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妊娠時の貧血とその治療の意義について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠中の貧血と鉄剤の効果.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
妊娠中の貧血とその治療の効果についての論文です。

妊娠の合併症の1つとして、
鉄の欠乏による貧血は、
非常に多い病態として昔から知られています。

上記文献に引用されている海外データでは、
妊娠中の女性の38%は、
ヘモグロビンが11.0g/dl以下、
血液の比重であるヘマトクリットが33.0%未満という、
WHOの妊娠中の貧血の基準値を満たしている、
という記載があります。

つまり、
妊娠されている女性の3分の1以上の方は、
貧血がある、
ということになります。
その殆どが鉄の欠乏による、
鉄欠乏性貧血です。

女性の方では元々鉄の吸収が悪いことや、
生理による定期的な出血があることより、
鉄欠乏性の貧血の頻度が高いのですが、
妊娠中には更に胎児の発育に伴い、
鉄の必要量が増加するので、
生理の出血自体はなくなりますが、
より鉄欠乏性貧血が、
悪化し易い状態にあるのです。

妊娠中の貧血は、
胎児に影響して早期産のリスクを増加させる、
という疫学データが存在します。
また、
妊娠中に貧血があると、
分娩時に出血が生じたような時に、
よりその影響が出易い、
というリスクも想定されます。

このため、
妊娠中に鉄欠乏性貧血があれば、
鉄剤により治療することが、
積極的に推奨されて来ました。

しかし、
その一方で妊娠中には血液の水分量が増加するので、
血液はその分薄まり、
相対的に貧血状態になります。

この相対的な貧血は、
妊娠による凝固の亢進状態による、
血栓症などの発症を、
予防する役割があるとも考えられます。

つまり、
母体にとってはむしろ軽度の貧血は、
血栓症などのリスクを減らし、
妊娠中の合併症を減少させる役割も果たしているのです。

妊娠中の貧血は、
鉄剤により治療するべきなのでしょうか、
それとも軽度の貧血は、
母体の合併症のリスクを低下させることから、
むしろ治療をせずに経過を見るべきなのでしょうか?

こうした問題により明確な回答を与えるために、
今回の研究においては、
これまでの臨床試験のデータをまとめて解析し、
母体の鉄欠乏性貧血の胎児への影響と、
それに対する鉄剤による治療の効果を、
検証しています。

その結果…

特に第1及び第2四半期における鉄欠乏性貧血は、
胎児の早期産及び低体重のリスクを、
有意に増加させました。

そして、
1日66mgまでの使用において、
鉄剤の治療は貧血のリスクを、
用量依存的に低下させ、
低体重のリスクもそれに伴い低下しました。

つまり、
特に妊娠前半期の鉄欠乏性貧血は、
胎児の低体重や早期産のリスクを増加させるので、
1日の鉄として66mgまでの範囲においては、
その補充は胎児の成長な発育に対して、
有益な可能性が高いと考えられたのです。

明確に鉄欠乏のパターンで、
ヘモグロビンが11.0g/dl未満であれば、
胎児の正常な発育のために、
1日66mgくらいまでのレベルにおいて、
鉄分の補充を行なうことは、
概ね妥当で、
妊娠中の母体の健康に対しても、
悪影響はないものと考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

こはく

いつもわかりやすいお話をありがとうございます。
妊娠中の貧血は必ずしも悪いとは限らないのですね。
私は妊娠24週くらいまで悪阻がひどく食べられず
ようやく治まったころに貧血になり鉄剤を処方され
内服により吐き気が出て食欲がなくなり
結局ほとんど栄養を摂れないまま出産になりました。
鉄剤より普通の食事を摂れた方がよかったのではないかと
思ったものでしたが。
by こはく (2013-06-29 09:03) 

fujiki

こはくさんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
鉄剤は副作用のため飲めない方が多く、
改良が必要だといつも思いますが、
なかなか実現をしないようですね。
by fujiki (2013-07-01 06:00) 

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