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ファンタジーの世界再び(M研究員の不思議な世界) [フィクション]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
M研究員の心臓論文.jpg
冗談ではないかと何度も目を擦ったのですが、
冗談ではありません。

今年の5月のBritish Medical Journal Case Reports誌の、
電子版に掲載された、
本物の症例報告です。

世界で初めてiPS細胞を、
心臓病の治療に使用して成功した、として、
昨年の秋に世界をアッと言わせ、
大新聞の一面を飾って、
それがどうもフェイクと分かり、
何人かの偉い先生や大新聞の方に、
とても恥ずかしい思いをさせたM研究員は、
一時は芸能界デビューかとも言われましたが、
その後は鳴りを潜めていました。

その時に書いた記事がこちら。
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2012-10-15

それが、
今年になって立て続けに3編の論文を、
同じBritish Medical Journal Case Reportsに投稿し、
一応査読があるのでは…と思うのですが、
立派に掲載されているのです。

上の画像はその中で最新のもので、
昨年世間を騒がせた、
虚血性心筋症という重症の心臓病の患者さんに、
iPS細胞から作成した心筋細胞を注入した事例を、
「事実」として公表しています。

これは全文を読むには20ドル掛かるのです。
そのためこの論文を論評したNatureのブログも、
全文ではなくアブストラクトのみを批評しています。
これがまともな人の判断ですが、
僕は全文を読まないで文献を評価することは、
絶対にしないことが信条なので、
お金を出して全文を読んでみました。

執筆者は2名です。
M研究員と共同研究をしている研究者は、
Joren Madsonさんと書かれています。
アメリカのボストンにある、
Reprogramming Incという施設に所属していて、
M研究員も日本の千葉にある、
同じ施設に所属していると書かれています。

ただ、
Natureのブログによれば、
こうした施設はアメリカと日本を問わず、
その実在が確認出来ず、
Madsonさんの実在も不明とされています。

まあ、Mさんがどういう方かを知っていれば、
このくらいで驚くことはありません。

昨年は実在の施設や先生の名前をお借りして、
その先生方に大変なご迷惑を掛けたので、
今回は共同研究者も、
純然たるファンタジーにしたのだと思います。

紹介されている事例は34歳の男性で、
肝臓癌で肝臓移植を受けた既往があり、
心不全症状で「我々の」病院を受診した、
と書かれています。
この文面で判断する限り、
ボストンか千葉にある、
謎の組織Reprogramming Incの病院、
ということのようです。

文中に病院の名称などの固有名詞や、
実際にいつ治療が行なわれたのか、
というような具体的な記載は、
一切存在していません。

患者さんは心臓バイパス手術後に、
iPS細胞から作成された心筋細胞を、
3000万個注射針で壊死した心筋に注入しました。

こちらをご覧下さい。
心筋細胞の免疫染色.jpg
これが一応その証拠の画像です。

説明によると、
Aが正常の心筋細胞の免疫染色で、
Bが注入後半年後の壊死巣から取った、
再生した心筋細胞だと、
左の説明には書かれています。
しかし、本文にはそれとは別の説明が書かれていて、
しかも3Aと3Bという図があることになっていますが、
実際にはそれもありません。
また、詳しくは補足データを参照して下さい、
のような記載がありながら、
その補足データ自体が何処にあるのか分かりません。

いつも通りのM研究員クオリティです。

説明と図は、
別々の場所から取り込んで、
そのまま切り張りして作成したものと思われます。
それであちこち辻褄が合わないところがあるのです。

患者さんは半年後の経過では、
心機能も改善して、
びっくりするほどお元気になられているそうです。

良かったですね。

ついでにこちらもお見せします。
M研究員の肝臓論文.jpg
これはもう少し前に投稿された、
最近の2番目の論文です。

これは、
M研究員の独創的なiPS細胞テクノロジーを活用して、
34歳の肝臓移植後に再発した肝細胞癌の患者さんの癌細胞を、
正常細胞にreprogrammingして治療する、
という斬新なものです。
「癌は放置しろ!」と言われる近藤誠先生も、
この治療であれば、
その主張を翻し,
あの険しい顔を和らげて目から涙を流すと、
「素晴らしい。これなら癌と闘え!」と言ってくれそうです。

