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大動脈弁の石灰化とリポ蛋白(a)との関連性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は何もなければ少しフリーです。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
大動脈弁石灰化の責任遺伝子.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
大動脈弁の石灰化と、
脂質を運ぶ蛋白質の1つである、
リポ蛋白(a)との関連性についての論文です。

心臓には4つの弁があり、
心臓にある4つの部屋の間と、
その出入り口の扉の役目を果たしています。

4つの弁にはそれぞれ、
大動脈弁、肺動脈弁、三尖弁、僧帽弁という、
名前が付いています。

この弁の機能に異常が起こり、
弁が充分に閉じなくなったり、
開かなくなったりする病気が、
所謂「弁膜症」です。

弁膜症には僧帽弁狭窄症のように、
リウマチ熱という特定の病気との関連性が高いものもあり、
医療と衛生レベルの変化により、
その頻度は減少しています。
僕が大学にいた頃には、
僧帽弁狭窄症のお年寄りが、
何処の循環器内科でも多く見られ、
ほっぺたが赤く、
歩くと息切れのするお年寄りを見れば、
ははあこれは、
とそれだけで推測が付くようなところがありました。

診療所でも10年くらい前には、
僧帽弁狭窄症の患者さんが何人かいらっしゃいましたが、
この5年くらいは見掛けたことがありません。

その一方で多くなっているのが、
高齢者の大動脈弁狭窄症です。

大動脈弁狭窄症は、
大動脈弁が硬くなることによって起り、
大動脈弁が石灰化するのが、
その初期の兆候です。

進行すると重症の狭心症のような症状が起り、
高齢者の突然死の原因となることも、
しばしばあります。

この大動脈弁狭窄症は、
動脈硬化の進行した患者さんに生じることが多く、
動脈硬化の身体への現れの1つという考え方があります。

しかし、
全ての動脈硬化の患者さんに、
大動脈弁の狭窄が起こる訳ではありませんから、
患者さんの側にある、ある種の体質が、
その発生と進行に関わっている可能性が高い、
という考え方が成り立ちます。

仮にそうした体質があるとして、
それはどのようなものなのでしょうか?

今回の研究においては、
加齢と心臓病との関連性を調べる目的での、
大規模な遺伝子解析のデータを利用して、
CTで大動脈弁に石灰化病変のある患者さんと、
そうでない患者さんとの間で、
遺伝子の変異の解析を行ない、
特定の変異と大動脈弁の石灰化との関連性を、
検証しています。

その結果、
リポ蛋白(a)という脂質に関わる蛋白質の遺伝子の一部にある、
特定の変異と大動脈弁の石灰化との間に、
統計的に意味のある関連性が見付かり、
この関連性は、
人種的にヨーロッパ系の白人とアフリカ系のアメリカ人、
ヒスパニック系のアメリカ人の集団においても、
個別に検証され同様の関連性が認められました。

ここまでのデータはあくまで、
大動脈弁に石灰化の見られるもの全てを、
その解析対象にしていたのですが、
実際に大動脈弁狭窄症があった患者さんで、
同様の解析を行なっても、
矢張りこの遺伝子変異との間に、
関連性が認められました。
つまり、
病気の発症自体にも、
間違いなくこの遺伝子変異は関連を持っているのです。

この変異があると、
ない人に比べて血液中のリポ蛋白(a)の濃度は上昇していたのですが、
リポ蛋白(a)濃度を補正して、
この変異と大動脈弁石灰化との関連性を見たところ、
その関連性は非常に弱いものになりました。

つまり、
遺伝子変異によりリポ蛋白(a)の濃度が上昇することが、
動脈弁の石灰化に繋がった可能性が高い、
という結果です。

リポ蛋白(a)というのは、
アポ蛋白(a)というコレステロールを運ぶ乗り物のような蛋白質と、
悪玉のコレステロールと通称されている、
LDL-コレステロールとが結ぶ付いた物質で、
要するに、
蛋白質の乗り物にコレステロールが乗った状態のものです。

アポ蛋白にも色々な種類がありますが、
このアポ蛋白(a)は人や霊長類のみが持っている、
かなり種に特異的なアポ蛋白で、
この数値が高くなることは、
動脈硬化におけるカルシウムの沈着に、
直接的な役割を果たしているのでは、
という仮説があります。

この仮説はまだ人間で立証されたものではありませんが、
今回の遺伝子解析のデータは、
明らかにこの仮説が人間でも成り立つことを示唆するものです。

つまり、
リポ蛋白(a)に特定の変異のある個体では、
このリポ蛋白の濃度が上昇するため、
それが動脈硬化巣へのカルシウムの沈着を促して、
大動脈弁を石灰化させ、
大動脈弁狭窄症の進行に、
一定の関与をする可能性が示唆されたのです。

この結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

これまで、
大動脈弁狭窄症のような弁膜症は、
手術やカテーテル治療のような、
物理的に狭窄部を広げたり、
弁を取り換えたりする治療以外には、
有効な治療法は存在しませんでした。

しかし、
今回の結果が事実とすると、
血液のリポ蛋白(a)の濃度が高い患者さんでは、
弁や血管にカルシウムが沈着し易いような体質があり、
CTやエコーの検査で、
大動脈弁に軽度の石灰化のあるような患者さんで、
リポ蛋白(a)の高値が認められれば、
それを低下させることにより、
病変の進行を遅らせたり、
場合によっては改善させるような、
内科的な治療の可能性が考えられるようになったのです。

また、
コレステロールの高い患者さんを、
薬で治療するかどうかの判断の際にも、
こうした遺伝子変異の可能性を想定することで、
これまでとはまた別個の考え方が、
生まれる可能性も示すもののように思います。

今後の更なる知見の蓄積を、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

パク

 HPの内容興味深く,今後も拝読させていただきます。
 昨年の4月に大動脈狭窄症で弁置換をしました51歳です。私の場合は生来の二尖弁よる石灰化ですが、弁や血管にカルシウムが沈着しやすい遺伝子的な要因があるのでしたら、先天性の弁膜症でも石灰化進行が予想される状況下で事前に対策が取ることができれば良いですね。
 また、10年前に胆石摘出、現在も腎臓結石を持っていますが従来からいわれる「石」が出来やすい体質というのも関係があるんでしょうか。
by パク (2013-02-13 14:33) 

fujiki

パクさんへ
コメントありがとうございます。
石の出来易い体質というのは、
間違いなくあると思いますが、
その原因の遺伝子や変異に関しては、
僕の知る限りで明確な知見はないように思います。
by fujiki (2013-02-14 08:08) 

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