SSブログ

プレガバリン(リリカ)の乱用とそのリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
プレガバリンの依存性.jpg
2010年のJ Am Osteopath Assoc.に掲載された、
プレガバリン(商品名リリカ)の依存と中毒の事例報告です。

プレガバリンは抗痙攣剤の一種ですが、
神経障害性の疼痛に効果のあることが注目され、
最近日本でも非常に多く処方されている薬剤です。

日本での適応は、
末梢神経障害性疼痛と線維筋痛症です。

アメリカの適応は、
糖尿病に伴う神経障害性疼痛と線維筋痛症、
帯状疱疹後神経痛と他剤無効の痙攣です。

ヨーロッパの適応は、
アメリカのそれに加えて、
全般性不安障碍と中枢性神経障害性疼痛です。

このように、
この薬は世界中で、
原因のはっきりしない慢性の痛みに対しては、
あまり制限なく使用されている、
ということが分かります。

これは僕の個人的な意見ですが、
プレガバリン(リリカ)は、
現在日本において、
あまりに安易に処方されていると思います。

あまり具体的なことは、
支障があるので書けませんが、
疼痛の管理を専門としてはいない、
多くの医療機関において、
これまでは原因のはっきりしない痛みの患者さんがみえれば、
まずロキソニンのような痛み止めを使用して、
無効であればそれでもう手はない、
という状態であったのが、
今はすぐに、
トラムセットという準麻薬が処方され、
プレガバリン(リリカ)が処方されるのです。

勿論慢性疼痛で苦しんでいる患者さんは多く、
適切な診断の元にそうした患者さんに対して、
この薬が使用されるのであれば、
何ら問題はありません。

しかし、
現状はとてもそうとは思えません。

製薬会社のプロモーションも、
SSRIが急速にシェアを拡大した時と同様に、
「とりあえず通常の治療で改善しない痛みがあれば、
専門でない先生でも気軽に使ってみて下さい」
というニュアンスのものになっていますし、
診療所にお見えになる患者さんでも、
ちょっと痛みがあったので○○科に行ったら、
すぐにリリカが処方された、
というお話が非常に多いのです。

感覚的には、どう考えても過剰処方のレベルです。

しかし、
本当にこれで問題はないのでしょうか?

安易にプレガバリンを使用することで、
患者さんに何か不利益の生じることはないのでしょうか?

端的に言えば、
現時点でそうした不利益を、
明確に示すような知見はありません。

ただ、
1つの危惧が、
最近指摘されるように、
なっています。

それが、
プレガバリンの持つ依存性と、
乱用のリスク、そして、
中断の際の離脱症状です。

痛みというのは不快なものですから、
痛み止めには大なり小なり、
使用する人間に一種の快感をもたらすという意味で、
依存性が存在します。

プレガバリンが他の薬で効果のない、
慢性の疼痛に著効するとすれば、
その薬に依存性のあるのは、
人間の心理から言って当然のことのようにも思えます。

そこで、
最初にご紹介した文献を見て頂きましょう。

これはプレガバリンの依存症の、
症例報告です。

患者さんは35歳の女性で、
ギラン・バレー症候群の後遺症の、
神経障害性腹痛のため、
オピオイドという麻薬を使用し、
その依存症に苦しみ、
それを離脱するために、
プレガバリンの使用を開始しました。
オピオイドからは離脱し、
プレガバリンは1日600mgまで増量されました。
この量は日本でも同様に、
この薬の最大用量です。

しかし、
患者さんは使用2ヶ月後には、
それでは不足だとより多くの処方を求めて、
主治医の拒否に合い、
医者を代えます。

何度も複数の病院に入退院を繰り返し、
その間にプレガバリンの処方を受け、
4週間に何と処方量は88500mgに達していました。

これはアメリカの事例ですが、
医療機関はこの大量の処方には気付かず、
処方薬局が処方箋をつき合わせて発覚しました。
この辺りは、
その事情は日本とそう違いはないようです。

ただ、
こうした事例が、
現時点でそう多く報告されている訳ではありません。

現状の認識としては、
プレガバリンは依存性を来たし難い薬とされていて、
アメリカのFDAは最も乱用や依存を来たし難い区分に、
この薬を分類しています。

プレガバリンはオピオイドやベンゾジアゼピンの受容体には、
結合しないことが確認されていますし、
依存を来たし易く断薬し難い安定剤である、
ベンゾジアゼピンからの離脱を図る際に、
代替薬として有用であるとの、
報告もあります。
こうした使用は、
要するにこの薬が依存を形成し難い、
ということを前提にしているのです。
(一部にこの薬がベンゾジアゼピンと同様の作用を持つ、
との記載がありますが、
メカニズムとしてそうしたことが確認されている訳ではなく、
やや誤解を招くものだと思います)

ただ、
一方でそれに相反するような知見もあります。

プレガバリンの450mgと、
ベンゾジアゼピンのジアゼパム(セルシン)
の30mgとは、
同等の鎮静作用を示し、
使用した患者さんの12%は多幸感を感じる
(対比された偽薬では1%)
という報告があります。

