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高齢者の高血圧治療にはメリットがあるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高齢者の高血圧治療.jpg
British Medical Journal誌の今月号に掲載された、
80歳以上の高齢者に対する、
高血圧の治療についての論文です。

高血圧の治療が、
心臓病や脳卒中の予防のため、
また腎臓や心臓の働きの低下を抑制するために、
意味のあるものであることは、
その意味付けには色々な意見があっても、
トータルには立証された事実です。

ただし、その元になるデータは、
主に中年層で検討されたもので、
高齢者、特に80歳以上の年齢層においては、
本当に意味があるのか、
という裏付けのデータは、
実際には最近まであまり存在してはいませんでした。

その一方で、
年齢と共に血圧が上がるのは、
ある意味生理的な現象で、
高齢者の高血圧は、
治療する必要はないのだ、
という意見があり、
テレビの健康番組などでも、
医療の専門家と称する人が、
そうした発言をされていることがあります。

実際に脳卒中後の血圧を低くし過ぎると、
死亡率や再発率が上昇する、
というようなデータは複数存在します。

しかし、それでは大きな病気のない80代の方で、
上の血圧が160であったら、
それは様子を見るべきなのか、
それとも薬を使用して下げるべきなのか、
また、
中年期から血圧の治療を継続し、
安定した状態で80代に達した方は、
果たしてその後も血圧の治療を続けるべきなのか、
それともその時点で治療を終了しても、
特に違いはないものなのか、
というような点については、
これまでに信頼のおける、
大規模な臨床データのようなものは、
最近まで殆ど存在しませんでした。

その意味で画期的な業績とされているのが、
今回の論文の元になった、
HYVET(Hypertension in the Very Elderly Trial)と称する、
ヨーロッパ主導で行われた大規模臨床試験で、
その結果は2008年のNew England Journal of Medicine誌に掲載されました。

この試験は80歳以上で上の血圧が160mmHg以上の高齢者、
4761名を登録し、
最終的にはそのうちの3845人を、
高血圧の薬を飲む群と、
偽薬を飲む群の2つに、
本人にも処方する医師にも、
どちらであるのか分からない形で振り分け、
その後の経過を観察したものです。

使用された降圧剤は、
インダパミド(商品名ナトリックスなど)という利尿剤と、
ペリンドプリル(商品名コバシルなど)という、
ACE阻害剤というタイプの降圧剤です。
どちらも現在日本でも使用は出来る薬ですが、
使用頻度はそれほど高くはありません。
降圧目標値は150/90mmHgです。

その結果、追跡期間平均1.8 年という、
中間報告の段階で、
脳卒中の発症リスクが降圧剤使用群で41%低下し、
全ての原因による死亡のリスクも、
24%有意に低下したため、
これ以上の試験は、
降圧剤未使用者の不利益になるとの判断で、
試験は中途で一旦終了となりました。

つまり、80歳以降で治療を開始し、
1年程度の治療においても、
死亡リスクと脳卒中リスクを減少させる効果が、
降圧治療で確認されたのです。

前置きが長くありましたが、
今回の論文は、
この試験の延長試験の結果です。

今度は患者さんに自分達が何を飲んでいたのかを、
明らかにした上で、
降圧剤使用群の患者さんではその降圧剤の使用を継続し、
それまで偽薬を飲んでいた患者さんでは、
その時点から降圧剤を開始します。
それでもう1年の経過観察を行ない、
その結果を検証しました。
つまり、2年以上降圧剤を飲んだ患者さんと、
1年しか飲んでいない患者さんとを、
比較したのです。

降圧剤使用後1年間の脳卒中の罹患率や、
心臓病の罹患率には両者の間で差はなく、
このことは少なくとも1年間降圧剤を使用して、
血圧を150mmHg以下にコントロールすれば、
脳卒中の発作予防には、
一定の効果が得られる可能性が高い、
ということを示唆しています。

一方でその1年間の総死亡リスクと、
心疾患による死亡のリスクに関しては、
2年間の降圧剤治療を行なった患者さんの方が、
有意に低下している、
という結果でした。

これはつまり、
心疾患による死亡リスクの低下に関しては、
1年の降圧剤治療では不充分で、
2年間の治療の継続が最低限必要である、
という可能性を示唆しています。

今回のデータは海外のものですが、
対象者にはチェニジア人と中国人が含まれており、
ある程度同様の結果が、
日本人にも適応出来る可能性が高い、
と考えられます。

これが全て正しいとは言い切れませんが、
現時点での最も信頼性の高いデータであることは間違いがなく、
大きなご病気のない80代の高齢者で、
血圧が常時160を超えているケースでは、
少量の利尿剤とACE阻害剤を使用して、
上が150以下程度までマイルドな降圧治療を行なうことは、
その後数年の死亡リスクと脳卒中のリスクを低下させることは、
期待出来ると考えて良いのです。

