2型糖尿病の新しい発症メカニズムと細胞の脱分化の話 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
昨年のCell誌に掲載された、
糖尿病の新たな発症メカニズムについての、
動物実験の論文です。
2型糖尿病というのは、
ブドウ糖を利用するのに必要なホルモンである、
インスリンが欠乏するか、
その効きが悪くなるために、
ブドウ糖を身体が利用することが出来ずに、
血糖値が上昇し、
多くの弊害が身体に起こる病気です。
インスリンというホルモンは、
膵臓のβ細胞という細胞から分泌されますから、
2型糖尿病は膵臓のβ細胞の機能と、
大きな関わりがあることは間違いがありません。
これまでの一般的な考えでは、
糖尿病が進行した状態においては、
膵臓のβ細胞はその数が減り、
個々の細胞のインスリンを分泌する働きも、
低下するという変化が起きている、
とされていました。
これは動物実験においても、
人間においても、
一応確認されている事項です。
その一方で、
膵臓にはインスリンとは反対に血糖を上昇させる作用のある、
グルカゴンというホルモンを分泌する、
α細胞という別個の細胞が存在していて、
2型糖尿病の進行した状態においては、
このα細胞の数が増え、
グルカゴンの分泌が増加します。
このグルカゴン分泌についてのこれまでの説明は、
通常の状態ではインスリンが、
グルカゴンの分泌を抑制しているのですが、
糖尿病になってインスリンの分泌が減り、
インスリンの分泌細胞の数が減ると、
その抑制が解除されるので、
相対的にグルカゴンが増加する、
というものでした。
しかし、
少し前にご紹介したように、
インスリンの高度な欠乏状態においても、
グルカゴンの過剰分泌がなければ、
血糖値は上昇しない、
という知見があり、
なかば添え物的な役割と思われていたグルカゴンが、
実はインスリン以上に、
糖尿病の進行において重要な役割を果たしているのでは、
というように考え方が変わりつつある、
という経緯があります。
今回の研究はネズミの実験によるものですが、
膵臓のα細胞とβ細胞との関わりについて、
全く新たな考え方を提示しているものです。
それは、
糖尿病においては、
インスリンを分泌するβ細胞が脱分化して、
α細胞に似た細胞に変化し、
インスリンではなくグルカゴンを分泌するようになるのでは、
というものです。
細胞の脱分化というのは、
最近多くの分野で注目されているキーワードです。
どの組織においても、
その組織の元になる幹細胞と呼ばれる細胞があり、
それが特定の遺伝子が発現したりされなかったりすることにより、
その組織を構成する多くの種類の細胞に分化します。
一旦分化した細胞は、
もうそのままで他の細胞になることはない、
というのがこれまでの考え方でしたが、
実は必ずしもそうではなく、
ストレスなどの影響下では、
多くの組織において、
ある細胞が一旦それより未熟な段階の細胞に戻り、
別の細胞のように変化したり、
増殖の過程で別の細胞になったりすることが、
しばしば起こっていることが明らかになったのです。
これを脱分化と呼びます。
発癌という現象も、
脱分化した未熟な細胞が、
異常に増殖した状態、
というように捉えることも出来るのです。
上記の文献の著者らは、
糖尿病においても膵臓でβ細胞の脱分化が起こっているのでは、
という仮説を立て、
Foxo1という転写因子に注目します。
この転写因子は、
高度の高血糖の状態においては、
その発現が抑制されていることが、
これまでの研究で明らかになっていたからです。
そこで、
このFoxo1の遺伝子が働かないようにしたネズミを作ると、
そのネズミは一見健康なのですが、
加齢や多胎妊娠などの環境下で、
著明な高血糖を呈し、
その時に膵臓のβ細胞が急激に脱分化してα細胞化し、
インスリンを分泌する力を失い、
今度はグルカゴンを分泌するように変化することが、
明確に確認されました。
更には、
これまでに作成され使用されている、
2系統の2型糖尿病のモデル動物においても、
同様の脱分化の起こっていることも確認されました。
ここにおいて、
2型糖尿病はβ細胞が減少してα細胞が増える病気ではなく、
ある種のストレス下において、
β細胞が脱分化してα細胞化する病気である、
という新たな考えが生まれたのです。
このメカニズムはあくまでネズミでのみ確認されたもので、
人間においてもこうしたことが起こるかどうかは、
まだ確認はされていません。
しかし、
これまで基本的には元に戻すことは不可能、
と考えられて来た、
インスリン分泌細胞の再生に、
新たな可能性を示すものであることは間違いがなく、
糖尿病の治療を今後一変させるような、
インパクトを持つ可能性があるように思います。
今日は糖尿病発症の新たなメカニズムについての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
昨年のCell誌に掲載された、
糖尿病の新たな発症メカニズムについての、
動物実験の論文です。
2型糖尿病というのは、
ブドウ糖を利用するのに必要なホルモンである、
インスリンが欠乏するか、
その効きが悪くなるために、
ブドウ糖を身体が利用することが出来ずに、
血糖値が上昇し、
多くの弊害が身体に起こる病気です。
インスリンというホルモンは、
