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携帯電話の使用とADHDとの関連性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
携帯電話とADHD動物実験論文.jpg
今月Scientific Reports誌に掲載された、
携帯電話の妊娠中の使用が、
お子さんのADHD(注意欠陥多動性障碍)の発症に、
与える影響についての論文です。

非常に微妙な問題なので、
最初に結論から言うと、
この論文はネズミを使った動物実験で、
その結果も、
ある程度関連性があるかも知れない、
というレベルのものです。

従って、
必要以上の携帯電話を含む電磁波の被ばくは、
妊娠中や出産直後の時期には、
最小限度に留めた方が、
良い可能性が高い、
という以上の意見が、
そこから導かれる性質のものではありません。

このことは、
最初に強調をしておきたいと思います。

ADHDの捉え方を含め、
僕なりに誤解のないよう慎重を期したつもりですが、
不備な点や誤解を招きかねない点も、
あるかも知れません。
何かありましたら、
ご指摘を頂ければ幸いです。

それでは始めます。

ADHDは、
注意欠陥多動性障碍と翻訳されます。

発達障碍という区分の1つに当たり、
アメリカの統計では、
学童期のお子さんの3~7%に認められ、
その診断率は、
1997年以降、年に3%の頻度で増えている、
とされています。

日本においても、
基本的にその傾向は同じと思われます。

つまり、
ADHDは稀なものではなく、
特に先進国において、
その頻度は増え続けています。

ADHDのお子さんは、
注意を1つに集中して持続することが出来ず、
物事を段取りを組んで行なうことが困難で、
落ち着きのなく見える行動を示すことや、
衝動的と思えるような行動を、
見せることがあります。

そのため、
ADHDの多くのお子さんが、
その成長の過程において、
集団生活に困難を生じることが多く、
周囲の理解が乏しいと、
社会生活において多くの障害に直面します。

ただ、
多くの著名人がADHDであり、
その道で成功しているという事実もあり、
「変わり者の天才肌」に、
昔からそうした人が一定の割合でいたのであり、
それが容認され難くなった、
社会そのものが問題ではないのか、
というような意見もあります。

脳生理学的には、
脳の前頭葉の前方の部分に、
異常があるのではないか、
ということを示唆する報告が複数あります。

今僕はPCに向かってブログを書いていて、
そのことに一応集中を持続させている訳ですが、
その間にも周辺には色々なことが起こります。
外を通る車の音が聞こえたり、
窓から入る日差しの角度が変わったり、
そうした刺激に対しては、
通常は無意識のうちに無視をして、
ブログを書くことを続けます。
しかし、それが診察室のドアのノックの音であれば、
あれ、誰かな、と思い、
作業を中断してドアを開きます。

要するに、
脳が作業をしている時には、
外部から入る刺激に、
一種の重み付けを無意識のうちに行なっていて、
作業を中断する必要性のある刺激か、
そうではない刺激かを判断しているのです。

この振り分けの仕組みが弱くなっていると、
ブログを書くという作業を、
一旦始めても、
次に外から音が聞こえれば、
その情報の解析に、
今度は注意が振り向けられるので、
1つの作業を続けるということが、
非常に困難な状態となります。

全てではありませんが、
これがADHDに特徴的な、
集中の持続の困難さの、
1つの要因と考えられます。

この振り分けの主体になっているのが、
脳の前頭葉の前方の部分です。

しかし、それが事実として、
何故その重要な機能が、
お子さんによっては低下している、
というような事態が起こるのでしょうか?

疫学的に関連性のありそうなこととして、
遺伝的な要因と共に、
環境要因の関与が考えられます。

これまでに関連性の指摘されているものとして、
妊娠中の喫煙や飲酒、
コカインなどの薬物の関与と共に、
妊娠中や新生児期の、
電磁波の被ばくの関与が、
幾つかの報告で指摘されています。

こちらをご覧下さい。
携帯電話とADHD疫学論文.jpg
これは2008年のEpidemiology誌の論文です。

デンマークにおける、
大規模なコホート研究において、
携帯電話の妊娠中及び小児期の使用により、
その後のお子さんの成長に与える影響を、
検証したものです。
その結果ADHDに関わるような行動の異常が、
トータルで解析すると、
妊娠中及び小児期に、
共に携帯電話を使用していた場合に、
1.8倍のリスク(オッズ比)の上昇として認められました。

これは妊娠中に、
携帯電話を使用しているかどうかを聞き取りし、
出生したお子さんが7歳になった時に、
再び聞き取りをして、
行動や感情の異常の有無と、
その時点でお子さんが携帯電話を使用しているかどうかを、
確認したものです。

1996年から2002年に出生されたお子さんを対象としていて、
こうした調査をするには、
ギリギリのタイミングと思われます。
今こうした調査をして、
妊娠中に一切携帯電話を使用していないお母さんなど、
殆ど存在しないと思われるからです。

