急性心筋梗塞(ST上昇型)の初期治療について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
急性心筋梗塞の初期治療についての論文です。
心臓を栄養する冠状動脈という血管に異変が起こり、
胸が急に苦しくなったり痛くなったりする「心臓発作」を、
現在ではひとまとめにして、
「急性冠症候群」と呼んでいます。
この中で、
心臓を栄養する血管が、
完全に詰まってしまい、
放っておけば心臓の一部の筋肉が、
死んでしまうような状態のことを、
「ST上昇型急性冠症候群」もしくは、
「ST上昇型心筋梗塞」と呼んでいます。
これは、
心臓の血管が詰まった状態が続くと、
心電図のSTという部分が、
2つ以上の誘導で、
概ね1~2ミリ以上上昇する、
という知見が得られていることから、
名付けられています。
まあ、
一般的にイメージする、
「急性心筋梗塞」というのは、
概ねこの「ST上昇型急性冠症候群」のことです。
このST上昇型急性冠症候群の治療には、
血液に血栓溶解剤と呼ばれる薬を注射して、
血栓を溶かす血栓溶解療法と、
血管からカテーテルを挿入して、
詰まっている血管に風船を入れたり、
ステントと呼ばれる金属の管を入れたりする、
経皮的冠インターベンション、
そして心臓バイパス手術があります。
このうち、
最近の進歩が著しいのが、
カテーテル治療で、
手元にある平成10年という古い資料でも、
半数近くの患者さんが、
この方法による治療を受けています。
日本の現行のガイドラインにおいても、
その症状が出現してから12時間以内であれば、
第一選択の治療はカテーテル治療となっています。
ただ、
現行でも欧米では、
カテーテル治療より血栓溶解療法が、
多く施行されています。
あるデータによると、
発症から1時間以内であれば、
血栓溶解療法よりカテーテル治療を行なった方が、
患者さんの生命予後は良いけれど、
それを越えると必ずしもそうは言い切れない、
という結果が得られています。
ここにおいて問題は、
発症から数時間が経過した、
ST上昇型急性冠症候群の患者さんにおいて、
先に血栓溶解療法を施行した上で、
その後にカテーテル治療を行なった方が良いのか、
それとも少し時間は遅れても、
まずはカテーテル治療を優先させた方が良いのか、
という点にあります。
心臓を栄養する血管が詰まった状態が、
長く続けば続くほど、
その血管が元に戻る可能性は低くなり、
患者さんの予後は悪くなります。
この観点から考えれば、
直ちにカテーテル治療を行なうのが困難だとすれば、
まず血栓溶解剤を使用して、
それからカテーテル治療の出来る施設に運んだ方が、
より予後は改善するのではないか、
という推定が成り立ちます。
しかし、
その一方で血栓溶解療法は、
出血の危険性を高めますから、
脳出血などの合併症が起こることがあり、
それでは却って患者さんの予後を悪くする可能性もあります。
そこで今回の文献においては、
2008年から2012年に世界15ヵ国の99の施設において、
発症後3時間以内に施設に到着し、
それから1時間以内のカテーテル治療の実施が困難な、
1892名のST上昇型急性冠症候群の患者さんを対象とし、
くじ引きで2つの群に割り付けています。
一方はまず血栓溶解療法を施行して、
割り付け後6~24時間以内に、
血管造影で病変の再開通の有無を確認し、
必要に応じてその時点でカテーテル治療を行ないます。
もう一方では血栓溶解療法は施行せず、
可能な段階でのカテーテル治療を行ないます。
要するに発症1時間以内であれば、
カテーテル治療の方が予後が良いことが分かっているのですが、
それ以降になると、
必ずしも血栓溶解療法とのどちらが良いのか、
分かっていないので、
それを確認しよう、と言うのです。
その結果…
発症後30日までの、
患者さんの死亡やショック、重症心不全や梗塞の再発の発症率は、
血栓溶解療法を先行させた場合に12.4%であったのに対して、
カテーテル治療を優先させた場合には14.3%となりました。
つまり、血栓溶解療法を行なった方が、
予後が良い傾向にありましたが、
これは統計的には有意ではありませんでした。
一方で脳出血の合併症は、
血栓溶解療法施行群で、
カテーテル治療群より5倍多く発症していました。
ただ、
この脳出血の合併症は、
高齢者で多い傾向があったため、
試験の途中でプロトコールが変更となり、
75歳以上では血栓溶解剤の量を半分に減量することが認められ、
それ以降は両群の有意差は消失しています。
今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?
