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「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」を考える [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
不眠症ガイドライン.jpg
先週の6月13日に、
上記の睡眠薬の適正使用についてのガイドラインが、
発表されました。

ただ、450を越える引用文献番号表示が、
ガイドラインには記載されていますが、
文献の一覧はまた後日公開、
とされています。

優柔不断な解説より、
引用文献の方が遥かに役に立つのに、
それは記載されていないのですから、
がっかりですが、
そのうち…を待つしかありません。

一応全文を読んで、
その内容を僕なりにまとめておきたいと思います。

不眠症に対する安易な睡眠導入剤の使用が、
薬剤依存症などの多くの問題を引き起こし、
実際に離脱症状に苦しんでいる患者さんも多く存在しています。

抗鬱剤やベンゾジアゼピン系の抗不安薬と共に、
睡眠剤の乱用や依存は、
現代の医療の大きな問題の1つです。

一方で不眠症が増えていることも事実で、
これは高齢化や、
昼夜の区別が不明瞭となり、
生物に不可欠な慨日リズムを保つことの困難な、
現代の社会状況と切り離せない問題でもあります。

つまり、
社会生活や日常生活に影響を与え、
その維持を妨げるような不眠や睡眠障碍については、
薬物を含めた治療の対象となる、
ということになります。

現在不眠症の治療の主体として処方されているのは、
ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤や抗不安薬で、
歴史的にはこうした薬は、
それ以前に使用されていたバルビタールなどと比較すると、
遥かに安全性の高い薬です。

ただし、
その安全性から、
「取り敢えずこれを飲んでみて」
というように、
安易に処方が行なわれ過ぎた側面があり、
それが最初に書いたような、
依存症や耐性、離脱症状などの原因となっています。

ここにおいてポイントは、
これから不眠の治療を始める患者さんに対する、
適切な治療のあり方と、
現在不適切な治療が継続されていたり、
薬を止められなかったり、
薬の副作用に苦しんでいる患者さんに対して、
どのように対応するか、
という点にあります。

ガイドラインの題名にある「出口を見据えた」というのは、
そうした意味ですが、
何となく「日銀の出口戦略」のようで、
言葉の使用に個人的には違和感があります。

そうした点について、
上記のガイドラインは、
どのような回答を提示提しているでしょうか?

まず不眠症の治療については、
薬物治療の適応となる不眠症の場合、
薬剤としては極力ベンゾジアゼピンを避け、
メラトニン受容体作動薬のラメルテオン(商品名ロゼレム)か、
非ベンゾジアゼピン系とされている、
ゾルピデム(商品名マイスリーなど)、
ゾピクロン(商品名アモバンなど)、
エスゾピクロン(商品名ルネスタ)の、
いずれかを選択することとされています。

こちらをご覧下さい。
睡眠剤一覧.jpg
ガイドライン中にある睡眠剤のリストで、
商品名は先発品のもののみが記載されています。

ベンゾジアゼピンと総称される薬剤は、
抗不安薬と睡眠剤がありますが、
そのいずれもが、
依存性と中断時の離脱症状の強いことで知られています。

そのため、
今回のガイドラインでは、
明確にベンゾジアゼピンの処方を推奨せず、
それ以外の薬剤を推奨する、
という方針を取っています。

薬は少量から始めて常用量まで、
必要に応じて増量されますが、
2剤以上の併用療法には否定的な見解で、
短時間作用型のハルシオンに、
中間作用型のサイレースを併用して、
睡眠導入作用と睡眠の持続作用の両方を狙う、
というようなよくある処方は、
その有効性が確認されていないとされています。

特に3剤を越える睡眠剤や抗不安薬の、
睡眠障害に対する処方に関しては、
これも明確に否定しています。

睡眠剤の処方の継続期間については、
必ずしも明確な期間は記載されていません。

薬物療法はその不眠による症状が改善し、
患者さんの生活の不安が解消してから、
4~8週間はそのままの処方を継続し、
その後に徐々に減量から離脱を試みる、
とされています。

これをそのまま一般臨床で考えると、
処方開始後半年くらいは継続することが、
想定されます。

それだけの期間睡眠剤を継続使用していて、
果たして依存や離脱症状の問題は生じないのでしょうか?

