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直接レニン阻害剤と他剤併用のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ラジレスの安全性情報.jpg
先日このような報告がありました。
当該の製薬会社の方は、
いつもとても熱心に情報提供をしてくれるのですが、
この件については、
多分郵便か何かは来ていたのだと思いますが、
先日僕が聞いて初めて、
そのことを教えてくれました。

ラジレス(一般名アレスキレン)は、
以前一度記事にしたことがありますが、
直接レニンを阻害するという、
それまでにない画期的な作用の新薬で、
主に高血圧や心不全の治療に使用されています。

レニンというのは、
レニン-アンジオテンシン系という、
身体の体液を維持する、
非常に重要なホルモンメカニズムの、
その大元に位置する物質です。

それを何故阻害するのかと言えば、
多くの高血圧の患者さんでは、
レニン-アンジオテンシン系が過剰に活性化していて、
それが身体に悪影響を及ぼしている、
という考え方があるからです。

レニンの活性化は、
最終的にアルドステロンというホルモンを上昇させます。

このアルドステロンが塩分を貯留し、
高血圧や心不全の増悪因子となっていることは、
ほぼ立証された事実です。

それで、アルドステロンと、
その手前にあって血管を収縮させる、
アンジオテンシンⅡという物質を、
抑えるタイプの薬剤が開発され、
高血圧治療の主力として使用されています。
その代表がアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)と、
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)です。

この両者の薬剤は非常に有用性が高く、
特にACE阻害剤が心不全や虚血性心疾患、
腎疾患の進行抑制などにも、
効果のあることはほぼ確立した事実です。

ただ、この薬はいずれもレニンより下位で、
その作用をブロックする薬なので、
その結果としてレニンは却って増加する、
という結果が生じます。

このレニンの増加が、
単独でも心不全などの悪化の要因である、
という知見があり、
これが事実とすると、
せっかく薬でアルドステロンやアンジオテンシンⅡを下げても、
その効果の一部はレニンの上昇で相殺されてしまう、
というジレンマが起こるのです。

そこで、
ラジレスという、
レニンを低下させる薬が2009年に発売され、
その効果が期待されたのです。

その降圧効果は上限の使用量の1日300mgで、
上の血圧が平均14mmHgの低下ですから、
比較的マイルドな効果です。

つまり、単独で中等度以上の高血圧を治療するには、
やや覚束ないものがあります。

そこで他の薬剤とラジレスとの併用が、
検討されることになります。

最初に検討されたのが、
カルシウム拮抗薬というタイプの薬剤で、
そのメカニズムから言っても、
理に適った選択肢です。

次に検討されたのが、
今回問題となった、
他のレニン-アンジオテンシン系に作用点を持つ、
ACE阻害剤やARBとの併用です。

本来は同一の部分に作用点を持つ薬剤は、
併用はしないのが、
安全性の意味での鉄則です。

しかし、こうした鉄則は、
概ね破られるためにあるのです。

ARBを使用してレニンが上昇する弊害があるなら、
それにラジレスを組み合わせれば、
より強力にレニン-アンジオテンシン系を抑えられると共に、
副作用を帳消しに出来て一石二鳥と考えます。
製薬会社サイドから考えると、
ARBもラジレスも、
共に高い薬なので、
両者を併用することで、
より収益に繋がるメリットもある訳です。

こちらをご覧下さい。
ラジレスと心不全効果.jpg
これはラジレスの宣材にあるものですが、
ALOFTと呼ばれる試験が紹介されています。
これは心不全の患者さん302例に対して、
通常の治療へのラジレスの上乗せ効果を検討したものです。
心不全の治療では、
ACE阻害剤かARBは基礎薬として使用しますから、
これは両者とラジレスの併用の試験になるのです。
今読むと副作用の発症率は、
ラジレス使用群で2倍近くになっていますから、
有意差はなくても、
おや…という感じはします。
使用量は1日150mgという少なめの使用量です。
BNPが低下した、というのは、
心不全の改善を示唆するものですが、
数値だけの改善は、
必ずしも患者さんにとって、
はっきりとしたメリットになっているかどうかは分かりません。

では次をご覧下さい。
ラジレスの腎保護作用.jpg
同じ宣材に、
AVOIDという試験が紹介されています。
これは599名の糖尿病の患者さんに、
ロサルタンというARBの上乗せに、
ラジレス150~300mgを追加したものです。
それにより腎臓の低下による、
おしっこの蛋白量が低下した、
というものです。
これは要するに追加により、
糖尿病の腎機能低下の進行が抑えられるのでは、
という結論になっています。
安全性には差がない、という結果ですが、
今読むと矢張りラジレス群では、
副作用の頻度は高い傾向はあるのです。

今回問題になった臨床研究は、
ALTITUDE試験と言って、
糖尿病で腎障害もしくは腎機能低下を有する、
8606人以上の患者さんに対して、
ACE阻害剤もしくはARBへの、
ラジレス1日300mgの、
上乗せ効果を見たものです。

試験の内容は基本的にAVOIDに似ていますが、
例数はグッと多く、
心臓病のリスクの高い患者さんを対象としているので、
より病状が進行した方が、
対象となっている、
という違いがあります。

今回その中間解析結果が検証され、
脳卒中や腎臓の合併症、高カリウム血症や低血圧、
といった有害事象の発症率が、
ラジレス上乗せ群で有意に高く、
試験は中途で中止されました。

この試験においては、
ACE阻害剤やARBに対する、
ラジレスの上乗せが患者さんにとってメリットがある、
という予測が否定されたのです。

この結果を受けて、
当該製薬会社は声明を出し、
糖尿病を合併している患者さんについては、
ラジレスとACE阻害剤もしくはARBとの併用は、
しないように注意喚起を行なっています。

元々ARB等とラジレスの併用は、
併用注意の扱いとなっているので、
製薬会社は特に困らないのです。

ただ、実際には上にお示ししましたように、
両者の併用はむしろ推進されていた面があり、
僕はこうしたプロモーションは基本的に信用しないので、
併用している事例はありませんが、
いつものことですが、
末端の医療者に対して、
ちょっとフェアではない、
という思いがあります。

まだ中間報告の詳細な分析は明らかになっていないので、
またそれが出た時点で検討したいと思いますが、
こうした結果は逆に言えば、
ラジレスという薬が、
非常に強い効果を持っている、
ということの1つの証左であると、
僕は現時点では考えているので、
今後この結果が、
より患者さんに役に立つ、
ラジレスの使用法に繋がることを、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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