難治性慢性咳嗽に対するガバペンチンの改善効果について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のLancet誌に掲載された、
難治性の慢性咳嗽の治療についての論文です。
咳が何か月も止まらない、
というご訴えの患者さんは、
診療所にもよくお見えになります。
こうした症状の患者さんの中には、
百日咳やマイコプラズマ肺炎、肺結核などの感染症、
気管支喘息などのアレルギー疾患、
気管支拡張症や肺気腫などの慢性の肺疾患、
肺癌などの癌による刺激や、
胃食道逆流症による胃酸の刺激など、
様々な原因疾患がありますが、
そうした可能性が全て否定され、
かつ通常使用される、
咳止めや抗生物質、
喘息治療剤や抗アレルギー剤、
ステロイド剤や胃酸分泌抑制剤などを、
その適応を慎重に検討しつつ、
適切に使用しても、
概ね2か月以上咳症状の改善が認められないものを、
難治性(もしくは治療抵抗性)慢性咳嗽と呼んでいます。
上記の文献によれば、
欧米において人口の11~16%が慢性咳嗽に罹患し、
紹介患者の20~42%が、
適切な治療によっても改善していない、
というデータもあります。
つまり、
難治性慢性咳嗽は、
決して稀な病気ではありません。
難治性慢性咳嗽は、
中年の女性に多い傾向にあり、
気道感染をそのきっかけとすることが殆どです。
従って、
何らかの自己免疫的機序も想定されますが、
その詳細は不明です。
難治性慢性咳嗽のメカニズムは、
詳細は不明ですが、
咳の出るのは咳反射が亢進しているからで、
それはその局所に気道の過敏性があって、
咳刺激に対して敏感に反応している場合と、
より中枢性の神経系に、
その過敏性が存在している場合の、
大きく分ければ2通りが存在し、
その両者の合併もまた考えられます。
局所の過敏性が原因であれば、
その気道過敏性を、
抑えるような治療が有効な筈です。
このメカニズムは気管支喘息に似ていますから、
治療には主に喘息の治療薬が用いられます。
一方で中枢性の過敏性というのは、
感覚を伝達する神経の経路に問題があり、
咽喉や気道は特に過敏でなくとも、
その信号の伝達の経路で、
過剰な神経の興奮が起こり、
それが咳刺激の原因となるのです。
従って、
このタイプのメカニズムであれば、
喘息の薬など使っても効果はなく、
むしろ神経の過敏性を抑えるような薬の方が、
より効果が期待出来る、
ということになります。
この目的にこれまでもっぱら使われて来たのが、
モルヒネのような麻薬です。
麻薬はオピオイド受容体に結合することにより、
脳の咳中枢自体を抑えるので、
こうした中枢性の慢性咳嗽にも効果を示します。
しかし、
麻薬ですから依存性や中毒があり、
また中枢が抑えられることによる、
日常生活が送り難くなるような副作用があります。
そこで、
麻薬に代わって慢性疼痛の治療に使用されるタイプの、
抗痙攣剤を使用する、
という発想が生まれました。
慢性疼痛にはガバペンチンやプレガバリン(リリカ)などの、
抗痙攣剤が使用されますが、
これは神経の過敏性を抑える目的で、
その意味で症状は痛みと咳というように異なってはいても、
そのメカニズムには相同性があり、
同種の薬剤が効果のある可能性があるのです。
そこで今回の文献では、
オーストラリアにおいて、
8週間以上、日常生活が制限されるような、
慢性の咳症状が続き、
咳止めや吸入ステロイドなどの治療が無効の、
難治性慢性咳嗽の患者さんを、
くじ引きで2つの群に分け、
主治医にも患者さんにも分からない方法で、
一方には抗痙攣剤のガバペンチンを、
もう一方には偽薬を使用して、
その後8週間の経過を観察しています。
例数はそれぞれ30人程度ですから、
少ないのですが、
厳密な方法が取られている点に、
意味がある訳です。
その結果、
ガバペンチンの使用により、
偽薬と比較して、
有意に咳の回数や強さは減少し、
患者さんのADLも改善が認められました。
その副作用は、
吐き気や腹痛、めまいなどが主なもので、
重篤なものは認められませんでした。
ただ、この研究では、
その忍容性を見ながら増量しているので、
そうした結果になる訳です。
8週間の使用後ガバペンチンを中止すると、
再び咳症状は増悪が認められました。
つまり、
この効果はガバペンチンの神経機能の抑制による、
あくまで一過性のもので、
使用している間のみ有効な性質のものです。
一方で中止により症状が元に戻ったことは、
この薬の効果が、
たまたま自然に症状が改善した、
という性質のものではないことを示しています。
今回の結果をどのように考えれば良いでしょうか?
