ワクチンの選択の問題を考える [仕事のこと]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
ここ数年で、
多くのこれまでにはなかったタイプのワクチンが、
日本でも接種出来るようになりました。
日本は長くワクチン後進国で、
海外では接種が当たり前のワクチンの多くが、
接種出来ない状態が続いたことは事実ですから、
個々のワクチンの必要性や接種方針については、
立場により議論のあるところではありますが、
選択の余地が増えたことは、
歓迎すべき事態ではあると思います。
ただ、
そこでこれまでには存在しなかった、
1つの問題が生じるようになりました。
それが、
「同種のワクチンの選択」
という問題です。
日本は長く国産のワクチンを、
基本的には専ら使用する、
という方針を取って来ました。
国産のワクチン製造会社は幾つかあり、
それぞれ別箇にワクチンを製造しています。
しかし、たとえばインフルエンザのワクチンという括りで考えると、
どの会社のワクチンも、
基本的には同一の物として、
理解がされています。
厳密に言えば、
各社のワクチンはその添加物などには違いがあり、
全く同一の物ではないのですが、
それでも同じインフルエンザのワクチンであれば、
その効果や安全性は、
同一のクオリティを持つものであると、
国が保障している訳です。
従って、医療機関には通常メーカーの区別なく、
ワクチンは納入され、
接種を受ける方も、
稀に添加物の違いなどを気にされる方もいらっしゃいますが、
概ね全て「同じワクチン」として、
理解し接種をされているのが通常だと思います。
ところが…
その建前が完全に崩れたのが、
一般に子宮頸癌予防ワクチンとして説明される、
ヒトパピローマウイルス予防ワクチンです。
世界的に使用されている、
子宮頸癌予防ワクチンには、
メルク社のガーダシルと、
グラクソ社のサーバリックスの2種類があります。
この2種類のワクチンは、
ヒトパピローマウイルスの型のうち、
16型と18型の抗原を含む、
という点においては同一で、
その製法もVLPと呼ばれる、
ウイルスの形態を保っていながら病原性はない、
ウイルスもどきのような抗原を利用する、
という点でも同一です。
ただ、
両者の免疫増強剤(アジュバント)の組成は、
明確に異なります。
更にガーダシルには、
サーバリックスには含まれていない、
尖圭コンジローマという皮膚病の原因となる、
6型と11型という、
2つの抗原が追加されている点が、
これも明確に相違しています。
つまり、
この2つのワクチンは、
ほぼ同じ目的のために開発され、
同一の部分を含みますが、
基本的には別物で、
その効果も安全性も同一とはとても言えません。
海外の発売はガーダシルが2006年で、
サーバリックスも2006年ですが、
日本においては、
サーバリックスが2009年の冬から接種開始となり、
遅れること2年後の昨年夏から、
ガーダシルの接種が開始となっています。
つまり、
発売より2年の間は、
サーバリックスのみしか日本では選択肢はなく、
その期間に接種された方は、
全てサーバリックスを打っています。
それが昨年の暮からは、
サーバリックスとガーダシルの扱いは同一のものとなり、
公費負担のある場合には、
2種類のワクチンの区別はなくなっています。
問題は現行この2種類のワクチンは、
一旦一方のワクチンを1回でも接種したら、
その方の生涯に渡って、
もう一方のワクチンの接種は認められていない、
ということです。
ヒトパピローマウイルスワクチンは、
まだ「完成型」ではないワクチンです。
16型と18型を併せても、
日本においては子宮頸癌の患者さんのうち、
6割をカバーしているに過ぎません。
「現時点で100%の予防効果」のような言い方がされますが、
これはまだ前癌病変の発症までの話で、
9年程度の実績しかなく、
かつ16型と18型の感染のみに関してのデータです。
製薬会社の担当者のお話では、
もっと多くの型に対応するワクチンが、
現在ガーダシルの発展型として開発中とのことですが、
その場合も、
原則ガーダシル接種者のみしか、
新型のワクチンの対象にはなりません。
このワクチンの効果は、
サーバリックスで計算上20年以上とされていますが、
それはあくまで推測であり、
今後は再接種が必要となる可能性も残っています。
その場合も、
原則は同種のワクチンの接種ということになりますから、
サーバリックス接種者は、
再接種もサーバリックスに限る、
ということに現行はなりそうです。
世界的なシェアは、
現時点では圧倒的にガーダシルが上のようです。
(製薬会社の担当者からの伝聞です)
その製品としての評価は、
子宮頸癌の前癌病変の予防という観点においては、
現時点で拮抗しています。
仮にそうであるとすると、
ガーダシル採用までの期間に、
接種を受けられた方には、
ガーダシルという選択肢はなかったということになり、
接種者に選択権がなかった、という状況は、
正直非常に不公平なもののように思えます。
サーバリックスの採用時には、
当然ガーダシルも存在はしていた訳ですし、
臨床試験も施行はされていました。
それであるなら、
こうした不公平がないように、
両者を一括して同時に採用するような方針が、
どうして取れなかったのでしょうか?
