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妊娠中の吸入ステロイドのお子さんへの影響について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
吸入ステロイドと妊娠論文.jpg
今月のAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌に掲載された、
妊娠中の気管支喘息治療が、
生まれるお子さんの健康状態に与える、
影響についての論文です。

気管支喘息の治療の第一選択薬は、
国内外を問わず、
吸入ステロイドであることは、
世界的に認められた事実です。
プロのスポーツ選手や、
オリンピックの選手でも、
吸入ステロイドの治療は認められ、
ドーピングとはされていません。

妊娠中の安全性についても、
母体や胎児の合併症や、
先天異常の発症率などにおいて、
有害な作用のないことが、
多くの研究により確認されています。

しかし、
出産されたお子さんのその後の経過について、
長期的に検討した研究というものは、
これまでにあまり例がありませんでした。

ステロイドは吸入ですから、
血液中には微量しか移行せず、
それが胎児に直接の影響を与える、
ということは理屈からはあまり考えられません。

しかし、
お母さんのホルモンバランスには、
時に若干の影響を与える可能性があり、
それが胎児のホルモン系にも、
影響を与える可能性は、
皆無とは言えません。

従って、そうしたお子さんの長期予後についての研究の、
必要性が高いと考えられるのです。

そこで今回の文献では、
国民背番号制の取られているデンマークにおいて、
トータル65000組を超えるお母さんとお子さんとのペアを、
妊娠中の吸入ステロイドの使用の有無と、
その後平均6歳までのお子さんの病気の有無とで、
解析をしています。

その結果、
内分泌代謝系の疾患に限って、
1.84倍のリスク上昇が有意に認められました。

つまり、
この結果を単純に考えると、
妊娠中に吸入ステロイドを使用すると、
使用しない場合に比較して、
1.8倍お子さんの内分泌代謝疾患が発症し易くなる、
ということになります。

内分泌代謝疾患という分類の中には、
糖尿病や甲状腺疾患、副腎疾患や下垂体疾患、
電解質異常などが含まれます。

ただし、今回の文献においては、
分類はその括りまでに留まり、
たとえばそのうち糖尿病のお子さんがどのくらい、
というようなデータは得られていません。

また、吸入ステロイドの分量も不明で、
他の治療薬が使用されていた可能性もあります。

また、気管支喘息のコントロールが悪ければ、
そのこともお子さんに少なからず影響を与える可能性があり、
今回の結果が有意なものであるとしても、
それが厳密に吸入ステロイドの影響であるとは、
断定は出来ないのではないかと思います。

従って、
現時点では妊娠中の喘息の患者さんでは、
吸入ステロイドを優先して使用する、
という方針には変わりはなく、
しかしその後のお子さんのホルモン動態に関しては、
若干の変化が生じる可能性があり、
今後の検証を必要とする、
というところだと思います。

少なくとも、
喘息のより詳細な治療状況と、
お子さんのもっと具体的な疾患との関連性につき、
今後の研究の進展を期待したいと思います。

今日は妊娠中の吸入ステロイドと、
お子さんのご病気との関連についての話でした。

念のため補足しますが、
吸入ステロイドが妊娠中の気管支喘息の治療において、
現時点で最も安全性の高い薬であることは、
間違いがありません。
今回のデータは、
あくまでそうした影響も、
ないとは言い切れない、というレベルのものです。
ご妊娠中でご使用をされている方は、
勿論必要性があれば継続が望ましいと思いますし、
ご自分の判断で中止はされず、
主治医の先生とよくご相談をして下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(2012年3月19日午前8時に、
最後の部分に補足を加えました)
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コメント 4

tsworking

ステロイド恐怖症の私としては、こういった研究がもっともっと進む事を願っています。
by tsworking (2012-03-17 23:11) 

元MR

先生、こんばんは。
いつも興味深く拝見しております。

私はMRだったころ、産科の病院に行って医師に
「喘息のお母さんは自分が使う喘息治療薬の赤ちゃんへの影響を気にするはずです。ですので、FDAで安全性レベルがBとなっている●●を。」と紹介したことがありました。

結果、症例は少ないものの、すべてある合剤からスイッチとなりました。
(あの頃よりエビデンスが蓄積されて、今では妊婦さんへの吸入ステロイドの選択は変わっているのかもしれません)

とりとめもないコメントになってしまいましたが、
吸入ステロイドの胎児に対する影響を気にして
妊婦さんが吸入ステロイドを使わず発作を起こすようなことが
あっては最悪だと思います。


by 元MR (2012-03-18 20:31) 

fujiki

tsworking さんへ
コメントありがとうございます。
これはまだ確証のあるデータではありませんので、
その点はご注意の上お読み下さい。
ただ、喘息の治療は、
吸入ステロイドでOK、というものではなく、
更なる治療の進歩を期待したいと思います。
by fujiki (2012-03-19 08:26) 

fujiki

元MRさんへ
コメントありがとうございます。
僕も安易なステロイド吸入の中断は、
あるべきではないと考えます。
誤解のないように、
記事の文面を少し補足しました。
by fujiki (2012-03-19 08:28) 

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