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学級閉鎖の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
学校閉鎖の効果論文.jpg
今月のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
インフルエンザの流行期における、
学校閉鎖の効果についての文献です。

日本ではインフルエンザの流行期など、
感染症が学校や保育園などで流行すると、
クラスや学年、場合によっては学校や施設全体を、
一時的に休止する、という措置が取られます。

言わゆる「学級閉鎖」ですね。

最近で一番話題になったのは、
矢張り2009年の新型インフルエンザ騒動の時で、
関西ではある地域の学校を、
一斉に休みにするような措置も取られました。

ただ、こうした手法に、
果たしてどれだけの効果があるのか、
という点については、
まだ議論の余地を残しています。

たとえばクラスで3人の患者さんが確認された時、
その時点で学級閉鎖を行なっても、
実際にはもう感染して潜伏期にあるお子さんが、
多数存在していることは明らかで、
そのお子さんが家庭に戻ることにより、
家族内の感染はむしろ助長される可能性がありますし、
お子さんは元気であれば言いつけを守ってじっとしていることは困難ですから、
地域の感染の拡大は、
むしろ早まる可能性もあります。
更に学級閉鎖の期間が終わり、
また学校が再開された時、
感染は再び拡大する可能性もあります。
学級閉鎖は一般的には短期間で終わらざるを得ず、
感染の流行自体はそれよりは確実に長く続くからです。

海外でもそうした議論があり、
必ずしも一定の結論に至っていません。
実際にはむしろこれまでの研究では、
学級閉鎖の有効性はあまり高くはない、
という結論のデータの方が多いのです。

ただ、臨床的に学級閉鎖や学校閉鎖の有効性を検証するのは、
実際には非常に困難な作業です。

学級閉鎖をしたAという学校と、
学級閉鎖をしなかったBという学校を比較しても、
感染症の状況を一定にするということは出来ませんし、
感染というのは、
学校内部でのみ起こる現象ではないので、
統計処理は困難だからです。

そこで最近の研究では、
数学的なモデルを用いて、
学校閉鎖をした時の感染状況から、
仮にしなかった場合の感染状況を、
数学的に計算して、
その効果を推測する、
という手法が主に取られています。

今回の文献では、
そうしたこれまでのデータの乏しさを検証した上で、
カナダのアルバータ州において、
学校の夏季休暇と新型インフルエンザの流行状況との関連性を、
数学モデルを用いて検討しています。

日本は積極的に学級閉鎖の措置を施行している国で、
その意味ではその有効性についての、
先進的なデータを、
世界に向けて発信しても良さそうですが、
国内向けの文献はあって報道などもされてはいるものの、
今回の文献の記載を見ても、
日本のデータは全く引用はされていません。
日本の臨床研究の、
世界的な発信力の乏しさを、
こうしたことからも見ることが出来ます。

さて、今回の検討においては、
2009年の夏の新型インフルエンザの流行期において、
夏季休暇により巧まざる「学校閉鎖」が行われたため、
その効果として他人へのその時期の感染の拡大が、
50%以上減少した、
と推計されています。
ただし、夏季休暇の終わりと共に、
第2波の流行が起こっているので、
それを誘発した側面は否定出来ないのですが、
それを差し引いても、
「学校閉鎖」は感染の拡大阻止に、
有効であろう、
という結論でした。

学級閉鎖の有効性というのは、
何となく当たり前のようにも思えますが、
実際にはまだ結論の出ていない事項であり、
日本でももっと世界に発信可能なような、
この分野での実証的な研究が必要なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

まみしゃん

塾の先生をしている知り合いの話ですが、学級閉鎖や学年閉鎖になっても塾に来るお子さんが多くて困っているそうです^^;

どんな病気も感染の危険はあるのですが、やはり自分の身は自分で守るということですよね。

下火になってきたとはいえ、まだまだインフルエンザ患者の多い北海道ですが、ワクチンを10月下旬に受けたので効力がなくなっているかなぁ~と外出を控えているこの頃です。

先生も、お体大切になさってくださいね。
by まみしゃん (2012-02-23 09:44) 

こはく

先生、お身体はいかがでしょうか。
心配しております。
我が家は自営業ですが
パートさんが子どもの学校が学級閉鎖で・・・と急に休まれたりしますので、この季節は恐怖です。
本当に有効なのかどうか調べるのは難しいでしょうが、きちんと研究が進むことを望みます。
by こはく (2012-02-23 20:44) 

ide

昨日に引き続き何度もすみません。どうにもMRSAの問題が気になっていて、、世間での現状はhttp://www.wel.ne.jp/bbs/article/78625.htmlの様なのですが、病院では診たがらない、抗生剤治療は耐性菌増やすから行わない、保険も利かないというのが実情なんでしょうか?あんまり気にしてなかったのですが、小学生時代のとびひの後が残ってるんですよね、無くなった父は若いときから慢性中耳炎でしたし、私は2年前喉頭培養検査で陽性だったんですが、胆嚢ポリープが痛い場合、細菌感染が原因だそうですが、MRSAが原因だった場合発熱してcrpが3以上でないと検査も治療もせず、経過観察で、治療は即胆嚢摘出しかないんでしょうか?過去三回エコーと胃カメラ受けたところはそういわれたのですが。MRSA症状の出ないうちにバンコマイシンで全快というわけには絶対ならないのでしょうか?自分勝手な相談で本当に申し訳ありません。

by ide (2012-02-24 01:14) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
学校閉鎖はその間のお子さんの過ごし方を含めて、
地域でトータルに考えないと、
あまり有効性がないのかも知れません。
身体は幸い回復傾向です。
by fujiki (2012-02-24 08:19) 

fujiki

こはくさんへ
お気遣いありがとうございます。
今朝の感じではどうにか山は越えたかな、
という感じです。
こはくさんも、
お身体ご自愛下さい。
by fujiki (2012-02-24 08:20) 

fujiki

ide さんへ
MRSAはお子さんでも検査をすると、
結構高率で保菌はありますが、
それが感染の原因となることは、
とびひのような皮膚の感染以外は稀だと思います。
鼻腔のバクトロバン軟膏による除菌は、
陽性であれば試みて悪くないと思いますが、
全身的な抗生剤の使用は、
矢張りリスクの方が大きいと思います。
by fujiki (2012-02-24 08:25) 

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