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脱水は悪い状態なのか? [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はほぼ雑談です。

今は猛暑で体調を崩される方も多いと思います。

熱中症の予防ということになると、
こまめに水分を摂ることが推奨されます。

これは勿論正しい知識ですが、
脱水が怖い、
ということだけが強調されると、
絶えず水を飲んでいないと不安になる、
ということにもなり、
水分が多過ぎて、
却って体調を崩すというケースが、
逆に問題になります。

夏場は咽喉が渇くので、
水分をどうしても多く摂るようになり、
冷たいものを摂り過ぎて、
お腹を壊す、という話もよくあります。

先日ご紹介したように、
ボストンマラソンの参加者を集めたデータでは、
その13%で水の飲み過ぎによる、
低ナトリウム血症が認められました。

つまり、
マラソンのような脱水の危険性の高い運動においても、
その危険性が過剰に指摘される結果、
水の過剰、
すなわち「溢水」に至るケースが、
実際には結構多いということが分かります。

水分補給にはただの水よりも、
スポーツドリンクやOS-1のような電解質経口補液剤が良い、
という宣伝が嵐のように吹き荒れているので、
それを真に受けて、
水替わりに普段から飲むと、
身体は過剰な塩分と水とのために、
すぐに浮腫んで体調が悪くなります。

基本的にOS-1のようなものは、
治療薬であって予防のための飲み物ではないのです。

確かに病院に運ばれるような、
熱中症の患者さんには高度の脱水があり、
点滴治療が必要ですが、
それは普段から点滴をしたりその代用の飲み物を飲んだ方が、
熱中症にならずに済む、
ということとは全く意味が違うのです。
そのことを、
どうも一般の方のみならず、
医療関係者の多くの方も、
誤解をしているように僕には思えます。

以前診療所で鍼灸治療をお願いしていた、
台湾の鍼灸師の方の話では、
高齢の方でも今は、
圧倒的に身体の水分が過剰な人が多い、
という意見でした。

これを東洋医学的には「水毒」と言いますが、
生理学的には脱水に傾く高齢者でも、
実際には水分の摂り過ぎで、
水毒の状態になっている方が多く、
身体のだるさや浮腫み、
めまいや頭痛などの症候や症状は、
そのサインであることが知られています。

水毒の薬の代表は五苓散という漢方薬ですが、
浮腫みがあるのに咽喉が渇く、
というのがその適応の兆候で、
つまりこれは、
咽喉の渇きが身体の水分の状態を、
正確に反映しなくなった状態を示しています。

脱水になれば咽喉が渇き、
脱水が解消すれば渇かなくなるのが本来なのに、
身体は水が過剰になっているのに、
咽喉だけが渇く、
というのが現在の人間によくあるパターンです。

この中には、
血管内脱水と言って、
身体の水分が血管の外に移動してしまい、
血液量は少ないのに浮腫んでいる、
というような病的な状態もありますが、
その多くは、
むしろ脱水を怖がって、
水分を過剰に摂ることにより、
生じている現象のように僕には思われます。

軽度の脱水というのは、
むしろ生理的な状態です。

これも先日ご紹介しましたように、
運動時には軽度の脱水状態の方が、
より運動の効率は上がるのです。

つまり、
身体がエネルギーを消費することにより、
空腹と咽喉の渇きとが生じ、
適度なそのストレスは
むしろ動物としての人間の感覚を研ぎ澄まし、
エネルギー効率を上げるので、
良い結果を一時的にはもたらすのです。
そして、
一仕事終えた後で、
空腹と咽喉の渇きとが、
食事と水分の補給とによって補われる時、
人間は心地良い充足感に満たされ、
眠りに就くのです。

皆さんも経験を辿って頂ければ、
軽度の脱水状態の心地良さと、
水分が過剰になった時の不快感を、
一度ならずご経験されたことが、
あるのではないかと思います。

最近「絶食の勧め」のような言説が流行していますが、
確かに絶食により、
長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子が、
活性化することは確認されています。

定期的に絶食の状態に一時的になることが、
人間の身体にとって意味のあることであるなら、
定期的に軽度の脱水状態になることも、
身体にとって悪いことではないのではないでしょうか?