上記の文献の著者らは、
概ね発症後3時間以内の搬送で、
その後1時間を越える時間が、
カテーテル治療までに要する場合には、
まず血栓溶解療法を、
その患者さんの出血リスクに応じて、
その使用量は調節して行ない、
その後に血管造影と必要あればカテーテル治療を行なうのが、
患者さんの予後を改善する可能性が高いのでは、
という判断に立っています。
しかし、
データを見る限り、
明確な優位性は示されていないので、
にわかに賛同はしかねるように思います。
現行の日本のガイドラインにおいても、
あまり明確に血栓溶解療法の適応は決められておらず、
発症後12時間以内であれば、
原則としてカテーテル治療を先行させる方針が示されています。
日本人では脳出血のリスクは、
欧米より高く見積もった方が良いことも考えると、
問題は如何に速やかに、
発症直後の患者さんを、
カテーテル治療が即時可能な施設に搬送するか、
という点に重点を置くべきもののように思います。
しかし、
その一方で救急医療の崩壊のような事態が、
地域によっては顕在化しているのも事実ですから、
カテーテル治療までにどの程度の時間を要する場合に、
血栓溶解療法を先行させるのかについては、
地域の特性に合わせたマニュアルのようなものが、
必要になるのではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
急性心筋梗塞の初期治療についての論文です。
心臓を栄養する冠状動脈という血管に異変が起こり、
胸が急に苦しくなったり痛くなったりする「心臓発作」を、
現在ではひとまとめにして、
「急性冠症候群」と呼んでいます。
この中で、
心臓を栄養する血管が、
完全に詰まってしまい、
放っておけば心臓の一部の筋肉が、
死んでしまうような状態のことを、
「ST上昇型急性冠症候群」もしくは、
「ST上昇型心筋梗塞」と呼んでいます。
これは、
心臓の血管が詰まった状態が続くと、
心電図のSTという部分が、
2つ以上の誘導で、
概ね1~2ミリ以上上昇する、
という知見が得られていることから、
名付けられています。
まあ、
一般的にイメージする、
「急性心筋梗塞」というのは、
概ねこの「ST上昇型急性冠症候群」のことです。
このST上昇型急性冠症候群の治療には、
血液に血栓溶解剤と呼ばれる薬を注射して、
血栓を溶かす血栓溶解療法と、
血管からカテーテルを挿入して、
詰まっている血管に風船を入れたり、
ステントと呼ばれる金属の管を入れたりする、
経皮的冠インターベンション、
そして心臓バイパス手術があります。
このうち、
最近の進歩が著しいのが、
カテーテル治療で、
手元にある平成10年という古い資料でも、
半数近くの患者さんが、
この方法による治療を受けています。
日本の現行のガイドラインにおいても、
その症状が出現してから12時間以内であれば、
第一選択の治療はカテーテル治療となっています。
ただ、
現行でも欧米では、
カテーテル治療より血栓溶解療法が、
多く施行されています。
あるデータによると、
発症から1時間以内であれば、
血栓溶解療法よりカテーテル治療を行なった方が、
患者さんの生命予後は良いけれど、
それを越えると必ずしもそうは言い切れない、
という結果が得られています。
ここにおいて問題は、
発症から数時間が経過した、
ST上昇型急性冠症候群の患者さんにおいて、
先に血栓溶解療法を施行した上で、
その後にカテーテル治療を行なった方が良いのか、
それとも少し時間は遅れても、
まずはカテーテル治療を優先させた方が良いのか、
という点にあります。
心臓を栄養する血管が詰まった状態が、
長く続けば続くほど、
その血管が元に戻る可能性は低くなり、
患者さんの予後は悪くなります。
この観点から考えれば、
直ちにカテーテル治療を行なうのが困難だとすれば、
まず血栓溶解剤を使用して、
それからカテーテル治療の出来る施設に運んだ方が、
より予後は改善するのではないか、
という推定が成り立ちます。
しかし、
その一方で血栓溶解療法は、
出血の危険性を高めますから、
脳出血などの合併症が起こることがあり、
それでは却って患者さんの予後を悪くする可能性もあります。
そこで今回の文献においては、
2008年から2012年に世界15ヵ国の99の施設において、
発症後3時間以内に施設に到着し、
それから1時間以内のカテーテル治療の実施が困難な、
1892名のST上昇型急性冠症候群の患者さんを対象とし、
くじ引きで2つの群に割り付けています。
一方はまず血栓溶解療法を施行して、
割り付け後6~24時間以内に、
血管造影で病変の再開通の有無を確認し、
必要に応じてその時点でカテーテル治療を行ないます。
もう一方では血栓溶解療法は施行せず、
可能な段階でのカテーテル治療を行ないます。
要するに発症1時間以内であれば、
カテーテル治療の方が予後が良いことが分かっているのですが、
それ以降になると、
必ずしも血栓溶解療法とのどちらが良いのか、
分かっていないので、
それを確認しよう、と言うのです。
その結果…
発症後30日までの、
患者さんの死亡やショック、重症心不全や梗塞の再発の発症率は、
血栓溶解療法を先行させた場合に12.4%であったのに対して、
カテーテル治療を優先させた場合には14.3%となりました。
つまり、血栓溶解療法を行なった方が、
予後が良い傾向にありましたが、
これは統計的には有意ではありませんでした。
一方で脳出血の合併症は、
血栓溶解療法施行群で、
カテーテル治療群より5倍多く発症していました。
ただ、
この脳出血の合併症は、
高齢者で多い傾向があったため、
試験の途中でプロトコールが変更となり、
75歳以上では血栓溶解剤の量を半分に減量することが認められ、
それ以降は両群の有意差は消失しています。
今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?
上記の文献の著者らは、
概ね発症後3時間以内の搬送で、
その後1時間を越える時間が、
カテーテル治療までに要する場合には、
まず血栓溶解療法を、
その患者さんの出血リスクに応じて、
その使用量は調節して行ない、
その後に血管造影と必要あればカテーテル治療を行なうのが、
患者さんの予後を改善する可能性が高いのでは、
という判断に立っています。
しかし、
データを見る限り、
明確な優位性は示されていないので、
にわかに賛同はしかねるように思います。
現行の日本のガイドラインにおいても、
あまり明確に血栓溶解療法の適応は決められておらず、
発症後12時間以内であれば、
原則としてカテーテル治療を先行させる方針が示されています。
日本人では脳出血のリスクは、
欧米より高く見積もった方が良いことも考えると、
問題は如何に速やかに、
発症直後の患者さんを、
カテーテル治療が即時可能な施設に搬送するか、
という点に重点を置くべきもののように思います。
しかし、
その一方で救急医療の崩壊のような事態が、
地域によっては顕在化しているのも事実ですから、
カテーテル治療までにどの程度の時間を要する場合に、
血栓溶解療法を先行させるのかについては、
地域の特性に合わせたマニュアルのようなものが、
必要になるのではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-04-17 08:21
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