勿論一刻も早く、
「子宮頸癌予防ワクチン」を導入する必要性があった、
という理由はあるのでしょうが、
仮に一方を先行して発売したとしても、
接種をされる方に考えて頂けるような、
ワクチンの選択に係わる情報を、
もっと流布するような努力は、
必要ではなかったか、と思います。
先行して発売された状況においては、
メーカーもその選定に係わった行政も、
その有用性を説く専門家の先生も、
その1種類しかワクチンは存在しないかのような、
そうした説明をされるのです。
ちょっとそれはフェアではない、
という気がします。
先日ヒトパピローマウイルス予防ワクチンの勉強会があり、
ワクチン推進の旗頭的立場の先生が講演をされました。
質疑応答である小児科の先生が、
「今後追加接種が必要となった場合にも、
最初にサーバリックスを接種した方は、
絶対にガーダシルやガーダシルの発展型の多価ワクチンを、
接種するべきではないとお考えになりますか?」
という趣旨の質問をされました。
旗頭の先生の答えは、
「それはするべきではない」というお答えでした。
「その理由は?」
と問われると、
「アジュバントに差があるなど、
両者のワクチンは別箇のものであり、
それを混合して接種することは、
安全性の面で問題があるからだ」
というお答えでした。
旗頭の先生は非常に「賢い」方なので、
どちらのワクチンがより優越性があるのか、
というような点には決して直接はコメントをせず、
「私の信念はワクチンの種別には関わらず、
1人でも多くの方に、
ワクチンを接種して頂くことです」
と言われました。
ただし、講演会においては、
新しく発売されたワクチンの効果を、
メインにして説明をされるので、
言外には「こちらの方が良いよ」
という印象を、
巧みに聴衆に与えるような内容になっています。
質問をされた小児科の先生は、
何か釈然としないお顔でしたが、
僕はその先生のお気持ちは分かる気がします。
少しでも成分の違うワクチンを、
時間を離して打つことに、
それほどのリスクがあるものなら、
それは全てのワクチンに通じることの筈で、
インフルエンザのワクチンも、
毎年同じメーカーのものを打つべきだ、
ということになってしまいますし、
どの種類のワクチンを、
どのように組み合わせて同時に接種しても、
副反応には差がないのだ、
というワクチン推進のドグマに、
反するような気がします。
最初のワクチンが発売された時には、
そのワクチンが最高の選択であるような説明をしておいて、
少ししたら、
「より良いワクチンが出ました」
という説明を平然と重ね、
それで最初のワクチンを打った人には、
追加接種も同じワクチンでないと認められない、
というのは、
何かフェアな説明でない、
という気がするのです。
同様の問題はロタウイルスワクチンにも生じそうです。
ロタウイルスの経口ワクチンは、
現在はグラクソ社のロタリックスのみが採用され、
接種されていますが、
これもメルク社のロタテックが、
もう発売直前の状態にあります。
これもどうも、
ヒトパピローマウイルスワクチンと、
全く同じような経過を辿りそうです。
つまり、現時点ではロタリックスの選択肢しかないのですが、
もう少し経つと、
ロタテックという選択肢が増えます。
しかし、このワクチンは生後6週からの接種が望ましいので、
今接種をお考えになっているお母さんは、
その発売を待つことは出来ません。
ロタリックスはロタウイルスの流行株1種類のみの抗原の、
生ワクチンですが、
ロタテックは遺伝子再集合という手法を用い、
牛の感染するロタウイルスの粒子に、
5種類の人間に感染するウイルス抗原を埋め込んだ、
かなり特殊な手法のワクチンです。
つまり、
抗原の内容もその製法も、
全く別物と考えて良いワクチンです。
ただし、現行の臨床試験の結果などを見る限りにおいては、
その有効性はほぼ同一です。
同じ目的で使用される製法の異なるワクチンを、
それが海外では共に発売済みなのにも関わらず、
このように中途半端にずらして発売する、
というような手法は、
僕は混乱を招く結果になるだけで、
望ましいものではないように思います。
