新型コロナウイルス感染症とDPP-4の話 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から紹介状など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年の3月のNature誌のレターですが、
インフルエンザウイルス(H7N9)と並んで、
世界的に感染の流行が危惧されている、
新型コロナウイルス(nCoV)の感染メカニズムについての報告です。
コロナウイルスというのは、
ライノウイルスと並んで、
所謂「風邪症候群」の代表的な原因ウイルスの1つです。
通常は鼻水や咳、熱などの症状があり、
それが数日で改善する、
という経過を取ります。
乳幼児では肺炎を起こしたりすることもありますが、
それ以降の年齢においては、
所謂上気道炎症状は起こしても、
気管支炎や肺炎など、
より身体の奥の部分で増殖することは、
極めて稀と考えられています。
同じタイプのウイルスに、
何度も感染することから考えて、
人間の免疫はこのウイルスを、
将来に渡って持続的に排除することは、
不得手のようです。
さて、
このように人間に深刻なダメージを与えることは、
稀だと考えられて来たコロナウイルスですが、
その見解が大きく修正されたのが、
2002年の暮から2003年の夏に掛けて、
全世界を震え上がらせた、
SARS(サーズ)ウイルスの人間への感染です。
SARS(重症急性呼吸症候群)は、
これまでとは異なる遺伝子配列を持つ、
変異型のコロナウイルスによる呼吸器感染症です。
急性の肺炎症状を来して重症化し、
致死率が高いことから、
SARS(サーズ)と名付けられました。
主に中国において多くの感染者を出し、
猛威を振るいましたが、
人から人への感染は極めて限定的にしか起こらないことから、
公衆衛生学的な対策により、
徐々に終息に向かい、
2004年5月には終息宣言がWHOから出されました。
保菌動物はコウモリの一種であるとされています。
今回問題になっている強毒性の新コロナウイルスは、
2012年に肺炎に罹患したサウジアラビア人の肺組織から、
始めて分離され、
その後ジワジワと感染者を増加させているものです。
平成25年5月8日現在にて、
30名の患者さんがWHOに報告され、
特に4月14日以降にサウジアラビアで13症例が確定され、
4月にはヨルダンの医療機関で集団発生の疑われる事例があり、
確定事例は2例ですが、
11例の疑い症例が報告され、
そのうちの10例は医療従事者です。
サウジアラビアの4月以降の13事例中、
7名が死亡し、4名は集中治療室に入っています。
つまり、
この新型コロナウイルス感染症は、
SARSと同じように重症の肺炎などの下気道感染症を来し、
死亡率が高いリスクの高い感染症です。
ただ、
SARSウイルスと比較すると、
感染の拡大はそれほどではなく、
人から人への感染は、
ヨルダンの事例で明らかなように、
成立すること自体は、
ほぼ間違いがありませんが、
それほど容易には感染しない性質のウイルスのようです。
ウイルスの遺伝子の解析結果からは、
SARSウイルスと一定の相同性はあるものの、
同一ではなく、
保菌動物も現時点で明確ではありませんが、
コウモリに感染するウイルスとは、
一定の関連性が認められています。
ただし、
現時点での感染の事例が、
全てコウモリとの接触による、
とは考え難く、
新型インフルエンザ(H7N9)より、
現状ではその感染経路は謎の多いものになっています。
コロナウイルスは、
スパイクと呼ばれる表面の突起が、
動物の粘膜などの細胞に、
接着することにより、
感染が始まるのですが、
動物のどのような蛋白質をターゲットにして、
接着するのかが、
そのウイルスの特徴の1つとなっています。
これまでに知られているウイルスの受容体としては、
CEACEMと呼ばれる接着分子と、
アミノペプチダーゼNと呼ばれる酵素や、
ACE2と呼ばれる酵素などが知られていました。
このうちのACE2による接着は、
SARSウイルスの特徴の1つとされているものです。
上記の報告によると、
今回の新型コロナウイルスでは、
これまでとは異なり、
多くの内皮細胞の表面に発現している、
DPP-4と呼ばれる酵素が、
ウイルスの受容体となっている可能性が示唆されています。
DPP-4はACE2と同じように、
気管支の細胞表面に発現していることが確認されているので、
これがこのウイルスがより肺や気管支の病変を起こし易い、
1つのメカニズムと考えられるのです。
DPP-4阻害剤は、
この酵素を阻害することにより、
インスリン分泌物質のインクレチンが増加することを利用して、
糖尿病の治療薬として使用されています。
勿論、この薬を通常に使用して、
コロナウイルスの感染が防御出来るとは思えませんが、
たとえば吸入剤にして気道に噴霧し、
その感染を予防するようなことは、
今後可能性が生まれることになるかも知れません。
現時点でこの新型コロナウイルスに対する、
ワクチンや抗ウイルス剤などは存在せず、
対処療法と、
回復した患者さんの血清を利用する、
血清療法くらいしか、
有効性が期待出来る方法はないのが現状ですが、
血清療法には当然リスクがあり、
ウイルスの侵入や増殖のメカニズムがより解明されることにより、
