんし、
実際にその使用により、
どれだけ胃酸の逆流が抑制されていたのかも分からず、
本当にそれが肺活量の低下の抑制に結び付いていたのか、
という部分も不確かです。
胃酸の抑制には弊害もありますから、
その点が予後に与える影響も、
もっと検証する必要があります。

従って、
今後精度の高い介入試験の実施が、
確認のためには不可欠ですが、
胃酸を抑制する治療が、
肺の難病の予後改善に結び付く可能性がある、
という指摘は、
今の患者さんの治療に直結するものなのですから、
その意義は大きく、
早急な検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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テツ

こんにちわ。

先月に先生にも相談させていただいたんですが、結局、主治医には「もう少し頑張れ」ということで、タケプロンに戻してもらえず、ガスターを1日40mgの処方のままでやっていた結果、慣れたのかどういう訳か分かりませんが、何とかやれてます。

この論文の主張と、僕の主治医の主張が正反対なので、この記事を読んでいて戸惑っています・・・。
僕の主治医は、「逆流性食道炎患者のPPIのネキシウムの長期服用で間質性肺炎で去年4例の死亡例の副作用が出た」ということでした。

結局、PPIはまだ新しい薬なので、長期服用に対する症例データが少ないからよく分からないんでしょうか・・・。
by テツ (2013-06-28 12:22) 

fujiki

テツさんへ
ネキシウムの間質性肺炎は、
あくまで薬の副作用という意味で、
上記の文献の内容は、
胃食道逆流症を伴った特発性線維症においては、
胃酸を抑制することが、
増悪の抑制に役立つのでは…
ということなので、
意味合いが違います。

一般的に多くの薬で間質性肺炎の有害事象はあり、
一種のアレルギー的な機序が想定されています。
プロトンポンプ阻害剤が特殊、
ということではないと思います。

ネキシウムの間質性肺炎は、
確実ではありませんが、
因果関係を否定出来ない報告の事例が、
4例あったので添付文書を改訂した、
という意味で、
「4例の死亡」というものではなかったように思います。
by fujiki (2013-06-29 08:11) 

テツ

おはようございます。

お返事ありがとうございました。
そういう意味なんですね。
先生の説明で困惑していたのが落ち着きました。
ありがとうございました。
by テツ (2013-06-29 08:28) 

Yuko Ochiai

初めまして。以前、主人の病気でいろいろと調べていたときこちらのブログを読ませていただきました。3~4年前、主人がから咳が続き病院に行くと『特発性間質性肺炎』と診断されました。治療法がないと言われ戸惑いましたが4年間私たち家族のために頑張り、9月末亡くなりました。主人は以前から胃酸が多く出るようで、飲み会からの帰宅の後はどうやら胃の内容物が逆流するのか始終口をモグモグと動かしていました。また7年ほど前には腹膜炎で手術をして、胃に入ったチューブが抜けたのが一週間後です。また一日に三回ほど胃液を術後三日間くらい交換する日があり、医師もびっくりしていたそうです。ある時の人間ドッグで「逆流性食道炎の痕跡あり。」と言われ、お薬を服用していましたがあくまでも「痕跡」であるとのことでお薬も飲んだり飲まなかったりしていたようです。主人の『特発性間質性肺炎』も、もしかしたら逆流性食道炎に起因するのかなと思われますがここに掲載されている文献は英語ですのでよくわかりません。これが『日本語になったらな~。』と思うのです。もし日本語での資料または文献があったら、ぜひご紹介いただければ幸いだと思うのですが・・・。よろしくお願いいたします。また、fbもやっておりますので、ぜひお友達リクエストをさせていただきたいと思いますがいかがでしょうか・・・。
by Yuko Ochiai (2013-11-16 14:48) 

fujiki

Yuko Ochiaiさんへ
すいません。
今手元にはこれについての日本語の文献はありません。
ちょっと探してみますが、
気長にお待ちください。
フェイスブックは今やっていません。
by fujiki (2013-11-18 08:33) 

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