今日は高齢者の降圧剤治療についての最新の知見の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

taniyan

石原先生
今晩は、初めまして、時々ブログ拝読させて頂いておりますtaniyanと申します。

先生の記事は大変真面目でエビデンスの裏付けある記事多く感謝です。

さて本題、当方古希を少し過ぎた爺です。

現役時代、社内検診で高血圧と高脂血漿を指摘され数年様子見でしたが好転せず、40歳から社内診療でアダラートL10とメバロチン10mgで処方開始。

血圧不調で定年延長もなく1999年リタイヤ、その後複数の診療機関を経て薬剤もいろいろ変わり多剤処方に至る。

更に各種ドックや検査で冠動脈全体のCa沈着、頸動脈狭窄(65%)、動脈硬化進展等々指摘されている。

結果現在の処方は以下の通りです、Drによっては降圧過多とも言われてます、自分でも自覚、しばしば脳貧血に見舞われる、でも慣れで直ぐお辞儀してしのいでます。

それでも不安定で精神的ストレス、緊張で直ぐ160/80を超えます。
頓服でバイミカード2.5mgやデパス0.5mgで治めてます。

調子良い普段の安静時は110/60前後、起立低血圧の際は上が90なんてこともあります。

それでも最近脳ドック受けましたがラクナ検出されず、主治医は観えないだけであるに決まってると申してます。

現在の処方
1.ユニシアHD(最近アムロジピン5mg/カンデルサルタン12mgからの変薬)。
2.テノーミン25mg.
3.カルデナリン1mg。
4.ワイパックス0.5mg×2分服。

5.クレストール5mg。
6.バイアスピリン
7.EPA600mg×3分服。

8.他に耳鼻科でカルナクリン、シングレア、ナゾネックス噴霧剤。

9.眠剤:ロフィプノール1mg、ハルシオン0.25mg。

最近は落ち着いてますが夜間高血圧でカタプレス服用したこともあり。

自分は就寝時100/60でも、夜間150/80が明け方まで継続する時季あり。
就寝時上が120程度だと夜間上昇が分ってるのでバイミカード2.5mg(5mg/2)頓用しています。

この処方、先生もビックリではないでしょうか。

とにかく高齢になると不安定、結局こんな多剤処方となってしまいました。
OB仲間にも不安定なのがいて起床時は上が110台なのに緊張すると180超え、その彼もバイミカードで直ぐ降圧します。

長々と勝手な愚話、申し訳御座いませんでした。

                  taniya

http://ameblo.jp/kyouta1939/
by taniyan (2012-01-28 18:54) 

fujiki

taniyanさんへ
コメントありがとうございます。
確かに血管の収縮で一時的に血圧が急上昇される方はいて、
その場合は降圧剤の治療には、
正直限界があると思います。
少量の利尿剤で著効するケースは、
状況によってはあるようです。
これからも時々、お読み頂ければ幸いです。
by fujiki (2012-01-30 08:21) 

pompom

高齢者の血圧コントロールを検索していてこの記事を拝見しました。

父は86歳、アルツハイマーもあり要介護5です。
ショートステイのお世話になる事も多いのですが、
ステイ先では血圧が180/95ぐらいのことが多く、
施設の看護士さんか心配してお電話をいただく事があります。

現在ノルバスクとブロプレスを服薬しています。
これ以上降圧薬を増やす事に意味があるでしょうか。

現在服用中のお薬が7種類もあり、そちらを
いろいろ工夫して飲ませるだけでも大変なのですが。


お忙しい中、突然の質問で失礼致しました。
もしお時間があればお答えいただけると幸いです。


by pompom (2013-10-31 09:23) 

fujiki

pompomさんへ
どのくらいの血圧が問題になるのか、
という点については、
その方のトータルな健康状態との兼ね合いがありますので、
一概にこれ、と決めることは難しいと思います。
上記の記事にもありますように、
現行上の血圧が160を常時超える状態は、
脳卒中などのリスクが増加するので、
低下が望ましいとは思います。
ただ、絶対ではありません。
お家での血圧はいかがでしょうか?
今のシステムでは、
施設はどうしても一定の基準で、
血圧を判断しますから、
180を超えてご連絡が入るのは、
止むを得ない面があります。
主治医の先生にご相談の上、
「これこれの血圧までは様子を見て問題なし」
のような指示書を、
先生に書いて頂くのも1つの方法かと思います。
by fujiki (2013-11-02 12:56) 

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