膵臓のβ細胞という細胞から分泌されますから、
2型糖尿病は膵臓のβ細胞の機能と、
大きな関わりがあることは間違いがありません。
これまでの一般的な考えでは、
糖尿病が進行した状態においては、
膵臓のβ細胞はその数が減り、
個々の細胞のインスリンを分泌する働きも、
低下するという変化が起きている、
とされていました。
これは動物実験においても、
人間においても、
一応確認されている事項です。
その一方で、
膵臓にはインスリンとは反対に血糖を上昇させる作用のある、
グルカゴンというホルモンを分泌する、
α細胞という別個の細胞が存在していて、
2型糖尿病の進行した状態においては、
このα細胞の数が増え、
グルカゴンの分泌が増加します。
このグルカゴン分泌についてのこれまでの説明は、
通常の状態ではインスリンが、
グルカゴンの分泌を抑制しているのですが、
糖尿病になってインスリンの分泌が減り、
インスリンの分泌細胞の数が減ると、
その抑制が解除されるので、
相対的にグルカゴンが増加する、
というものでした。
しかし、
少し前にご紹介したように、
インスリンの高度な欠乏状態においても、
グルカゴンの過剰分泌がなければ、
血糖値は上昇しない、
という知見があり、
なかば添え物的な役割と思われていたグルカゴンが、
実はインスリン以上に、
糖尿病の進行において重要な役割を果たしているのでは、
というように考え方が変わりつつある、
という経緯があります。
今回の研究はネズミの実験によるものですが、
膵臓のα細胞とβ細胞との関わりについて、
全く新たな考え方を提示しているものです。
それは、
糖尿病においては、
インスリンを分泌するβ細胞が脱分化して、
α細胞に似た細胞に変化し、
インスリンではなくグルカゴンを分泌するようになるのでは、
というものです。
細胞の脱分化というのは、
最近多くの分野で注目されているキーワードです。
どの組織においても、
その組織の元になる幹細胞と呼ばれる細胞があり、
それが特定の遺伝子が発現したりされなかったりすることにより、
その組織を構成する多くの種類の細胞に分化します。
一旦分化した細胞は、
もうそのままで他の細胞になることはない、
というのがこれまでの考え方でしたが、
実は必ずしもそうではなく、
ストレスなどの影響下では、
多くの組織において、
ある細胞が一旦それより未熟な段階の細胞に戻り、
別の細胞のように変化したり、
増殖の過程で別の細胞になったりすることが、
しばしば起こっていることが明らかになったのです。
これを脱分化と呼びます。
発癌という現象も、
脱分化した未熟な細胞が、
異常に増殖した状態、
というように捉えることも出来るのです。
上記の文献の著者らは、
糖尿病においても膵臓でβ細胞の脱分化が起こっているのでは、
という仮説を立て、
Foxo1という転写因子に注目します。
この転写因子は、
高度の高血糖の状態においては、
その発現が抑制されていることが、
これまでの研究で明らかになっていたからです。
そこで、
このFoxo1の遺伝子が働かないようにしたネズミを作ると、
そのネズミは一見健康なのですが、
加齢や多胎妊娠などの環境下で、
著明な高血糖を呈し、
その時に膵臓のβ細胞が急激に脱分化してα細胞化し、
インスリンを分泌する力を失い、
今度はグルカゴンを分泌するように変化することが、
明確に確認されました。
更には、
これまでに作成され使用されている、
2系統の2型糖尿病のモデル動物においても、
同様の脱分化の起こっていることも確認されました。
ここにおいて、
2型糖尿病はβ細胞が減少してα細胞が増える病気ではなく、
ある種のストレス下において、
β細胞が脱分化してα細胞化する病気である、
という新たな考えが生まれたのです。
このメカニズムはあくまでネズミでのみ確認されたもので、
人間においてもこうしたことが起こるかどうかは、
まだ確認はされていません。
しかし、
これまで基本的には元に戻すことは不可能、
と考えられて来た、
インスリン分泌細胞の再生に、
新たな可能性を示すものであることは間違いがなく、
糖尿病の治療を今後一変させるような、
インパクトを持つ可能性があるように思います。
今日は糖尿病発症の新たなメカニズムについての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-02-12 08:14
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コメント(2)
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いつも興味深い論文のご紹介ありがとうございます。
「2型糖尿病はβ細胞が減少してα細胞が増える病気ではなく、ある種のストレス下において、β細胞が脱分化してα細胞化する病気である」
インスリンの過剰分泌によってβ細胞が壊れてゆくのだと思っていました。
人間での検証が楽しみです。
脱分化抑制などの治療/予防方法も出来るかもしれませんね。
by モカ (2013-02-12 11:53)
モカさんへ
コメントありがとうございます。
まだ分かりませんが、
腑に落ちる部分が多く、
意外に糖尿病の治療のブレイクスルーになるような気もします。
by fujiki (2013-02-13 08:20)