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ラクナ梗塞に対する抗血栓剤併用効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプトの事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ラクナ梗塞の抗血小板剤治療論文.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
ラクナ梗塞の二次予防についての論文です。

ラクナ梗塞とは何でしょうか?

「ラクナ梗塞」というのは、
通常1センチ以下の小さな脳梗塞で、
その発症する場所によっては、
めまいなどの脳梗塞症状を呈することもありますが、
その多くは「隠れ脳梗塞」の形で、
MRIなどの検査で、
発見されるものです。

しかし、
その再発により、
脳血管性の認知症の原因となることもあります。

以前はこのラクナ梗塞は、
一般的な脳梗塞である、
「アテローム血栓性梗塞」と、
同じような仕組みで起こる、
と考えられていました。
「アテローム血栓性梗塞」は、
脳の血管における動脈硬化の進行により、
血管の狭い部分が血栓で塞がって起こるもので、
これが一般的にイメージする脳梗塞です。
しかし、最近ではラクナ梗塞はむしろ、
小さな出血の予備軍、
として考えられるようになって来たのです。

ラクナ梗塞というのは、
「穿通枝」という、太い血管と血管とを繋ぐ、
細い血管に起こる病気です。
この血管に動脈硬化が起こると、
血管の壁に小さな動脈瘤をいうこぶが出来ることが多いのです。
この動脈のこぶが破けると、
出血になります。
従って、ラクナ梗塞があると、
その場所は出血の危険性が高い、
と考えられる訳です。

そして、簡単な検査では、
その出血のし易さを、
見分けることは困難なのです。

脳梗塞の予防には、「血をさらさらにする薬」が有効だ、
という言い方をする時、
それは普通、「アテローム血栓性梗塞」と、
「ラクナ梗塞」とを、
ひとまとめにして言っている場合が多いのです。

しかし、本来は別物で、
「ラクナ梗塞」の一部では、
脳出血の危険性が非常に高いので、
安易に「血をさらさらにする薬」を使うと、
却って、脳出血を起こし易くするだけで、
ちっとも予防にならないケースがあるのです。

ラクナ梗塞は欧米のデータより、
日本人には多いことが知られています。

従って、
ラクナ梗塞に対して、
どのような治療が望ましいかという問題は、
非常に重要なものなのですが、
実際にはこれまでに行なわれた殆どの大規模な臨床試験が、
アテローム血栓性梗塞とラクナ梗塞とを、
一緒にして行なわれているので、
その点についての明確なデータが、
国内外を問わず殆ど存在しなかったのです。

そこで今回の論文では、
症状を伴うラクナ梗塞を、
最近発症したことがMRIで確認されている、
3020名の患者さんを対象として、
アスピリン1日325mg単独と、
それにクロピドグレル(商品名プラビックス)を追加した、
2種類の二次予防の治療を、
平均3.4年に渡り観察しています。

アスピリンは現状、
ラクナ梗塞においても、
一定の再発予防効果があるとされています。
日本ではそれ以外にシロスタゾール(商品名プレタールなど)
が使用されていますが、
海外ではあまりポピュラーではありません。
心房細動における脳塞栓の予防や、
急性心筋梗塞の二次予防には、
アスピリンとクロピドグレルの併用が、
単剤より有効性が高いことを、
示すデータが存在しています。

アスピリンとクロピドグレルは、
それぞれメカニズムの異なる抗血小板剤で、
その併用により、
抗血栓作用は理屈の上では増強されます。

しかし、
問題は2剤の併用により、
出血などの合併症も増加する、
ということです。

今回の結果はどのようなものだったのでしょうか?

アスピリンとクロピドグレルの併用治療は、
アスピリンの単独治療に比較して、
有意な再発予防効果を示しませんでした。

その一方で、
重症の出血のリスクは、
アスピリン単独が年間発生率1.1%だったのに対して、
アスピリンとクロピドグレルの併用は、
年間発生率が2.1%と、
2倍近い増加を示しました。

更には全ての死因を含めた死亡リスクは、
アスピリン単独の場合の1.52倍に、
併用の事例では有意に増加しており、
併用により、
患者さんの予後自体に、
悪影響がある、
という結果になりました。

つまり、
ラクナ梗塞における抗血小板剤2剤の併用は、
有効性がないばかりか、
有害事象を増やし、
死亡リスクも増加させるので、
するべきではない、
という結論になります。

ただ、今回のデータは、
症状が認められたラクナ梗塞のみを対象としており、
多くのラクナ梗塞が無症状であることを考えると、
ラクナ梗塞全般に対して、
同じことが言えるのかどうかは分かりません。

しかし、
いずれにしても、
ラクナ梗塞がアテローム血栓性脳梗塞とは、
別個の性質を持つ病気であることは明らかで、
この病気が日本人に多いことを考えると、
日本人の実証的なデータが、
是非必要だと思いますし、
その再発予防のための投薬の是非は、
慎重に考えるべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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