有効な抗ウイルス剤が開発されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から紹介状など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年の3月のNature誌のレターですが、
インフルエンザウイルス(H7N9)と並んで、
世界的に感染の流行が危惧されている、
新型コロナウイルス(nCoV)の感染メカニズムについての報告です。
コロナウイルスというのは、
ライノウイルスと並んで、
所謂「風邪症候群」の代表的な原因ウイルスの1つです。
通常は鼻水や咳、熱などの症状があり、
それが数日で改善する、
という経過を取ります。
乳幼児では肺炎を起こしたりすることもありますが、
それ以降の年齢においては、
所謂上気道炎症状は起こしても、
気管支炎や肺炎など、
より身体の奥の部分で増殖することは、
極めて稀と考えられています。
同じタイプのウイルスに、
何度も感染することから考えて、
人間の免疫はこのウイルスを、
将来に渡って持続的に排除することは、
不得手のようです。
さて、
このように人間に深刻なダメージを与えることは、
稀だと考えられて来たコロナウイルスですが、
その見解が大きく修正されたのが、
2002年の暮から2003年の夏に掛けて、
全世界を震え上がらせた、
SARS(サーズ)ウイルスの人間への感染です。
SARS(重症急性呼吸症候群)は、
これまでとは異なる遺伝子配列を持つ、
変異型のコロナウイルスによる呼吸器感染症です。
急性の肺炎症状を来して重症化し、
致死率が高いことから、
SARS(サーズ)と名付けられました。
主に中国において多くの感染者を出し、
猛威を振るいましたが、
人から人への感染は極めて限定的にしか起こらないことから、
公衆衛生学的な対策により、
徐々に終息に向かい、
2004年5月には終息宣言がWHOから出されました。
保菌動物はコウモリの一種であるとされています。
今回問題になっている強毒性の新コロナウイルスは、
2012年に肺炎に罹患したサウジアラビア人の肺組織から、
始めて分離され、
その後ジワジワと感染者を増加させているものです。
平成25年5月8日現在にて、
30名の患者さんがWHOに報告され、
特に4月14日以降にサウジアラビアで13症例が確定され、
4月にはヨルダンの医療機関で集団発生の疑われる事例があり、
確定事例は2例ですが、
11例の疑い症例が報告され、
そのうちの10例は医療従事者です。
サウジアラビアの4月以降の13事例中、
7名が死亡し、4名は集中治療室に入っています。
つまり、
この新型コロナウイルス感染症は、
SARSと同じように重症の肺炎などの下気道感染症を来し、
死亡率が高いリスクの高い感染症です。
ただ、
SARSウイルスと比較すると、
感染の拡大はそれほどではなく、
人から人への感染は、
ヨルダンの事例で明らかなように、
成立すること自体は、
ほぼ間違いがありませんが、
それほど容易には感染しない性質のウイルスのようです。
ウイルスの遺伝子の解析結果からは、
SARSウイルスと一定の相同性はあるものの、
同一ではなく、
保菌動物も現時点で明確ではありませんが、
コウモリに感染するウイルスとは、
一定の関連性が認められています。
ただし、
現時点での感染の事例が、
全てコウモリとの接触による、
とは考え難く、
新型インフルエンザ(H7N9)より、
現状ではその感染経路は謎の多いものになっています。
コロナウイルスは、
スパイクと呼ばれる表面の突起が、
動物の粘膜などの細胞に、
接着することにより、
感染が始まるのですが、
動物のどのような蛋白質をターゲットにして、
接着するのかが、
そのウイルスの特徴の1つとなっています。
これまでに知られているウイルスの受容体としては、
CEACEMと呼ばれる接着分子と、
アミノペプチダーゼNと呼ばれる酵素や、
ACE2と呼ばれる酵素などが知られていました。
このうちのACE2による接着は、
SARSウイルスの特徴の1つとされているものです。
上記の報告によると、
今回の新型コロナウイルスでは、
これまでとは異なり、
多くの内皮細胞の表面に発現している、
DPP-4と呼ばれる酵素が、
ウイルスの受容体となっている可能性が示唆されています。
DPP-4はACE2と同じように、
気管支の細胞表面に発現していることが確認されているので、
これがこのウイルスがより肺や気管支の病変を起こし易い、
1つのメカニズムと考えられるのです。
DPP-4阻害剤は、
この酵素を阻害することにより、
インスリン分泌物質のインクレチンが増加することを利用して、
糖尿病の治療薬として使用されています。
勿論、この薬を通常に使用して、
コロナウイルスの感染が防御出来るとは思えませんが、
たとえば吸入剤にして気道に噴霧し、
その感染を予防するようなことは、
今後可能性が生まれることになるかも知れません。
現時点でこの新型コロナウイルスに対する、
ワクチンや抗ウイルス剤などは存在せず、
対処療法と、
回復した患者さんの血清を利用する、
血清療法くらいしか、
有効性が期待出来る方法はないのが現状ですが、
血清療法には当然リスクがあり、
ウイルスの侵入や増殖のメカニズムがより解明されることにより、
有効な抗ウイルス剤が開発されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-05-20 08:12
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