アルツハイマー型老年認知症に関わる遺伝子変異について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は石原が整形外科受診のため、
午後の診療は3時半で終了とさせて頂きます。
ご迷惑をお掛けしますがご了承下さい。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
アルツハイマー型老年認知症の病因に関わる、
遺伝子変異についての論文です。
アルツハイマー型老年認知症は、
認知症の中で最も多く、
世界中で癌と共に、
人間にとって最大の健康的な脅威です。
特に高齢化に向かう日本においては、
患者さん本人のみならず、
その社会全体にとっての非常に大きな問題です。
このアルツハイマー型老年認知症の病因については、
アミロイドに似た病的な蛋白が、
神経細胞に蓄積することが原因とされて来ました。
そして、
アミロイドの前駆蛋白や、
アミロイドの産生に関わる酵素である、
presenilin1とpresenilin2をコードしている遺伝子の変異が、
若年発症で遺伝性のアルツハイマー病においては、
その病因であることが明らかになっています。
しかし、
同様の変異は、
圧倒的に数の多い、
老年発症のアルツハイマー型認知症においては、
明確な関連性が認められていません。
現時点で老年発症のアルツハイマー病と一定の関連性があるのは、
アポEというコレステロールの引き抜きに関わる、
蛋白質の変異との関連性だけです。
今回の文献においては、
その発症に関わる遺伝子変異の新たな候補として、
TREM2という遺伝子の変異を、
アルツハイマー病の患者さんと、
そうではない方とを比較して、
その病因としての可能性を検証しています。
その結果、
アルツハイマー病の患者さん1092例中22例で、
TREM2遺伝子の変異が見付かったのに対して、
同じ変異はご病気のない方1107例中では5例しか見付からず、
別個の数種類の解析の結果からも、
この変異とアルツハイマー病との関連性が、
概ねアポEの変異と同程度の重みで、
影響していることが示唆されました。
TREM2というのは、
どのような役割を持つ遺伝子なのでしょうか？
TREM2という遺伝子は、
免疫受容体の蛋白質をコードしています。
そして、この受容体は、
免疫細胞の貪食というメカニズムに、
大きな関わりを持っています。
貪食というのはその名の通り、
身体に侵入した細菌などの病原体を、
食細胞と呼ばれる大きな白血球が、
バクリと食べてしまうことです。
この時、
食細胞はその表面にあるTREM2という受容体で、
細菌の表面にある糖脂質を引っ掛け、
それが貪食の信号になるのです。
そのメカニズムを図示したものがこちらになります。
これは同じ雑誌の解説記事にあるものです。
ポイントはこのTREM2は脳内においては、
ゴミ掃除のような働きをしている、
ミクログリア細胞という細胞にも存在していて、
脳内に発生した老廃物を、
同様に引っ掛けて処理しているということです。
つまり、
TREM2の変異があると、
この貪食の働きが障害されるので、
神経細胞に老廃物が蓄積し易くなり、
それが認知症の発症に繋がるのではないか、
という仮説です。
ここにおいて、
アルツハイマー病は一種の免疫異常症ではないか、
という新しい考え方が提示されたのです。
アポEの変異もそうですが、
実際の変異の頻度は少ないものなので、
これがどの程度トータルに認知症の病因と絡んでいるのかは、
現時点では未知数ですが、
今後新たな治療へのブレイクスルーが、
こうした知見から生まれる可能性はあり、
今後の研究の進歩に期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
（付記）
コメントにて指摘あり、
用語の誤りを訂正しました。
（平成25年1月17日午後2時訂正）
六号通り診療所の石原です。
今日は石原が整形外科受診のため、
午後の診療は3時半で終了とさせて頂きます。
ご迷惑をお掛けしますがご了承下さい。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
アルツハイマー型老年認知症の病因に関わる、
遺伝子変異についての論文です。
アルツハイマー型老年認知症は、
認知症の中で最も多く、
世界中で癌と共に、
人間にとって最大の健康的な脅威です。
特に高齢化に向かう日本においては、
患者さん本人のみならず、
その社会全体にとっての非常に大きな問題です。
このアルツハイマー型老年認知症の病因については、
アミロイドに似た病的な蛋白が、
神経細胞に蓄積することが原因とされて来ました。
そして、
アミロイドの前駆蛋白や、
アミロイドの産生に関わる酵素である、
presenilin1とpresenilin2をコードしている遺伝子の変異が、
若年発症で遺伝性のアルツハイマー病においては、
その病因であることが明らかになっています。
しかし、
同様の変異は、
圧倒的に数の多い、
老年発症のアルツハイマー型認知症においては、
明確な関連性が認められていません。
現時点で老年発症のアルツハイマー病と一定の関連性があるのは、
アポEというコレステロールの引き抜きに関わる、
蛋白質の変異との関連性だけです。
今回の文献においては、
その発症に関わる遺伝子変異の新たな候補として、
TREM2という遺伝子の変異を、
アルツハイマー病の患者さんと、
そうではない方とを比較して、
その病因としての可能性を検証しています。
その結果、
アルツハイマー病の患者さん1092例中22例で、
TREM2遺伝子の変異が見付かったのに対して、
同じ変異はご病気のない方1107例中では5例しか見付からず、
別個の数種類の解析の結果からも、
この変異とアルツハイマー病との関連性が、
概ねアポEの変異と同程度の重みで、
影響していることが示唆されました。
TREM2というのは、
どのような役割を持つ遺伝子なのでしょうか？
TREM2という遺伝子は、
免疫受容体の蛋白質をコードしています。
そして、この受容体は、
免疫細胞の貪食というメカニズムに、
大きな関わりを持っています。
貪食というのはその名の通り、
身体に侵入した細菌などの病原体を、
食細胞と呼ばれる大きな白血球が、
バクリと食べてしまうことです。
この時、
食細胞はその表面にあるTREM2という受容体で、
細菌の表面にある糖脂質を引っ掛け、
それが貪食の信号になるのです。
そのメカニズムを図示したものがこちらになります。
これは同じ雑誌の解説記事にあるものです。
ポイントはこのTREM2は脳内においては、
ゴミ掃除のような働きをしている、
ミクログリア細胞という細胞にも存在していて、
脳内に発生した老廃物を、
同様に引っ掛けて処理しているということです。
つまり、
TREM2の変異があると、
この貪食の働きが障害されるので、
神経細胞に老廃物が蓄積し易くなり、
それが認知症の発症に繋がるのではないか、
という仮説です。
ここにおいて、
アルツハイマー病は一種の免疫異常症ではないか、
という新しい考え方が提示されたのです。
アポEの変異もそうですが、
実際の変異の頻度は少ないものなので、
これがどの程度トータルに認知症の病因と絡んでいるのかは、
現時点では未知数ですが、
今後新たな治療へのブレイクスルーが、
こうした知見から生まれる可能性はあり、
今後の研究の進歩に期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
（付記）
コメントにて指摘あり、
用語の誤りを訂正しました。
（平成25年1月17日午後2時訂正）
2013-01-17 08:11
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アミロイドの前駆タンパクは、
presenilinではなく、
amyloid precursor protein (APP)です。
presenilinはAPPを切断してアミロイドを産生するプロテアーゼです。
presenilinもAPPも、
若年性アルツハイマー病の遺伝子として考えられていますね。
by アルツハイマー病の研究者 (2013-01-17 11:14)
アルツハイマー病の研究者さんへ
ご指摘ありがとうございました。
取り急ぎ当該部位のみ訂正しました。
後でもう少し正確な文面に直したいと思います。
不用意な記載やミスがないよう、
注意して記事にするよう心掛けたいと思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-01-17 14:16)