青身魚の油の心血管疾患予防効果についての最新知見

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今、PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。

今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
青身魚に多く含まれる、
n-3脂肪酸と呼ばれるタイプの油のサプリメントが、
心筋梗塞や脳卒中の発症や死亡に与える、
影響についての論文です。

端的に結果を言えば、
通常の治療に上乗せをして、
こうしたサプリメントを使用しても、
何の上乗せの予防効果や予後改善効果はなかった、
というサプリメントの効果に否定的な内容です。

この分野はどうも最近、
旗色の悪い感じが否めません。

魚、特にサバやイワシなどの青身魚には、
EPA（エイコサペンタエン酸）やDHA（ドコサヘキサエン酸）、
などの多価不飽和脂肪酸と呼ばれる脂質が多く含まれていて、
疫学研究などから、
魚を多く摂る人の方が、
心臓病や脳卒中の発症率が低い、
などの報告があり、
このEPAやDHAが、
動脈硬化の病気の予防や予後改善に、
効果があるのではないか、
という推測があります。

EPAには中性脂肪を下げ、
血管の内皮障害や炎症の抑制など、
動脈硬化の進展抑制に結び付くような、
多くの作用が実験的には報告されています。

しかし、このEPAやDHAを、
薬やサプリメントとして使用することにより、
他の有効性を確認された薬剤と同じような、
臨床的な効果があるかどうかについては、
まだ意見が割れています。

日本ではEPAやEPAとDHAの合剤が、
薬として使用されていますが、
これは世界的にはかなり特殊で、
通常はサプリメント的な扱いです。

2007年にLancet誌に発表された、
JELISと呼ばれる日本人のみを対象とした、
大規模臨床試験があり、
これは商品名エパデールという、
高純度のEPA製剤を、
コレステロールの高い患者さんに、
通常のコレステロール降下剤に上乗せして使用したところ、
心筋梗塞などの発症が有意に抑えられ、
特に脳卒中の発症は、
相対リスクで20%程度低下した、
という結果でした。

続く2008年には、
イタリアでGISSI-HFと名付けられた、
大規模臨床試験が行なわれ、
これは心不全の患者さんに対して、
通常の治療に上乗せして、
n-3脂肪酸のサプリメントと、
スタチンと呼ばれる脂質降下剤の効果を検証したものですが、
スタチンには上乗せ効果がなかったのに対して、
n-3脂肪酸のサプリメントを使用すると、
心臓病による死亡が、
相対リスクで10%程度低下しました。

しかし、
このような明瞭な結果は、
その後の世界規模の臨床試験においては、
あまり再現がされていません。

昨年の6月にNew England…に発表され、
同時期にブログ記事にもしました、
ORIGINと呼ばれる大規模臨床試験は、
糖尿病もしくは前糖尿病状態の患者さんに対して、
n-3脂肪酸のサプリメントと、
偽薬とを使用して、
その比較をしたものですが、
結果としては、
脳卒中や心筋梗塞の発症も、
それによる死亡リスクも、
いずれも偽薬と差はありませんでした。

今回のデータはイタリアのものですが、
糖尿病や高血圧があるなど、
脳卒中や心筋梗塞などの発症のリスクが高い、
しかしまだそうした病気は発症していない、
12000人余の男女を対象としています。

2つの群にくじ引きで分け、
通常行なっている高血圧などの治療に上乗せして、
n-3脂肪酸のサプリメントを追加した群と、
偽薬を追加した群に分けて、
その後の経過を平均5年間観察しています。

その結果、
脳卒中や心筋梗塞での死亡リスクや、
入院のリスクには、
両群で明確な差はありませんでした。

つまり、
脳卒中や心筋梗塞の予防効果は、
今回も否定されています。

それでは、
n-3脂肪酸の使用には、
何らメリットはないのでしょうか？

試験のデザインも個々に違うので、
現時点での判断は非常に難しいところです。

先日ご紹介しましたように、
魚とオリーブオイルとナッツを豊富に用いる、
「地中海ダイエット」の効果は良好で、
n-3脂肪酸よりも、
オリーブオイルやナッツ、赤ワインのポリフェノールなどに、
欧米の注目は移りつつあるようにも思います。

ただ、
多くの疫学研究でもその効果は報告されていますから、
何らかの付加的な効果は否定出来ないように思いますし、
日本人を対象として、
JELISに続くような精度の高い試験の実施も、
是非必要なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。