そんなことは他の薬でも同じではないか、
と言われる方があるかも知れませんが、
接種年齢が限定され、
公費負担や公費による補償などが存在するワクチンは、
通常の薬剤とはちょっと事情の異なる側面があり、
極力接種される方が、
平等になるように、
配慮がなされるべきではないかと思うのです。
ただし、ロタテックは3回の接種が必要ですから、
現実的にはお子さんの接種スケジュールは非常に困難となり、
あまり流通しない可能性が高いのでは、
と現時点では考えられます。
これは僕の個人的な意見ですが、
日本では輸入ワクチンの採用は遅れているため、
同種の効果を期待した、
製法の違う複数のワクチンについて、
その優劣を検証するに充分なデータが、
採用の段階で既に揃っている、
というメリットが存在する訳です。
こうした場合可能な限り、
ワクチンをより有効性と安全性に勝ると判断出来る1種類に絞るか
(実際そのような方針の国は結構あるのです)、
同等の意義を有すると判断される場合には、
接種者に不公平が生じないよう、
公費負担がなされるような段階においては、
極力同時に採用し、
接種者が自らの判断で、
ワクチンを選択出来るように、
配慮をするべきではないでしょうか?
皆さんはどうお考えになりますか?
今日は最近のワクチン導入においての、
問題点を考えました。
念のため補足しますが、
僕は現時点でサーバリックスとガーダシルのうち、
どちらが優れたワクチンであるか、
という点については、
確証の持てる意見はなく、
情報も持っていません。
シェアの話はあくまで伝聞です。
その点はご理解の上、
慎重にお読み頂ければ幸いです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
ここ数年で、
多くのこれまでにはなかったタイプのワクチンが、
日本でも接種出来るようになりました。
日本は長くワクチン後進国で、
海外では接種が当たり前のワクチンの多くが、
接種出来ない状態が続いたことは事実ですから、
個々のワクチンの必要性や接種方針については、
立場により議論のあるところではありますが、
選択の余地が増えたことは、
歓迎すべき事態ではあると思います。
ただ、
そこでこれまでには存在しなかった、
1つの問題が生じるようになりました。
それが、
「同種のワクチンの選択」
という問題です。
日本は長く国産のワクチンを、
基本的には専ら使用する、
という方針を取って来ました。
国産のワクチン製造会社は幾つかあり、
それぞれ別箇にワクチンを製造しています。
しかし、たとえばインフルエンザのワクチンという括りで考えると、
どの会社のワクチンも、
基本的には同一の物として、
理解がされています。
厳密に言えば、
各社のワクチンはその添加物などには違いがあり、
全く同一の物ではないのですが、
それでも同じインフルエンザのワクチンであれば、
その効果や安全性は、
同一のクオリティを持つものであると、
国が保障している訳です。
従って、医療機関には通常メーカーの区別なく、
ワクチンは納入され、
接種を受ける方も、
稀に添加物の違いなどを気にされる方もいらっしゃいますが、
概ね全て「同じワクチン」として、
理解し接種をされているのが通常だと思います。
ところが…
その建前が完全に崩れたのが、
一般に子宮頸癌予防ワクチンとして説明される、
ヒトパピローマウイルス予防ワクチンです。
世界的に使用されている、
子宮頸癌予防ワクチンには、
メルク社のガーダシルと、
グラクソ社のサーバリックスの2種類があります。
この2種類のワクチンは、
ヒトパピローマウイルスの型のうち、
16型と18型の抗原を含む、
という点においては同一で、
その製法もVLPと呼ばれる、
ウイルスの形態を保っていながら病原性はない、
ウイルスもどきのような抗原を利用する、
という点でも同一です。
ただ、
両者の免疫増強剤(アジュバント)の組成は、
明確に異なります。
更にガーダシルには、
サーバリックスには含まれていない、
尖圭コンジローマという皮膚病の原因となる、
6型と11型という、