ガイドラインに引用されている知見としては、
ベンゾジアゼピンの基礎薬であるジアゼパムを、
継続的に使用していると、
処方期間が8カ月未満では、
離脱症状は患者さんの5%未満した生じなかったのに対して、
8ヵ月を越える処方においては、
43%に増加したとされています。
一方で非ベンゾジアゼピン系のゾルピデムでは、
半年~1年の継続使用においても、
依存や離脱は生じなかった、
というデータがあります。

ここから考えると、
ガイドラインの作成者の所見としては、
非ベンゾジアゼピン系の薬剤を使用して、
半年~1年で離脱を図るという治療経過が、
一応想定されているようです。

減量の際には、
1錠の4分の1くらいのペースで、
減量の度に2週間くらいの時間は掛けます。
アシュトンマニュアルにある、
ジアゼパムに置換しての減量などは、
根拠が明確でない、と、
どちらかと言えば否定的な見解です。

ガイドラインにはなるほどと思う点も多くありますが、
疑問に思う点もあります。

まず、
非ベンゾジアゼピン系という括りで、
ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロンを推奨していますが、
本当にこの3種類の薬剤は、
ベンゾジアゼピンより優れていて安全性の高い薬と言えるのか、
という点についての疑問です。

確かに海外の文献でも、
この3種の薬剤を単独で取り上げたものは、
概ね良い成績が発表されています。

しかし、
ベンゾジアゼピンのリスクを解析したような文献では、
その多くでゾルピデムやゾピクロンも、
ベンゾジアゼピンと同じ種類の薬剤として記載され、
そのリスクは全ての薬剤に多かれ少なかれ存在するもの、
という記載になっています。

構造的に言っても、
両者の薬剤は全くの別物ではなく、
一種の改良型ベンゾジアゼピンであって、
同じ性質も多く持っている薬であることも確かです。

現状の臨床においても、
多くの先生がベンゾジアゼピンの処方を、
やや強引に非ベンゾジアゼピン系の薬剤に切り替えていますが、
患者さんの症状はそれにより悪化し、
却って不安定になっている事例を、
最近しばしば目にします。

個人的には、
現状初回治療の選択肢としては、
非ベンゾジアゼピン系の薬剤やメラトニン受容体作動薬を、
第1選択にするのが妥当とは思いますが、
現在ベンゾジアゼピンで安定している患者さんの処方を、
変更することが必ずしも患者さんにとってメリットがある、
とも言い切れませんし、
非ベンゾジアゼピンなら安心、
という短絡的な考えも危険なように思います。

次に使用期間に関しては、
症状が安定してから4~8週以上という規定は、
あまりに曖昧ですし、
難治性の不眠症状では、
当然安定には時間が掛かり、
場合によっては安定には達しないケースも想定されますから、
もう少し難治の事例の対応や、
典型的な治療経過なども具体的に示さないと、
どのようにも解釈が可能で、
あまりガイドラインの体を成していないように思います。

最後に一読して最も納得のいかなかった点をお示しして、
今日の記事は終わりたいと思います。

ガイドラインにおいては、
アトピーなどの痒みのために、
不眠が生じている患者さんへの対応として、
眠気の強いタイプの
抗ヒスタミン剤を使用することを、
翌日の認知機能への影響等もあることから、
明確に否定しています。

眠気の強い風邪薬やかゆみ止めを、
睡眠薬代わりに使用することは、
非常に一般的に行なわれていますが、
それは完全な誤りだ、
という指摘です。

痒みの強い抗アレルギー剤である、
第1世代の抗ヒスタミン剤を使うという行為は、
世界の物笑いの種になっている、
というようなニュアンスの、
非常に強い否定です。

その一方で、
日本においては、
ドリエルという商品名で、
その第1世代の抗ヒスタミン剤が、
不眠症治療の市販薬として、
立派に薬局で売られています。

こんな矛盾する事態はない筈ですが、
驚いたことに、
ドリエルのことを記載した上記のガイドラインのパートでは、
その使用は完全に否定はされず、
あまり根拠はないし、
弊害もない訳ではないので、
注意して使用するべき、
というような曖昧な書き方になっています。

つまり、
上記のガイドラインにおいては、
不眠治療の補助としての第1世代の抗ヒスタミン剤の使用を、
医師の処方としては、
明確に否定しておきながら、
市販薬については、
限定的ですが容認する、
という矛盾する記載がされているのです。

この一事をもってしても、
このガイドラインの怪しさが分かりますが、
こうした市販薬の危険性には目を瞑って販売に手を貸し、
医療者に対しては、
徹底して非難の目を向ける行政や一部の専門家の姿勢は、
全てにおいて一貫したもののように僕には思えます。

最後に誤解のないように補足しますが、
上記の不眠症の治療の記載は、
あくまでうつ病に伴う不眠などには当て嵌まらず、
明確な精神疾患などに伴う不眠を、
除外した場合の話です。
うつ病に伴う不眠では、
場合によってはより長期の睡眠導入剤の使用も容認され、
多剤の併用やベンゾジアゼピンの使用も、
その必要性によっては容認される、
というのがガイドラインの基本的な見解です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 19

