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アルツハイマー病の初期診断と経過と経過予測について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルツハイマー病の発症前経過論文.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
アルツハイマー病の症状経過と、
それを予測するための臨床検査についての論文です。

アルツハイマー型の老年認知症は、
非常に長期間の経過を持つ病気です。

その病態は、
βアミロイドという蛋白質が、
神経細胞に異常に沈着することにより、
起こると考えられていますが、
その沈着の開始から、
物忘れなどの明確な臨床症状が出現するまでの間には、
10年以上の時間が掛かると推定されています。

アルツハイマー型認知症の予防と治療は、
言うまでもなく今後の医療の最大の問題の1つですが、
多くの臨床試験は短期間で行なわれているため、
長期的な効果を検証することが難しい、
という難点がありました。

また、
発症前の予防という観点で考えると、
発症前診断の精度の高い検査の活用が不可欠です。

そこで今回の論文では、
遺伝性のアルツハイマー病のリスクのある、
128名の方のデータを解析し、
その長期間の経過を検証しています。

常染色体優性遺伝のアルツハイマー病では、
仮に発症するとすれば、
どの年齢から症状が発現するのかを、
予め推定することが可能です。

これを利用して、
実際の症状が出現するどの程度以前から、
どのような検査値の異常が出現するのかを、
検証しています。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
アルツハイマー病の経過の図.jpg

横軸のゼロは、
各人の想定される症状発現の時期を示しています。

各種のマーカーが測定されていますが、
特にご注目頂きたいのは、
CSFAβ42と書かれた、
脳脊髄液中のβアミロイドの濃度です。

これは腰椎穿刺という、
背中に針を刺す検査で採取されたものですが、
この濃度の低下は、
症状の発現予測時期の、
25年以上前から認められています。
そして、
症状発現時期までほぼ直線的に低下を続けています。

神経細胞にβアミロイドが沈着するということは、
その脳室への排泄が、
速やかに行なわれなくなっていることを示し、
それにより、
脳脊髄液中のβアミロイドの濃度が、
低下すると考えられます。

通常臨床で使用されている、
MRIによる海馬の体積の減少や、
PETによる異常所見は、
概ね10~15年くらい前より出現していて、
その低下も必ずしも直線的ではありません。

質問などによる、
記憶障害などの数値の低下は、
概ねそれより更に5年以上経過してから、
計測されています。

この経過は、
あくまで遺伝性のアルツハイマー病に関したものですが、
概ねアルツハイマー型老年認知症の経過も、
それと大きく違うものではないと想定されます。

このデータは、
βアミロイドの沈着を予防するような治療が存在する場合に、
治療上の大きな意味を持ちます。

先日ベキサロテンというリンパ腫治療薬に、
βアミロイドの排泄を促し、
認知症症状を改善する効果のあることが、
動物実験のレベルで認められたことをご紹介しましたが、
仮にこの薬が人間にも効果があることが、
今後判明するとすれば、
定期的に脳脊髄液中のβアミロイドを測定し、
その低下が見られた段階で、
この薬を使用することにより、
アルツハイマー病を未然に予防することが、
可能となるかも知れないのです。

これはかなり楽観的な予想ではありますが、
決して絵空事ではなく、
今後の研究の進展と、
その1日も早い臨床応用を、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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