老人ホームや在宅で、
ご高齢の方に多く接していると、
特に老衰により食事の摂れなくなったような場合には、
少し脱水気味の方が、
痛みや苦しさを感じることが少なく、
不思議と床ずれにもならないことを、
多く経験します。

逆に点滴などで脱水を補正するようにすると、
その程度にもよりますが、
比較的少量でも全身に浮腫みが生じ、
痰が絡んで胸がゴロゴロ鳴ったり、
重い床ずれが出来ることが多いのです。

これはご高齢の方では、
心臓や肺、腎臓の機能も、
年齢に伴って低下するために、
水分を血管の中に維持し巡らす機能が低下し、
塩分の排泄機能も低下するので、
水分の過剰になり易い、
という生理的な事実を意味しています。

この時に、
身体の水分量をそれに合わせて絞って、
内臓の機能的低下とのバランスを取るのが、
適切で無理のない適応と言えるのです。

脱水になると、
血がドロドロになって、
脳卒中や心筋梗塞が起こり易くなるのでは、
と思われる方も多く、そうした言説も確かにありますが、
高度の脱水はともかく、
軽度の脱水の方が軽度の水過剰よりも、
そうした発作が生じ易い、
というようなデータはあまりなく、
経験的にもそうしたことはむしろ、
水過剰の状態の時に、
生じ易いように思います。

大分前の話ですが、
非常に印象的な事例を経験しています。

非常に親思いで経済的にも恵まれたご家族が、
高齢のお母さんが脳梗塞の後に肺炎を繰り返して、
食事の摂れない状態になると、
迷わず中心静脈栄養を在宅で施行する方針を決めました。

しかし、
計算上は適正な量の点滴で、
栄養剤が注入されたのですが、
そのお母さんの身体はすぐに浮腫み、
心臓や肺に水が溜まって、
すぐに入退院を繰り返すようになり、
入院中に心筋梗塞の発作を起こして、
その後に亡くなりました。

この事例を経験してから、
僕はご高齢の方には、
軽度の脱水の状態が、
むしろ適切な状態なのではないか、
と考えるようになりました。

勿論ご高齢の方は、
最初から脱水傾向にあり、
そのために体温調節が狭い幅の中に留まるので、
熱中症になり易い、
という傾向はあります。

そのために、
熱中症になり易いような環境では、
こまめに水分を摂ることが、
重要であることは事実だと思います。

しかし、
高齢者の熱中症は、
水分を摂れば、
それで完全に防げる、
という性質のものではありませんし、
その効果が明確に立証されたこともないと思います。

実際には、
高齢者の体温調節は、
ある限定された幅の中でしか、
行なわれないのですから、
水分摂取の効果自体も限定的で、
矢張り適切に室内ではエアコンなどを使用して頂いたり、
濡れタオルなどで、
皮膚温を下げるような工夫も必要です。

それを無視して、
水分、特にスポーツドリンクなどの、
摂取のみを習慣化することは、
却って塩分などの付加量を増やし、
身体の水分過剰から、
体調を崩す危険性を増すことも、
考慮するべきではないでしょうか?

脱水が怖い、
という飲料メーカーによる宣伝が、
医療を巻き込んで広く流布されていて、
「水毒」による体調不良に、
苦しんでいる方が多いのが現在だと思います。
勿論脱水は怖いことに間違いはありませんが、
僕達の体調不良の原因は、
水の過剰によることが意外に多く、
高齢者があまり水分を欲しなくなるのは、
自然の反応の1つでもある、
という事実を、
もう一度確認する必要があるように思えてなりません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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今野祥山

仰っている事良く理解できます。
スポーツウーマンの妻のスポーツドリンクを時々失敬していましたが、ほとんど座っての作業で全く汗もかかないし、高血圧症の私には毒以外の何者でもありませんでした。
テレビのコマーシャルでは健康と美容に関するいい加減な製品のオンパレードで、消費者である我々がもっと真剣に正しい知識を学び賢くならなければとつくづく思います。
先生のブログは常にこのような問題を提起してもらえる頼もしい情報源です。何時までも続けてもらえる事ように応援しております。
by 今野祥山 (2012-08-04 09:57) 

ekoppi

上の方のご意見通りだと思います。
老人施設などでも、もっと正しい知識を学んで欲しいと思います。
by ekoppi (2012-08-04 20:05) 

☆ acco ☆

私の場合、
大量出血で12単位の輸血の後、
中心静脈栄養を行っていましたが、
心肺機能の低下による浮腫や肺水腫、
創部の褥瘡がありました。
その他、水分は24時間
点滴で補給されていましたが、
自分としては普段あり得ない量の
水分を摂取していたので、
心肺機能に負担が掛かったのでは?
と思っていました。

外傷なので、
先生の仰る趣旨とは外れますが・・・
by ☆ acco ☆ (2012-08-04 21:21) 

fujiki

今野祥山さんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
ご指摘の通りで、
塩分制限と言いながら、
塩分を非常に多く含む飲み物を、
薦める辺りに、
かなりの矛盾があるように思います。
by fujiki (2012-08-04 22:40) 

fujiki

ekoppi さんへ
コメントありがとうございます。
ご高齢の方の水分の適正量を考えるのは、
実際には非常に難しい作業だと思いますが、
どうも熱中症のような話になると、
危険な方向に向かいがちのように思います。
by fujiki (2012-08-04 22:41) 

fujiki

acco さんへ
コメントありがとうございます。
今帰って来ました。
少々バテ気味です。
暑い日が続きますが、
お身体ご自愛下さいね。
by fujiki (2012-08-04 22:47) 

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