プレガバリンの急激な中断は、
不眠や吐き気、頭痛や下痢などの、
離脱症状を示す、
という報告もあります。

こうした知見は、
それが弱いものであるにせよ、
この薬に依存性や中毒のあることを、
示唆するもののように思えます。

FDAは見解を変えていませんが、
最近ヨーロッパにおいて、
プレガバリンの依存性を警告するような指摘が、
見られるようになって来ています。

現状あまりまとまった報告はありませんが、
世界的な乱用が確実に存在する以上、
比率的には少ないにせよ、
依存や離脱症状に苦しむ患者さんが、
今後増加する可能性は高く、
今のようなやや安易な使用は、
慎むべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(26)  コメント(8)  トラックバック(0) 

nice! 26

コメント 8

000

こんにちは。いつも興味深く読ませていただいています。
慢性疼痛があり「リリカ」の名前は聞いたことがありますが処方してもらえたことはありません。効くなら試してみたいです。
私の主治医は痛みを訴えると「生活に支障ある?」「我慢できるなら我慢して」と言われ、答えに詰まります。
痛みからは逃れられないのでいわれるまでもなく「常に我慢」してるんですけど・・・食ってかなきゃならないから歯を食いしばって生活してますけど・・・それができてるなら我慢しなきゃいけないんですか?というようなことが渦巻きますが言えません。
一度自分の痛みを誰かに体験してもらい客観的に判断してもらいたいです。
by 000 (2012-09-04 13:34) 

ide

ロキソニンのような腎臓障害やcox2阻害剤の粘膜損傷より依存ぐらいの副作用ならもんだいないのではないでしょうか?
神経薬に多いやめると以前より症状が酷くなる離脱症状は自覚して使えば問題ないかと、
私は今ノイロトロピン使ってますが、確かによく効きます。鼻閉を伴う首と鼻の奥の方の痛みによく効きます。依存になるのが怖いので時々間隔をあけているのですが、医師は続けて飲まないと効かないといいます。難しいですよね、依存性の問題は。
by ide (2012-09-09 17:27) 

fujiki

000さんへ
コメントありがとうございます。
痛みというのは客観的な基準がないので、
非常に難しく、
これまで軽視されがちであったのが、
リリカのような新薬が幾つか出て、
より注目されるようになっている、
というのが現状だと思います。
ただ、一方で「なんでもリリカ」というような思考にも、
なりがちな危険もあります。

どのような原因による痛みなのかが分からないので、
何とも言えませんが、
主治医の先生に一度聞いてみられるのが、
良いかも知れません。
by fujiki (2012-10-09 23:25) 

fujiki

ide さんへ
コメントありがとうございます。
確かにちょっと重く考え過ぎなのかも知れません。
ただ、依存の問題はご指摘のように厄介で、
今のあまりに気軽にリリカの処方がされている現状には、
矢張り危惧を感じます。
デパスの発売の頃も、
同様のことがあったからです。
by fujiki (2012-10-09 23:27) 

通りすがりの…

通りすがりの慢性疼痛の治療を専門としているものです。
プレガバリンについての先生の危惧は理解できます。しかし、失礼ですが、鎮痛薬一般について、十分にご理解されているか不明なところがあります。

1) 依存症(addiction)について
依存症は、あらゆる薬物で起こりえます。NSAIDsでさえも起こします。
ある薬物に対して依存症を起こすかどうかは色々な要素がありますが、その人の個人的な問題(遺伝的因子や後天的なもの)も大きく関与します。この症例の「処方量は88500mg」というのは極めて異常で、むしろ個人的な因子が大きく関与していると推定されます。

2) 「依存」と「中毒」という用語の使い分けについて
依存(正確な訳語は『嗜癖』でしょうか)はaddiction、中毒はpoisoningです。一酸化炭素「中毒」は起こしますが、一酸化炭素「依存」は起こしません。さらに言うと、addictionとdependenceとは違います。この違いが判らないと、妙な話になってきます。

3) 離脱症状について
離脱症状は、中枢神経系に作動する薬物に特異的なものではありません。ステロイドや高血圧治療薬のβブロッカーでも見られるのはご存知のとおりです。ですから、離脱症状がみられることがそのままその薬のaddicitonを示すわけではありません。

4) 「準麻薬」という言葉について
準麻薬という専門用語はありません。あえて言えば、「第二種向精神薬に分類されるオピオイド系鎮痛薬」でしょう。
トラマドールは、オピオイド系鎮痛薬ですが、麻薬でも”準麻薬”でもありません。

私も個人的には、リリカの投与は多すぎると思っております。
だからこそ、それに対する反論は精密な議論の展開が必要なのです。

プレガバリンではありませんが、1月号のペインクリニック誌にオピオイド系鎮痛薬に関しての特集が組まれておりますので、ご参考まで。
ちなみに、その著者の中の誰かが、私です。 (^_^;)
by 通りすがりの… (2014-02-09 17:18) 

fujiki

慢性疼痛専門医様
貴重なご指摘ありがとうございます。
今読むと語句の使い方が不適切で、
正確さを欠くものであったと思います。
私なりにまた勉強をさせて頂いて、
より正確な記述を心掛けたいと思います。
本当にありがとうございました。
by fujiki (2014-02-10 08:24) 

letter

お世話になっています。
朝の早い先生のブログをいつも楽しみに拝見させていただいています。

依存性の薬を処方をされる時
その病状が完治した際に減薬、断薬方法、離脱症状を説明して処方して下さる医師は私の身近にはおられません。

000さんに「病状が楽になる薬」を服用するより痛みを我慢することはお辛いことでしょうが我慢してくださいと申し上げたいです。

私は小さな錠剤を1年かけて減薬している最中です。
3月末にはfujiki先生に錠剤1/2まで減薬出来た報告をしたいと
思っています。

by letter (2014-02-11 11:21) 

ある精神科医

私は最近ペインクリニックに通院し、リリカの処方受けました。その飲んだ感じが、以前デパスを始めて飲んだ時にそっくりなぼやっとするけれどテンションは少し上がって仕事がはかどる変な感じでした。これが飲み続けてもずっと続くのがデパスと違うところ。デパスに依存する人も多いが、このリリカはきっとそれよりも強力であると思う。私の主治医は硬い人だからそのことを言っても信じないと思う。すぐになれますよと言うに違いない。もう飲み始めて1ヶ月だけど慣れません。
by ある精神科医 (2016-01-10 09:57) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0