2つの抗原が追加されている点が、
これも明確に相違しています。
つまり、
この2つのワクチンは、
ほぼ同じ目的のために開発され、
同一の部分を含みますが、
基本的には別物で、
その効果も安全性も同一とはとても言えません。
海外の発売はガーダシルが2006年で、
サーバリックスも2006年ですが、
日本においては、
サーバリックスが2009年の冬から接種開始となり、
遅れること2年後の昨年夏から、
ガーダシルの接種が開始となっています。
つまり、
発売より2年の間は、
サーバリックスのみしか日本では選択肢はなく、
その期間に接種された方は、
全てサーバリックスを打っています。
それが昨年の暮からは、
サーバリックスとガーダシルの扱いは同一のものとなり、
公費負担のある場合には、
2種類のワクチンの区別はなくなっています。
問題は現行この2種類のワクチンは、
一旦一方のワクチンを1回でも接種したら、
その方の生涯に渡って、
もう一方のワクチンの接種は認められていない、
ということです。
ヒトパピローマウイルスワクチンは、
まだ「完成型」ではないワクチンです。
16型と18型を併せても、
日本においては子宮頸癌の患者さんのうち、
6割をカバーしているに過ぎません。
「現時点で100%の予防効果」のような言い方がされますが、
これはまだ前癌病変の発症までの話で、
9年程度の実績しかなく、
かつ16型と18型の感染のみに関してのデータです。
製薬会社の担当者のお話では、
もっと多くの型に対応するワクチンが、
現在ガーダシルの発展型として開発中とのことですが、
その場合も、
原則ガーダシル接種者のみしか、
新型のワクチンの対象にはなりません。
このワクチンの効果は、
サーバリックスで計算上20年以上とされていますが、
それはあくまで推測であり、
今後は再接種が必要となる可能性も残っています。
その場合も、
原則は同種のワクチンの接種ということになりますから、
サーバリックス接種者は、
再接種もサーバリックスに限る、
ということに現行はなりそうです。
世界的なシェアは、
現時点では圧倒的にガーダシルが上のようです。
(製薬会社の担当者からの伝聞です)
その製品としての評価は、
子宮頸癌の前癌病変の予防という観点においては、
現時点で拮抗しています。
仮にそうであるとすると、
ガーダシル採用までの期間に、
接種を受けられた方には、
ガーダシルという選択肢はなかったということになり、
接種者に選択権がなかった、という状況は、
正直非常に不公平なもののように思えます。
サーバリックスの採用時には、
当然ガーダシルも存在はしていた訳ですし、
臨床試験も施行はされていました。
それであるなら、
こうした不公平がないように、
両者を一括して同時に採用するような方針が、
どうして取れなかったのでしょうか?
勿論一刻も早く、
「子宮頸癌予防ワクチン」を導入する必要性があった、
という理由はあるのでしょうが、
仮に一方を先行して発売したとしても、
接種をされる方に考えて頂けるような、
ワクチンの選択に係わる情報を、
もっと流布するような努力は、
必要ではなかったか、と思います。
先行して発売された状況においては、
メーカーもその選定に係わった行政も、
その有用性を説く専門家の先生も、
その1種類しかワクチンは存在しないかのような、
そうした説明をされるのです。
ちょっとそれはフェアではない、
という気がします。
先日ヒトパピローマウイルス予防ワクチンの勉強会があり、
ワクチン推進の旗頭的立場の先生が講演をされました。
質疑応答である小児科の先生が、
「今後追加接種が必要となった場合にも、
最初にサーバリックスを接種した方は、
絶対にガーダシルやガーダシルの発展型の多価ワクチンを、
接種するべきではないとお考えになりますか?」
という趣旨の質問をされました。
旗頭の先生の答えは、
「それはするべきではない」というお答えでした。
「その理由は?」
と問われると、
「アジュバントに差があるなど、
両者のワクチンは別箇のものであり、
それを混合して接種することは、
安全性の面で問題があるからだ」