テツ

おはようございます。
私は、当初、デパス0.5mgのみで5時間ぐらい眠れていたのが、今のクリニックに変わってから、デパスにハルシオン0.25mgとレンドルミンを追加する結果に至っています。

いま思えば、デパスの大量投与(3mg)のほうが良かったと思います。
これだけ飲んでいても中途覚醒・早朝覚醒がありますし・・・。
ハルシオンの離脱症状は強いと聞きますし・・・。
by テツ (2013-06-18 09:20) 

さそり君

僕は最初はレンドルミン0.25mgでしたが翌日に持ち越してしまうのか日中(特に午前中)が眠たくてアモバン7.5mgに替えてもらいましたが何だか苦くって・・・
今度は何にしてもらいましょうか?ってところです。
マイスリー5mgの方が良いんでしょうかね?

ところで先生、血圧が135~85って高いんですか?
最近、かかりつけの先生に「高い」って言われます。
by さそり君 (2013-06-18 23:18) 

fujiki

テツさんへ
コメントありがとうございます。
デパスを3mgで1回という処方は、
処方上認められない可能性が高いので、
今の先生は変更されたのかも知れません。
デパス単独の方が良くないとも、
必ずしも言い切れませんし、
また主治医の先生に、
ご相談して頂くのが良いかも知れません。
by fujiki (2013-06-19 08:25) 

fujiki

さそり君さんへ
コメントありがとうございます。
アモバン、マイスリー、ルネスタは、
同じ括りで考えて頂いて良いと思います。
アモバンは確かに苦味が問題ですね。
現行の考えでは、
理想的には120/80ですから、
少し高め、という判断になりますが、
他にご病気がなければ、
それほど気にされる必要はないと思います。
by fujiki (2013-06-19 08:28) 

ひら

いつも、半分でもわかればいいかっ!と思いつつ拝読しています。
アレルギー・喘息系と高血圧系を楽しみにしています!!

睡眠薬・抗不安薬は飲みたくないとがんばったけど不眠に苦しみました。53歳です。

内膜症で子宮を摘出しても腹痛が治まらず、卵巣を摘出したら激しい更年期症状が始まり、ホルモン補充は腹痛が再発し中止。
手術した病院に漢方の専門の先生がいるので漢方でなんとかならないかと漢方を飲み続けていますが効果はあまり出ていません。

半年間不眠とうつ状態に苦しみましたが、ホルモン補充を再開して2ヶ月。クロチアゼパムのリーゼを夜一錠一ヶ月飲んでやっと眠れるようになりました(熟睡感はあまりないけど、以前は毎日毎日フラフラだったので、すごくマシ)

非ベンゾのリーゼでも、症状が安定したら、「 4~8週間はそのままの処方を継続し、 その後に徐々に減量から離脱を試みる、」というのは当てはまるのでしょうか?
ホルモン剤がもっと効いてきたら、リーゼは飲まなくても良くなるかもしれないし、効かなくなったら増やしてもらうか、違うのに変えてもらえばいいだろうと思っていましたので。

以前アメリカでマイスリーの舌下錠少量を眠れなくなったときに飲むというのを読んだとき、これだ!と思い「夜中に眼が覚めるので、夜中に眠れなくなった時だけ飲みたいです!」と内科と婦人科の先生に相談してみたのですが、断られました。抗ヒスタミンは、アレグラを常時飲んでるので、ドリエルは無理です。

リーゼを飲み始めてから飲まない日はまだないです。効かなくなる日もくるのでしょうね。。。先生は出し続けてくれるのでしょうが、離脱できるのか、そのまま飲み続けても安定してればいいのか迷います。

by ひら (2013-06-19 21:26) 

fujiki

ひらさんへ
コメントありがとうございます。
リーゼも長期であれば、
矢張り徐々に減量が望ましいと思いますが、
それほどの時間を掛けなくても、
離脱は可能な場合が多いとは思います。
by fujiki (2013-06-19 22:17) 

ひら

先生ありがとうございます。

あまり深刻には考えずに、一年くらいを目処に減らしていけたらいいなと思います。
夜中のホットフラッシュもなくなってきたし、気持ち的にも前より格段にいいので大丈夫だと思います。ありがとうございました。

by ひら (2013-06-20 20:27) 

