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慢性閉塞性肺疾患の急性増悪に対するステロイド治療の選別について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
COPDと好酸球.jpg
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌の、
今年の3月号に掲載された、
閉塞性肺疾患の急性増悪についての論文です。

タバコを誘因とする、
肺気腫や慢性気管支炎などの病気を総称して、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼んでいます。

この言葉の定義ははなはだ曖昧ですが、
まず「喫煙をこの世からなくそう」
というドグマがあり、
その目的のために、
タバコにより生じる可能性が高い、
肺の慢性の病気に、
まとめて1つの名前を付けよう、
というのがそもそもの発想だと思います。

肺活量などの肺の機能検査から、
閉塞性肺疾患か拘束性肺疾患か、
という分類があり、
それとダブる部分がありながら、
同一ではないので、
医療関係者でも時に混乱してこの用語を用いていますが、
要は「タバコ病」という程度の言葉なのです。

慢性気管支炎や肺気腫がある程度進行すると、
その急性増悪、ということが問題になります。

これは元々気管支喘息の概念で、
喘息というのは皆さんご存知の通り、
アレルギー性の気道の慢性炎症で、
それがウイルス感染などをきっかけにして、
急激に呼吸状態が悪化し、
適切な治療をしないと、
死に至るようなこともあります。
これを気管支喘息の急性増悪と呼んでいます。

これと同じように、
慢性の気管支炎や肺気腫の患者さんも、
感染などをきっかけに急性増悪を来たすことがあり、
その場合の原因の8割は細菌性を含む気道の感染であることから、
抗生物質が使用されると共に、
多くの場合全身的なステロイドの使用が行なわれます。

この急性増悪時のステロイドの使用は、
日本の現行のガイドラインにも書かれていますし、
本日ご紹介した論文はイギリスのものですが、
その記載ではイギリスの現行のガイドラインでも、
同様の推奨があると書かれています。

何故COPDにステロイドを使用するのでしょうか?

その点についての説明は、
あまり明瞭なものではありません。

そもそもはCOPDと喘息とは、
別個の疾患の筈です。

喘息ではアレルギー性の気道の炎症が主体で、
炎症部位には好酸球という白血球が主に集まっていますが、
COPDの場合には好酸球以外の、
好中球などの白血球の方が主に集まるとされています。

ステロイドは強力に細胞性免疫と炎症とを共に抑える働きがありますが、
特に好酸球を著明に減少させる働きがあります。
従って、
好酸球主体の炎症であれば、
特効薬的に効く可能性が高いのに対して、
それ以外の炎症ではその効果は限定的と考えられます。

ただし、
病原体による感染などでは、
免疫系の過剰な反応による、
サイトカインの過剰な放出が、
病状を悪化させることがあるとされていて、
そうした過剰反応にも、
ステロイドは一定の有効性を持っています。

上記の文献の中の説明では、
COPDも実際にはアレルギー性の炎症と無縁ではなく、
炎症部位に好酸球も集積するケースがあるので、
ステロイドが有効なのではないか、
というスタンスを取っています。

その立場に立つと、
好酸球が増加したようなタイプの炎症を伴う、
COPDの急性増悪であれば、
ステロイドの全身的な使用が効果的であるけれど、
仮にそうではなければ、
あまり効果がない、
ということになります。

そこで今回の文献においては、
血液の好酸球の数値によって、
ステロイドが効くタイプの炎症であるかどうかを、
予め判断し、
その判断によってステロイドの使用を決めた場合と、
急性増悪であれば全例ステロイドを使用した場合とで、
その治療効果に違いがあるかどうかを、
患者さんにも治療する医者にも、
分からない形で検討しています。

ステロイドはプレドニゾロンを、
1日30mg2週間に渡って使用します。
好酸球主体の炎症であるかどうかの判断は、
白血球全体に対する血液の好酸球の比率が、
2%を超えた場合に、
ステロイドの適応としています。
抗生物質はいずれの場合でも、
ペニシリン系の抗生物質のアモキシシリンが7日間使用され、
ペニシリンアレルギーではドキシサイクリンに変更されます。

血液の好酸球の比率は、
何処の医療機関でも概ねチェック出来る検査です。
特殊な検査はすることなく、
この数値だけで適正なステロイドの使用が可能となるのか、
という点が、
この研究の興味深いところです。

イギリスの医療機関において、
トータル164名の患者さんが対象となっています。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

実際的に好酸球の比率を治療方針に採用したグループでは、
ステロイドは51%に使用され、
残りの49%は偽薬が使用されました。

しかし、
トータルな治療の改善度は、
全ての患者さんにステロイドを使用した場合と、
有意な差はありませんでした。

つまり、
少なくともこの方法でステロイドの使用の可否を判断した場合、
そうでない場合に比べて、
患者さんへの不利益はあまりない、
ということになります。

一方で好酸球が少なくステロイドを使用しなかった患者さんを、
使用した患者さんと比較すると、
使用しなかった患者さんの方が、
トータルにはその経過が良く、
治療失敗の頻度も低かったのです。

この結果をどう考えれば良いのでしょうか?

例数も少ないので、
これだけで断定的なことは言えないと思います。
ただ、
COPDの急性増悪に対するステロイドの使用が、
おそらくは特定の患者さんに対してしか、
明確なメリットのないことは事実で、
好酸球の数だけでそれを振り分けることが妥当だとは、
必ずしも思いませんが、
何らかの指標は必要だと思いますし、
そうした目で慎重に患者さんを観察したいと思います。

今日はCOPDの急性増悪に対する、
ステロイドの使用の是非についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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危険goo

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by 危険goo (2012-08-03 10:59) 

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