というお答えでした。
旗頭の先生は非常に「賢い」方なので、
どちらのワクチンがより優越性があるのか、
というような点には決して直接はコメントをせず、
「私の信念はワクチンの種別には関わらず、
1人でも多くの方に、
ワクチンを接種して頂くことです」
と言われました。
ただし、講演会においては、
新しく発売されたワクチンの効果を、
メインにして説明をされるので、
言外には「こちらの方が良いよ」
という印象を、
巧みに聴衆に与えるような内容になっています。
質問をされた小児科の先生は、
何か釈然としないお顔でしたが、
僕はその先生のお気持ちは分かる気がします。
少しでも成分の違うワクチンを、
時間を離して打つことに、
それほどのリスクがあるものなら、
それは全てのワクチンに通じることの筈で、
インフルエンザのワクチンも、
毎年同じメーカーのものを打つべきだ、
ということになってしまいますし、
どの種類のワクチンを、
どのように組み合わせて同時に接種しても、
副反応には差がないのだ、
というワクチン推進のドグマに、
反するような気がします。
最初のワクチンが発売された時には、
そのワクチンが最高の選択であるような説明をしておいて、
少ししたら、
「より良いワクチンが出ました」
という説明を平然と重ね、
それで最初のワクチンを打った人には、
追加接種も同じワクチンでないと認められない、
というのは、
何かフェアな説明でない、
という気がするのです。
同様の問題はロタウイルスワクチンにも生じそうです。
ロタウイルスの経口ワクチンは、
現在はグラクソ社のロタリックスのみが採用され、
接種されていますが、
これもメルク社のロタテックが、
もう発売直前の状態にあります。
これもどうも、
ヒトパピローマウイルスワクチンと、
全く同じような経過を辿りそうです。
つまり、現時点ではロタリックスの選択肢しかないのですが、
もう少し経つと、
ロタテックという選択肢が増えます。
しかし、このワクチンは生後6週からの接種が望ましいので、
今接種をお考えになっているお母さんは、
その発売を待つことは出来ません。
ロタリックスはロタウイルスの流行株1種類のみの抗原の、
生ワクチンですが、
ロタテックは遺伝子再集合という手法を用い、
牛の感染するロタウイルスの粒子に、
5種類の人間に感染するウイルス抗原を埋め込んだ、
かなり特殊な手法のワクチンです。
つまり、
抗原の内容もその製法も、
全く別物と考えて良いワクチンです。
ただし、現行の臨床試験の結果などを見る限りにおいては、
その有効性はほぼ同一です。
同じ目的で使用される製法の異なるワクチンを、
それが海外では共に発売済みなのにも関わらず、
このように中途半端にずらして発売する、
というような手法は、
僕は混乱を招く結果になるだけで、
望ましいものではないように思います。
そんなことは他の薬でも同じではないか、
と言われる方があるかも知れませんが、
接種年齢が限定され、
公費負担や公費による補償などが存在するワクチンは、
通常の薬剤とはちょっと事情の異なる側面があり、
極力接種される方が、
平等になるように、
配慮がなされるべきではないかと思うのです。
ただし、ロタテックは3回の接種が必要ですから、
現実的にはお子さんの接種スケジュールは非常に困難となり、
あまり流通しない可能性が高いのでは、
と現時点では考えられます。
これは僕の個人的な意見ですが、
日本では輸入ワクチンの採用は遅れているため、
同種の効果を期待した、
製法の違う複数のワクチンについて、
その優劣を検証するに充分なデータが、
採用の段階で既に揃っている、
というメリットが存在する訳です。
こうした場合可能な限り、
ワクチンをより有効性と安全性に勝ると判断出来る1種類に絞るか
(実際そのような方針の国は結構あるのです)、
同等の意義を有すると判断される場合には、
接種者に不公平が生じないよう、
公費負担がなされるような段階においては、
極力同時に採用し、
接種者が自らの判断で、
ワクチンを選択出来るように、
配慮をするべきではないでしょうか?
皆さんはどうお考えになりますか?
