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上部消化管出血における輸血のタイミングについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
消化管出血における輸血の基準.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
大量の吐血をされた患者さんにおいて、
どのタイミングで輸血を行なうのが適切であるのかを、
検証した論文です。

こうしたデータは、
救急治療の臨床に直結するものでありながら、
あまり実証的なデータの乏しい分野であったので、
非常に重要な成果と評価をされているものです。

急性の出血に対して、
輸血を行なうという治療は、
100年以上前から行なわれているものですが、
20世紀の始めになって、
輸血の弊害やその適切な使用が、
問題となるようになり、
貧血の程度の簡便な指標となる、
血液のヘモグロビンという数値を測定して、
それが10g/dlを下回って初めて輸血を行なうという基準が、
その当時に欧米では設定されました。

より新しい2000年代初めの基準では、
胃潰瘍や食道静脈瘤破裂の際の出血に対しては、
ヘモグロビンが7g/dlを下回った段階で輸血を検討する、
というより限定的な使用制限が提案されています。

昨年に発表された欧米の輸血ガイドラインの根拠となった、
緊急輸血のデータを集計して解析した研究では、
そうした制限を設けた輸血と、
そうではない輸血とを比較して、
その後30日間の死亡率には、
差がないことが示されています。

しかし、
そのデータでは上部消化管出血の患者さんは、
全体の1%に満たない人数しか含まれていなかったため、
上部消化管出血に限定したこうした研究が、
強く求められていたのです。

そこで今回の論文では、
胃潰瘍や食道静脈瘤破裂などで、
急性の出血を来たした患者さん、
トータル921名をほぼ半数の2群に分け、
その一方はヘモグロビンが9g/dlを下回った時点で輸血を行ない、
もう一方は7g/dlを下回った時点で輸血を行なって、
その後の経過を観察しています。

その結果、
治療後45日間の死亡のリスクは、
ヘモグロビンの輸血基準を7まで制限した方が、
相対リスクで45%有意に低下した、
という結果でした。

こうした結果の得られた理由としては、
血管の圧力(主に門脈)が輸血により上昇すると、
それにより再出血のリスクが高まるので、
輸血はより制限して行なった方が、
患者さんの再出血のリスクが低下し、
予後が改善されるのではないか、
というメカニズムなどが想定されます。

ただ、
これは勿論患者さんを均質なものと仮定して、
導いた結論なので、
実際には全ての患者さんで、
同様に当て嵌まる事項ではありません。

心臓にご病気をお持ちの患者さんでは、
出血による血圧の低下が、
より心臓に強い影響を与える可能性もあります。

また、
普段から脱水傾向のある高齢の患者さんでは、
実際よりヘモグロビン値が高く測定される、
というようなことも考えられます。

つまり、
これは1つの叩き台に過ぎず、
後は個々の患者さんの状態に即して、
最善の制限数値を、
考える必要がある訳です。

それでも、今回の研究において、
ヘモグロビンを7に制限した輸血の方が、
明確に生命予後の改善効果があったという結果は、
これまでには証明されなかったもので、
救急の臨床においても、
今後重要な役割を果たすもののように思います。

今日は緊急輸血のタイミングについての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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