慢性咳嗽が通常の治療で改善せず、
従来であれば麻薬を使わざるを得ないような状況であれば、
それよりベターな選択肢として、
ガバペンチンの使用は一考に値します。
プレガバリン(リリカ)も、
ほぼ同等の作用の薬ですから、
同様に有効性が期待出来ます。
ただ、今回のデータでは、
長期使用した場合の効果と安全性は示されてはおらず、
今後の検証を期待したいと思います。
今日は難治性の慢性咳嗽に対する、
新しい治療の可能性についての話でした
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のLancet誌に掲載された、
難治性の慢性咳嗽の治療についての論文です。
咳が何か月も止まらない、
というご訴えの患者さんは、
診療所にもよくお見えになります。
こうした症状の患者さんの中には、
百日咳やマイコプラズマ肺炎、肺結核などの感染症、
気管支喘息などのアレルギー疾患、
気管支拡張症や肺気腫などの慢性の肺疾患、
肺癌などの癌による刺激や、
胃食道逆流症による胃酸の刺激など、
様々な原因疾患がありますが、
そうした可能性が全て否定され、
かつ通常使用される、
咳止めや抗生物質、
喘息治療剤や抗アレルギー剤、
ステロイド剤や胃酸分泌抑制剤などを、
その適応を慎重に検討しつつ、
適切に使用しても、
概ね2か月以上咳症状の改善が認められないものを、
難治性(もしくは治療抵抗性)慢性咳嗽と呼んでいます。
上記の文献によれば、
欧米において人口の11~16%が慢性咳嗽に罹患し、
紹介患者の20~42%が、
適切な治療によっても改善していない、
というデータもあります。
つまり、
難治性慢性咳嗽は、
決して稀な病気ではありません。
難治性慢性咳嗽は、
中年の女性に多い傾向にあり、
気道感染をそのきっかけとすることが殆どです。
従って、
何らかの自己免疫的機序も想定されますが、
その詳細は不明です。
難治性慢性咳嗽のメカニズムは、
詳細は不明ですが、
咳の出るのは咳反射が亢進しているからで、
それはその局所に気道の過敏性があって、
咳刺激に対して敏感に反応している場合と、
より中枢性の神経系に、
その過敏性が存在している場合の、
大きく分ければ2通りが存在し、
その両者の合併もまた考えられます。
局所の過敏性が原因であれば、
その気道過敏性を、
抑えるような治療が有効な筈です。
このメカニズムは気管支喘息に似ていますから、
治療には主に喘息の治療薬が用いられます。
一方で中枢性の過敏性というのは、
感覚を伝達する神経の経路に問題があり、
咽喉や気道は特に過敏でなくとも、
その信号の伝達の経路で、
過剰な神経の興奮が起こり、
それが咳刺激の原因となるのです。
従って、
このタイプのメカニズムであれば、
喘息の薬など使っても効果はなく、
むしろ神経の過敏性を抑えるような薬の方が、
より効果が期待出来る、
ということになります。
この目的にこれまでもっぱら使われて来たのが、
モルヒネのような麻薬です。
麻薬はオピオイド受容体に結合することにより、
脳の咳中枢自体を抑えるので、
こうした中枢性の慢性咳嗽にも効果を示します。
しかし、
麻薬ですから依存性や中毒があり、
また中枢が抑えられることによる、
日常生活が送り難くなるような副作用があります。
そこで、
麻薬に代わって慢性疼痛の治療に使用されるタイプの、
抗痙攣剤を使用する、
という発想が生まれました。
慢性疼痛にはガバペンチンやプレガバリン(リリカ)などの、
抗痙攣剤が使用されますが、
これは神経の過敏性を抑える目的で、
その意味で症状は痛みと咳というように異なってはいても、
そのメカニズムには相同性があり、
同種の薬剤が効果のある可能性があるのです。
そこで今回の文献では、
オーストラリアにおいて、
8週間以上、日常生活が制限されるような、
慢性の咳症状が続き、
咳止めや吸入ステロイドなどの治療が無効の、
難治性慢性咳嗽の患者さんを、
くじ引きで2つの群に分け、
主治医にも患者さんにも分からない方法で、
一方には抗痙攣剤のガバペンチンを、
もう一方には偽薬を使用して、
その後8週間の経過を観察しています。
例数はそれぞれ30人程度ですから、
少ないのですが、
厳密な方法が取られている点に、
意味がある訳です。
その結果、
ガバペンチンの使用により、
偽薬と比較して、
有意に咳の回数や強さは減少し、
患者さんのADLも改善が認められました。
その副作用は、
吐き気や腹痛、めまいなどが主なもので、
重篤なものは認められませんでした。
ただ、この研究では、
その忍容性を見ながら増量しているので、
そうした結果になる訳です。
8週間の使用後ガバペンチンを中止すると、
再び咳症状は増悪が認められました。
つまり、
この効果はガバペンチンの神経機能の抑制による、
あくまで一過性のもので、
使用している間のみ有効な性質のものです。
一方で中止により症状が元に戻ったことは、
この薬の効果が、
たまたま自然に症状が改善した、
という性質のものではないことを示しています。
今回の結果をどのように考えれば良いでしょうか?
慢性咳嗽が通常の治療で改善せず、
従来であれば麻薬を使わざるを得ないような状況であれば、
それよりベターな選択肢として、
ガバペンチンの使用は一考に値します。
プレガバリン(リリカ)も、
ほぼ同等の作用の薬ですから、
同様に有効性が期待出来ます。
ただ、今回のデータでは、
長期使用した場合の効果と安全性は示されてはおらず、
今後の検証を期待したいと思います。
今日は難治性の慢性咳嗽に対する、
新しい治療の可能性についての話でした
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2012-09-06 08:07
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