SSブログ

チェルノブイリ後小児甲状腺癌の長期経過について [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
チェルノブイリ小児甲状腺癌の長期経過.jpg
2011年のEndocrine誌に掲載された、
チェルノブイリ原発事故後の、
周辺地域の小児甲状腺癌の、
長期予後についての論文です。

それほどレベルの高い雑誌ではありませんが、
内容は興味深いものです。

皆さんもよくご存知のように、
チェルノブイリの原発事故後に、
4年後くらいから小児の甲状腺乳頭癌の報告が相次ぎ、
現時点では主にミルクに含まれていた、
放射性ヨードの内部被曝による発癌と、
考えられています。

この文献はイタリアのピサ大学のものですが、
1994年に47名の治療後の小児甲状腺癌の患者さんに、
診察と再検査を行なっています。

お子さんは全てゴメル地区の方で、
経緯からはほぼ全員が、
放射線の誘発による発癌と考えられます。

お子さんは平均で2年前に、
主に甲状腺の部分切除の手術を、
当時のソ連国内の医療機関で受けています。

しかし、
その時点でのピサ大学の検査の結果、
そのうちの21名のお子さんは、
再手術が必要と診断されました。

患者さんの年齢はこの時点で4歳~14歳です。

甲状腺乳頭癌の治療は、
日本では可能であれば正常の甲状腺組織は、
ある程度残すのが基本で、
周辺のリンパ腺は切除し、
放射線による治療の併用は、
全切除でなければ施行はされません。

一方で欧米の治療のスタンダードは、
初期であっても甲状腺を全て切除するのが基本で、
その後に放射性ヨードによるアブレーションと言って、
大量の放射性ヨードを投与し、
残存する甲状腺組織を、
根こそぎ死滅させるのが一般的です。

47名のお子さんに対するソ連での治療は、
甲状腺の部分切除もしくは片葉切除が多く、
一部は全摘が選択されていますが、
放射性ヨードによるアブレーションは行なわれていません。

再手術の適応とされた21例は、
全例が超音波検査で癌の疑われる組織が残存していて、
そのうち19例は初回手術が片葉切除で、
術後の評価では同側に残存組織は確認されていません。
そのうちの5例は頸部リンパ節転移を伴っていて、
残存組織のない2例は、
甲状腺全摘の事例で、
頸部リンパ節の転移のみが認められました。
また、肺などの遠隔転移の見付かった事例も含まれています。

初回のソ連の手術において、
片葉切除の19例中、
5例のお子さんが片側の反回神経麻痺を、
2例が副甲状腺機能低下症を、
それぞれ発症しています。
これはいずれも手術の合併症です。

片葉切除で副甲状腺機能低下症になるのは、
通常はあまりないことですから、
初回の手術に、
これはやや問題のあった可能性を示唆しています。

さて、
再手術は全て甲状腺の全摘出が行なわれ、
患者さんの同意の得られなかった1例を除いて、
20例はその後に放射性ヨードによるアブレーションが、
追加されています。

再手術時の合併症は、
片側の反回神経麻痺が1例と、
副甲状腺機能低下症が4例です。
(副甲状腺機能低下症の頻度は通常より多く、
文献には著者の弁解めいた記載があります)

そして、
手術から15年後の2008~2009年に、
21例全員に、
超音波とサイログロブリンの測定、
そしてヨードシンチによる、
再検査が施行されています。

この再検査の結果では、
21例全例において、
再発の所見はなく、
放射性ヨード治療を行なわなかった1例では、
甲状腺組織の残存は認められたものの、
再発の所見はありませんでした。

内容をまとめると、
こういうことです。

甲状腺の部分切除で治療された、
放射線誘発性の小児甲状腺乳頭癌は、
2年程度の短期間で、
再発の事例が少なからず認められ、
再手術が必要となったが、
甲状腺の全摘出と放射性ヨードの治療を施行すると、
15年間という長期間の再発率を、
ゼロにすることが可能であった。

つまり、
今回の事例からは、
放射線誘発性の小児甲状腺癌の治療については、
最初から全摘出が望ましい、
ということになります。

ただし…

初回の手術の技術レベルが、
どの程度のものであったのかが、
大きな問題です。

合併症も多いですし、
そもそも根治を目指した手術であったのかも、
疑問に思えるところです。

技術レベルと術前の判断が的確であれば、
片葉切除でも多くの場合、
再発は起こらなかった可能性もあるからです。

もう1つの問題は、
よく議論のあるところですが、
放射線誘発性の小児甲状腺乳頭癌は、
放射線と無関係のものと比較して、
転移や再発をし易いのだろうか、
ということです。

今回のデータなどを見ると、
そうした印象は感じられます。

ただ、初回の手術の判断や手技が杜撰なものであれば、
当然再発も増えるでしょうから、
その判断は難しいところです。

一時期は、
多くの研究者が、
放射線誘発性の甲状腺癌は悪性度が高い、
という見解を持ったのですが、
それを実証するような、
対比に出来るデータはなく、
当該地域のヨード欠乏に、
その要因を求める見解もあって、
この点には明確な結論は出ていない、
というのが実際のところではないかと思います。

ただし、
甲状腺乳頭癌は、
それが放射線誘発性のものであっても、
再発は決して少なくはないけれど、
その長期予後は適切な治療が行なわれれば、
少なくとも生命予後に関しては、
概ね良好なものである、
という点は確認しておく必要があると思います。

今日はチェルノブイリ事故後の、
小児甲状腺乳頭癌の、
長期予後のデータを考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(20)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 20

コメント 1

とりちぇり

はじめまして。いつも拝見させていただいております
わたしには1歳6カ月の息子がおり、日々放射能汚染におびえて
暮らしております。
息子は3.11当時生後1週間でした。母乳があまりでなかったので
ミルクを飲ませておりましたが
東京の水道水からヨウ素、あげくのはてには粉ミルクからも
セシウムが・・・
子供を守ることができず自分を責め続けました。
チェリノブイリ予後データのお話、とても勉強になりました(ちょっと難しいですが)
食だけでも守りたいのですが
魚も危ないようで。。。
千葉のいわしからセシウムは0.3ベクレル程度なのに
トリウム234とプルトアクチニウム234mが10~30ベクレルあったそうです 
一般の方が検査されたようです。
日本の食は汚染されもはや被ばくをするしかないという
状況なのでしょうか
by とりちぇり (2012-08-23 12:23) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0