これは殆ど同じ論文を、
以前Hepatology誌にレターの形で発表していて、
それを小説のように書き直したもののようです。
村上春樹さんのように、
短編を後から長編化するような感じですね。
CTの治療前後の画像が添付されていますが、
あまり肝細胞癌のようには見えません。
何処かから取って来た、
実在の肝細胞癌の画像だと思いますが、
ちょっと画像のチョイスが悪い感じです。
患者さんの年齢がいつも34歳というのもお茶目ですね。

Nature誌はBritish Medical Journal Case Reportsに、
質問状を送るそうですから、
この論文がそのまま掲載されているのも、
そう長いことではないと思いますが、
この特異なバイタリティには、
本当に頭が下がる思いがしますし、
世間には全く英語論文を書かない大学教授も、
いらっしゃるようですから、
その真偽はともかくとして、
M先生の爪の垢でも飲ませたいような気もします。

勿論捏造論文は絶対にいけないことですが、
M研究員の論文は、
毎日がエイプリルフールのようなファンタジーの世界なので、
ある種の和みがありますし、
この才能が何処かで生かされないものかと、
正直思えてなりません。

British Medical Journalは、
一応元の雑誌は一流なのですから、
ちょっと恥ずかしい感じですね。
でも、ひょっとしたらエイプリルフール的な、
高度なパロディかジョークのつもりなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
コメントでご指摘を受け、
不明確な部分を一部削除修正しました。
(2013年6月19日午後10時修正)
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コメント 5

masudako

学術雑誌の論文の代金は、出版社(この場合BMJ Publishing Group)の収入にはなりますが、論文の著者に分配されることはたぶんないと思います。
by masudako (2013-06-19 17:52) 

rumi

初めまして。亜急性甲状腺炎の記事を読ませて頂きました。
21歳の女です。

私は今年の3月頃から、体が異常にだるく微熱もあり(1日の中で上がったり下がったりする)首のリンパが腫れています。首は痛いと言うより違和感があります。

5月に甲状腺の検査をしたら、T3.T4は正常でTSHだけが低値でした。お医者さんには「分からない」と言われてしまいました。

そして今月に入ってから、また検査をしたらサイログロブリン値が基準値より、ほんの少しだけ高く、TSHは基準値に戻っていました。最初とは違うお医者さんなのですが、また「何でだるいのか分からない」と言われ
超音波検査はやってもらえませんでした。
抗体検査は全て陰性でした。

体の異常なだるさ、リンパの腫れ、微熱、首の違和感は今も変わっていないのですが
私は亜急性甲状腺炎の可能性はありますか?TSHが低値だった事があるので違う病気だとは思い難いのです…。

お忙しい所申し訳ありません。
本当に困っていて、もし石原先生に助けてもらえるのであれば予約をさせて頂きたいと思っています。
by rumi (2013-06-19 19:27) 

fujiki

masudako さんへ
ご指摘ありがとうございます。
そうですか。
すいません。
最近論文を書いていないので、
そうしたことについては疎くなっていました。
取り急ぎ当該部分を修正しました。
矢張りケースレポートくらいは、
定期的に書かないと駄目ですね。
by fujiki (2013-06-19 22:09) 

fujiki

rumi さんへ
亜急性甲状腺炎のだるさは、
基本的に甲状腺中毒症状として生じるものなので、
どちらかと言えば、
EBウイルス感染症のような病態を疑います。
甲状腺の数値の若干の異常は、
ウイルス感染に伴っても、
一時的に生じることはあると思います。
お役に立てるかどうかは分かりませんが、
診療所にお出で頂くことは全然構いません。
木曜日の午前中だけは、
少したてこむと思いますので、
避けて頂きたいのですが、
それ以外の時間でしたら、
甲状腺のエコーもその場で出来ると思います。
by fujiki (2013-06-19 22:14) 

rumi

お忙しい中、お返事ありがとうございます。

ウイルス感染でも、若干、甲状腺の数値が乱れる事はあるのですね!!
確かにTSHは低かったと言っても
少し基準値より低かっただけだったのです。

そうすると甲状腺は関係ないかもしれないですね…。3月から体がおかしくなったので、もう4ヶ月もたっていますが 良くなる兆しもありません。

精神的には元気ですし、慢性疲労症候群の先生にも診察してもらいましたが
慢性疲労症候群ではありませんでした。

今までの血液検査の結果を持って、
明後日の金曜日に伺います。
首のリンパの腫れを見てもらいたいです。

宜しくお願いします。

by rumi (2013-06-19 23:21) 

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