今日は最近のワクチン導入においての、
問題点を考えました。
念のため補足しますが、
僕は現時点でサーバリックスとガーダシルのうち、
どちらが優れたワクチンであるか、
という点については、
確証の持てる意見はなく、
情報も持っていません。
シェアの話はあくまで伝聞です。
その点はご理解の上、
慎重にお読み頂ければ幸いです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2012-03-16 08:45
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先生こんばんは。
このたびの同種のワクチンの選択に関するお話は、大変勉強になりました。
娘が中1で、もうすぐ市から子宮頸がんの無料接種券が送られてきますが、しばらく待って、もっと多くの型に対応するワクチンが開発されてから接種を検討してみたいと思いました。まだ年齢的に猶予はあると思いますので。そのときは自費で接種することになってしまいますが、先生のお話から、待つ価値があるように思います。
それから、日本脳炎ワクチンについて教えていただけますか。サーバリックスの後にカーダシルが接種できないのなら、日本脳炎の旧ワクチンの後に新ワクチンを接種するのも危険なのでしょうか。
我が家には現在16歳と13歳の子どもがいますが、2人とも第1期の3回分は旧ワクチンを接種しています。上の子どもが第2期分を追加する直前に接種の積極的勧奨が差し控えとなったため、第2期分は2人とも接種していません。というのも、ワクチン接種が再開された当初、旧ワクチン接種者が追加で新ワクチンを接種することが見送られていたことから(しばらくしてから接種可となったと記憶しています)、旧ワクチンと新ワクチンを混合接種することに不安を感じたからです。でも、やはり追加接種をする方がよいのかと迷う気持ちもあります。
第1期分の接種で基礎免疫はつくという意見を聞いたこともあるのですが、このまま追加接種はしなくても大丈夫でしょうか。ちなみに我が家は兵庫県で、日本脳炎が発生する地域にあたります。
by ぷくりん (2012-03-16 23:03)
ぷくりんさんへ
コメントありがとうございます。
多価のワクチンは、
まだ開発の方向だ、
というレベルの話なので、
実現はするとは思いますが、
何年後のことになるかは分かりません。
現行サーバリックスもガーダシルも、
前癌病変までの予防には、
遜色のない効果が確認されていて、
色々支障があるので、
表立ってどちらが良いとは言えませんが、
接種のご方針であるとすれば、
多価ワクチンを待つのは、
良策ではないかも知れません。
ただ、状況は結構変化が激しいので、
もう1年くらい待って頂いて様子を見ても、
悪くはないような気がします。
要するに、数年の間に、
実はこちらの方が良い、
という方針が、
はっきり出て来る可能性があります。
いずれにしても100%の予防、
ということは有り得ないので、
検診の定期的な施行が、
最も重要です。
日本脳炎ワクチンについては、
今のところ混合接種の問題は、
指摘はされていないようです。
ただ、当初は国も混合接種不可と言っていて、
それが変更された経緯はあります。
要するに、この辺りの判断は、
便宜的なもので、
必ずしも科学的ではありません。
流行状況を見て追加接種の有無を決めても、
問題はないのではないかと、
個人的には思います。
by fujiki (2012-03-17 08:23)
先生お返事いただきありがとうございます。
子宮頸がんワクチンについては、接種するか否かも含めて、もう少し考えてみます。
日本脳炎ワクチンについてですが、申し訳ありませんが、追加で質問させてください。
第1期分の接種だけでは、やはり免疫はついていないのでしょうか。
また、追加接種は何年後であっても効果はあるのでしょうか。
by ぷくりん (2012-03-17 11:33)
先生、こんにちは。
当方は医学の素人ながら、数年後に定年を迎えるため、その後は医療翻訳をして生計を立てていこうと思い、医学を独学で学んでいます。ときどき先生の過去ログを読ませていただいています。先生の知識の広さに感嘆しております。
さて、今回のヒトパピローマウイルスについて教えて下さい。
このウイルスは子宮頸がんを発症するということですが、男性の体内にこの病原体が侵入してきても、なんの悪さも起こさないのでしょうか?また、尖圭コンジローマは性感染症となにかに書いてあったのですが、この皮膚病も男性には発症しないのでしょうか?
よろしくお願いいたします。
by ロングマン (2012-03-18 11:12)
ぷくりんさんへ
1期の3回接種が完了している場合、
その最終接種から、
5~10年ごとに接種を行なえば、
脳炎を予防するに足る
免疫が維持される、
というのが公式見解のようです。
つまり、追加接種を1回すれば、
一生OKという性質のものではありません。
by fujiki (2012-03-19 08:32)
ロングマンさんへ
コメントありがとうございます。
尖圭コンジローマは男性にも発症します。
男性でも外陰部の癌は、
ヒトパピローマウイルスの感染との関連性があり、
特に同性愛の方では、
リスクが高いのでワクチン接種が推奨される、
という内容の論文もありました。
それ以外の癌との関連も、
色々と指摘はされていますが、
まだ未知の部分が多いと思います。
by fujiki (2012-03-19 08:35)
先生、お返事いただきありがとうございました。
追加接種をすれば、終生免疫がつくものと思っていました。
それなら、ほとんどの子どもたちは、きちんと接種を完了しても、20才代で免疫が切れてしまうということですね。
うちの子の場合、1期の3回目を4歳のときに終了していますので、それからすでに12年経過しています。
ということは、今はまったく免疫の無い状態ということですか。
免疫をつけようと思ったら、また最初からやり直しということなのでしょうか。
予防接種は難しいですね><
by ぷくりん (2012-03-19 15:15)
先生、お返事ありがとうございました。
とても勉強になりました。今後とも先生のブログ記事で勉強させていただきます。
by ロングマン (2012-03-20 18:25)