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不活化ポリオ単独ワクチン導入とその問題点 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
左手が使えないので作業は遅く、
イライラしますが仕方がありません。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
不活化ポリオワクチン.jpg
不活化ポリオワクチンの定期予防接種が、
今週末の9月1日から開始となります。

ご存知の方も多いように、
ポリオのワクチンには、
ポリオのウイルスを弱めてそのまま使用する、
生ワクチンと、
ウイルス自体は死滅させて、
その成分のみを使用する、
不活化ワクチンが存在しています。

日本では今年まで、
経口の生ワクチンが、
定期接種として使用されていましたが、
海外では1980年代に既に実用化されていた、
不活化ワクチンが、
最近では主流となっていて、
生ワクチンは稀にワクチン株による、
ポリオの発生があることから、
使用がされなくなる傾向にありました。

日本での不活化ワクチンの導入は遅れていたため、
自費による輸入ワクチンの接種を、
導入する医療機関がここ数年は増えていて、
生ワクチンの接種率も低下していることから、
より早期の不活化ワクチンの正式な導入を望む声が強く、
その声に押される形で、
急遽今週末からの接種開始となったのです。

待ち望んでいたお母さんも、
多いのではないかと思います。

今回導入されるワクチンは、
ポリオ単独の不活化ワクチンで、
サノフィ・パスツール社の商品です。

日本は長く国産のワクチンを原則とする方針を取って来たので、
海外で開発製造されたワクチンは、
あまりこれまで日本では使用されませんでした。

しかし、
最近は海外で優れたワクチンが次々と開発される一方、
日本でのそうしたワクチンの導入は遅れているので、
国も方針を改め、
最近導入されたヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンなどの多くのワクチンは、
日本で検定はされていても、
実際には海外の開発品です。

サノフィ・パスツール社は、
世界的なワクチンメーカーで、
今回初めてその社名でのワクチン販売となるのです。

正確には8月31日に発売され、
9月1日から定期接種が始まります。

これにより、
定期接種としての生ワクチンの接種は、
8月31日をもって中止されます。

今後は生ワクチンから不活化ワクチンへの、
移行期間となる訳です。

スムースな移行が望まれるところですが、
実際にはそう簡単なものではなく、
幾つかの問題が指摘されています。

今回の単独不活化ポリオワクチンの導入は、
経過措置的な側面があります。

と言うのも、
元々国は現行の3種混合ワクチンに、
不活化ポリオワクチンを加えた、
4種混合ワクチンの導入を目指していて、
導入されればこの方が、
1回針を刺すだけで、4種類の病気の予防になるのですから、
よりお子さんの負担が少なく望ましいのです。

ただ、経過措置としては、
3種混合や生ポリオワクチンを、
途中まで打っている、
というお子さんが想定されますから、
単独のポリオワクチンも必要にはなる訳です。

国は4種混合と単独のポリオワクチンとを、
同時に導入する予定でいましたが、
より迅速に不活化ワクチンを導入せよとの各方面からの強い声と、
生ワクチンの接種率が現実に低下していることから、
今回の異例の決定となりました。

しかし、
現行の予定では、
今年の11月1日から4種混合ワクチンが
接種開始となる予定で、
9月と10月の2ヶ月間のみ、
単独ワクチンのみが使用されることになります。

これはかなり慌しく、
混乱を招くもののように僕には思えます。

4種混合ワクチンは化血研と阪大微研によるもので、
この中に含まれるポリオワクチン抗原は、
セービン株という、
生ワクチン株と同じ弱毒性のワクチン由来のものです。

一方で9月から導入される、
単独の不活化ワクチンは、
ソーク株という、
野生型のポリオワクチンの抗原を元にしています。

その効果は臨床試験の結果から、
ほぼ同等と考えられていますが、
性質の基本的には違うワクチンである、
という点には注意が必要です。

従って、
両者を併用した場合の効果と安全性については、
国内で臨床試験が行なわれているようですが、
まだその結果は出ていないので、
現行は原則として両者の併用は、
避けるのが望ましいとされています。

勿論この原則は早晩解除になると思いますが、
本来であれば、
同一株由来のワクチンが、
両者で使用されることが望ましいのは間違いがなく、
何でもありのなし崩しの方針には、
僕は疑問を感じます。

ヒブワクチンなどの導入時には、
診療所のある渋谷区では、
各医療機関当たり何件までのように、
ワクチンの接種が制限されたのですが、
今回はそうした制限は行なわれず、
先日の医師会の説明会での製薬会社の担当者の方の話では、
卸さんが全ての責任を持ってワクチンの配分をするので、
製薬会社は一切関知しない、
と受け取れるような発言がありました。

必要本数を140万本として、
それと同等の分を生産し、
それを割り振るという発想のようですから、
素朴に考えれば、
これでは不足することは間違いなさそうですが、
このワクチンはそもそも11月までの短期間のみ、
需要が高まり、
その後4種混合が発売されれば、
また需要はグッと減るでしょうから、
製薬会社も余らせたくないのが本音で、
国も強引に発売を前倒ししているので、
強くは言えないのではないかと推察します。

診療所では当面ご希望をお受けした時点で、
卸さんに確認の上、
再度ご連絡をして、
予約を確定するつもりでいますが、
ほぼ間違いなく一時的には品薄になり、
しばらくするとダブつくことは目に見えているので、
ご希望の保護者の方は、
かならずこの日に接種、
というようにはお考えにならず、
余裕を持ってスケジュールを立てて頂くのが、
良いのではないかと思います。

日本で今流行している病気ではないのですから、
少し余裕を持って考えて頂いても、
良いのではないかと思うのです。

明日はQ&A形式で、
もう少し不活化ポリオワクチンの問題を、
考えたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 5

katz

おはようございます。
いつも勉強させていただいています。
ありがとうございます。
ポリオの野生株に関しては正確には「流行していない」というより
「国内では長期間発生そのものがない」だと思います。
当院でも、急ぐ必要なはないですよ、と話しています。
by katz (2012-08-27 08:53) 

fujiki

katz さんへ
コメントありがとうございます。
現場の混乱のないことを祈りたいと思います。
by fujiki (2012-08-27 22:38) 

オレンジ

1歳半の子どもにすでに自費で2回の不活化ポリオワクチンを接種し、3回目は10月初めを予定していたところ、9月から公的な接種(自己負担なし)となりました。単独接種は9月、10月のみとは知りませんでした。今夜もう一度役所から送付された接種票を見直してみます。ありがとうございました。

3回目の接種は2回目の接種から8ヵ月後とのことでしたので、予定通りに10月に接種しようと思います。
by オレンジ (2012-09-19 16:36) 

fujiki

オレンジさんへ
コメントありがとうございます。
ちょっと書き方が紛らわしかったかも知れません。
8月以降の出生で、
初回から4種混合の接種になるお子さんは、
原則4回とも4種混合の接種になる、
という意味合いです。
それ以前に出生のお子さんの場合には、
単独接種は勿論11月以降も継続されると思います。
by fujiki (2012-09-19 22:26) 

オレンジ

早速のお返事どうもありがとうございました。了解いたしました。
by オレンジ (2012-09-20 14:16) 

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