ただ、これだけご紹介しても、
かなり大雑把な研究であることは、
お分かり頂けるかと思います。

ここで最初の文献に戻りますが、
これはネズミの実験において、
同様の影響を検証したものです。

妊娠中のネズミ33匹に、
携帯電話と同じ波長の電磁波を、
毎日一定時間ずつ照射し、
その影響を42匹のコントロールのネズミと比較するのです。

評価は生まれた子ネズミの行動異常の尺度の変化と、
ADHDの発症に結び付く可能性のある、
特定の神経の神経伝達の異常の検出により、
行なわれています。

その結果行動異常の幾つかの指標で、
電磁波照射群に有意差があり、
1つのポイントとしては、
照射時間に比例して、
神経伝達の低下が認められました。

つまり、
疫学研究で示唆された、
妊娠中の携帯電話の使用と、
お子さんのADHDの発症との関連性が、
動物実験により、
一定のレベルで裏付けられた、
ということになります。

この結果を今の時点で、
大きく受け止め過ぎる必要はありません。

疫学データもかなり細部の詰めは甘い気がしますし、
たとえば携帯電話をテレビを見る時間にしたり、
インターネットを見る時間にしたりしても、
同様の結論が出る可能性があります。
そして、動物実験は所詮は動物実験であり、
こうした微妙な変化を、
検証するには無理が多過ぎると思います。

ただし、
人間の生活の変化により、
電離放射線やラジオ波を含む、
身体が受ける電磁波の影響は、
以前とは比較にならないほど、
大きなものになっていることは事実で、
それがお子さんの成長に、
無関係とは言い切れません。

仮にお母さんが妊娠中の携帯電話等の、
電磁波を浴びる機会を最小限度にし、
学童期以前のお子さんも、
なるべく電磁波の影響から離れることで、
お子さんの健やかな成長に結び付くメリットがあるなら、
それはこれからのお子さんにとって、
有意義な情報となる可能性は、
充分にあるのではないかと思うのです。

テレビが登場した頃に製作された、
小津安二郎の映画などを観ると、
「テレビは人間を堕落させ愚かにする」
という主張が純粋に語られていて、
当時はやや老人の繰言めいて感じられたそうした言葉が、
今になってみると、
むしろ控え目な表現ですらあったことに、
慄然とする思いがします。

携帯電話も快楽と利便性の道具として、
なくてはならないものになっているのですが、
電磁波を常に照射し続ける機器を、
肌身離さず24時間持ち続けるという行為が、
果たして人間にとってどのような影響を及ぼすのか、
テレビと同じように50年後の皆さんが、
どのようなジャッジを下すことになるのか、
そう考えるとちょっと怖ろしい気にもなるのです。

今日はADHDと携帯電話の関連性についての、
トピック的な文献について考えました。

念のため補足しますが、
ADHDの原因は現時点では不明で、
上記の内容は単なる仮説に過ぎません。
従って、
妊娠中に携帯電話のヘビーユーザーであったとしても、
そのことでお母さんが、
ご自分を責める必要は全くありません。

ただ、
妊娠中に飲酒を慎む、
タバコを吸わない、
身体に負担を掛けない、
というような注意と共に、
携帯電話のような電磁波機器の使用も、
必要最小限にすることが、
その後のお子さんの人生に、
過度のストレスが掛からないために有益であるなら、
それは非常に重要なことではないかと思うのです。

今後の研究の進歩を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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シロ

たびたびすみません。今日自転車で走行中十字路で自転車と衝突してしまいました。もともと今日自律神経の調子が悪いのと、病院の待ち時間長くて疲れたため、めまいが酷いのだと思いますが、自転車衝突で髄液が漏れたりすることはありますか? 激しい痛みはどこにもありません。 少し背中が痛い気もしますが、風邪で寝込んでいたための痛みなのか衝突の痛みなのかわかりません。 そう簡単に髄液は漏れたりしませんか? アドバイスいただきたいです。
by シロ (2012-03-21 16:33) 

ハマコウ

ADHDほか 発達障害と思われる児童が増えてきている気がします

携帯電話… 電磁波…

便利さがすべてよし 
というわけでも なさそうなのですね 
by ハマコウ (2012-03-21 18:04) 

fujiki

シロさんへ
簡単に髄液は洩れないので大丈夫です。
by fujiki (2012-03-21 20:06) 

fujiki

ハマコウさんへ
コメントありがとうございます。
発達障碍の増加は、
世界的な状況のようです。
ただ、それを単純に電磁波の影響に、
結び付けるのは無理があるようにも思います。
by fujiki (2012-03-21 20:11) 

シロ

ありがとうございます。安心しました。自律神経の治療頑張ります。
by シロ (2012-03-21 21:37) 

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