れおみ

こんにちは。
難しい内容でチンプンカンプンながら、先生の人柄にほっこりしながら
お邪魔しています。

不眠、不安でセレナール10を処方されています。
朝1錠、昼1錠です。
依存性のある薬ではないですか?
3ヶ月くらい飲んでいます。
by れおみ (2013-06-22 11:41) 

fujiki

れおみさんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
セレナールはベンゾジアゼピンですので、
依存は皆無ではありません。
ただ、量は少ないですし、
用量を守ってお使い頂き、
安定したタイミングを見計らって、
減量するという方針であれば、
問題はない処方ではないかと思います。
半年くらいの継続の後、
減量の方向に持っていければ、
ベストではないかと思います。
by fujiki (2013-06-22 21:02) 

midori

以前お薬についていろいろと相談させて頂きました
二十年来の不眠ですが、おかげさまで
今では殆どナリをひそめてしまい、
嬉しくも薄気味悪いような朝を迎える毎日です。
原因は複数在るのでしょうが、不思議なものですね。
そのうちゆっくりお話が出来ればなあと思っております。

by midori (2013-06-27 01:35) 

アラモード

米国に旅行に行くとサプリメントでメラトニンが容易に手に入ります。メラトニンを睡眠導入剤として使うことはできますか?
by アラモード (2013-12-09 14:19) 

fujiki

アラモードさんへ
これは効く方と効かない方がいます。
用量を守っての使用であれば、
大きな問題はないので、
一度試して頂いても良いようには思います。
by fujiki (2013-12-11 08:22) 

アラモード

先生ありがとうございました。試してみます。
by アラモード (2013-12-11 10:20) 

ピピース

もう20年ユーロジンを服用しています。しっかり眠れ、問題ないですが、変更は必要でしょうか?ちなみに1日4mgです・・・。時にドラールとデパスも使用しています。
 ロゼレムですが、これだけが販売コードの最初の3桁が異なっており、ベンゾ、非ベンゾと異なっています。この薬はそれほど特殊なのでしょうか?。抗不安薬も服用しており、3剤以上は処方されなくなると、きついこともあります。ロゼレムはこれらに含まれないのでしょうか?であれば、試してみたいところですが。でも主治医はそんな馬鹿な薬は効かないと言っています。そのため何とか今のところは3剤処方してもらっています。
 ロゼレムは武田製薬の製品なので、天下り目的でコードを変えているだけとも効いています。非常にグレーなメーカーなので心配です。(あ、ユーロジンも武田でした。)自分も腐った厚労省が嫌いなので、全く信用もできず、かと言って主治医にも迷惑はかけたくないのでどうしてよいかわからない状態です。
 今後どうすれば一番良いのでしょうか。偶然ここを見つけ、ご相談いたしました。
by ピピース (2014-01-14 22:02) 

fujiki

ピピースさんへ
ユーロジンがお身体に合っているのであれば、
無理に変更するより、
可能であれば徐々に減量する方向にもってゆくのが、
良いように思います。
ロゼレムはメラトニンの誘導体なので、
ベンゾジアゼピンとは構造も全く異なります。
完全に別箇の薬と、
お考え頂いた方が良いと思います。
効果は個人差が大きいと思います。
by fujiki (2014-01-15 08:16) 

ピピース

 ありがとうございます。少しずつ減量してみたいと思います。
 ロゼレムももう一度主治医に相談してみます。ありがとうございました。
by ピピース (2014-01-15 21:10) 

ホークス

もう3年近くベンゾ系のマイナートランキライザーを使っています。アシュトンマニュアルを読んでみましたが内容に愕然としました。もうやめられないのではないかと涙が出てきました。パニック障害の予期不安対策なのですが薬を飲むのが怖くなってしまいました。先生の診療所の患者さんで長年ベンゾを服用していた方が離脱症状もなくやめられたケースはあるのでしょうか。場合によっては先生の診療所にお伺いしようと考えています。
by ホークス (2014-01-22 22:26) 

fujiki

ホークスさんへ
勿論止められるケースは多くあります。
ただ、個人差の大きな事項だと思います。
個人的にはすぐに離脱が可能と思われても、
慎重な減量を時間を掛けて行なった方が、
安全ではないかと考えます。
飲んでいるから良くない、ということではなく、
量を減らすことも非常に重要で、
飲まれること自体に、
罪悪感を持たれることは、
却ってマイナスの結果になることが多いように思います。
by fujiki (2014-01-24 08:14) 

ホークス

迅速な回答ありがとうございます。親類が関東におりますので、次に関東に行く際先生の診療所に行こうかと思います。その際はどうぞよろしくお願いします。ありがとうございます。
by ホークス (2014-01-24 11:07) 

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