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新規抗凝固剤「リバロキサバン」を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リバロキサバン.jpg
New England Journal of Medicine誌の最新号に掲載された、
ワーファリンに変わる抗凝固剤の新薬、
リバロキサバンの臨床試験の結果報告です。

心房細動という不整脈があり、
その不整脈の持続により、
心臓に出来た血栓が脳に飛んで、
脳卒中の原因となります。

そのため、脳卒中のリスクが高いと想定される方には、
血栓を作り難くするような、
そうした薬が脳卒中の発作予防のために、
継続的に使用されます。

この目的でこれまで最も広く使用されて来た薬が、
皆さんご存知のワーファリンです。

ただ、このワーファリンには、
食事に影響されてその効果が減弱したり、
肝臓の代謝酵素の影響を大きく受けるので、
その効きに個人差があり、
また他の薬との相互作用が多い、
などの欠点がありました。

その効き具合の判定には、
血液検査でPT-INRという数値を、
その指標とすることが、
国際的に決められていますが、
その基準であるPT-INR 2~3という数値に、
実際にコントロールされている患者さんは、
海外のデータでも6割に満たないと報告されています。

つまり、4割の患者さんは、
ワーファリンを使用してはいても、
その効果は実際には充分に発揮されていないのです。

このため、もっと安定した効果のある、
抗凝固剤の開発が望まれていました。

何度かご紹介しましたように、
この目的でダビガトラン(商品名プラザキサ)という新薬が、
今年の3月から日本でも使用可能となりました。

しかし、何度かご紹介しましたように、
頻度の高いものではありませんが、
特に高齢者で出血系の合併症が生じ、
不幸にして亡くなられた方も、
複数見られるという事態が報告されています。

それでは今回のリバロキサバンというのは、
どのような薬なのでしょうか?

リバロキサバンは第Ⅹa因子阻害剤です。

血液が凝固する仕組みの中で、
複数の凝固因子が、
1つの流れのように、
段階的に作用しています。

その最終段階で働く凝固因子が第Ⅹ因子で、
Ⅹa因子というのは、
Ⅹ因子が活性化した状態のことを示しています。

このⅩa因子がプロトロンビンという物質を、
トロンビンに変える刺激となり、
そのトロンビンがフィブリノーゲンという物質を、
フィブリンという糊のようなものに変えて、
凝固の仕組みがほぼ完了します。

ワーファリンは複数の凝固因子の働きを、
抑える作用のある薬で、
ダビガトランは直接トロンビン阻害剤と言って、
トロンビン自体に結合して、
その働きを止めてしまう作用の薬です。

第Ⅹa因子阻害剤は、
トロンビンが作られなくなるようにする薬ですから、
非常に似通った作用で、
その効果はほぼ同じと考えられるのですが、
作用のメカニズムは少し違うのです。

このⅩa因子阻害剤は、
多くの製薬メーカーが、
その開発に凌ぎを削って来ました。

その中には日本開発の薬剤もありますが、
現状では出遅れているか、
その開発が断念されています。

そして、近日中に日本でも使用される可能性が高いのが、
以前ご紹介したことのあるアピキサバンという薬と、
今回その臨床試験の結果が報告された、
リバロキサバンです。

リバロキサバンの臨床試験は、
ワーファリンとの二重盲検試験として、
行なわれています。

これはこれまでのワーファリンとの比較試験では、
取れなかった方法です。

二重盲検試験というのは、
患者さんにも処方する医者にも、
ワーファリンとリバロキサバンの、
どちらが処方されているのか、
知らされないという方法です。

ただ、ワーファリンは定期的に血液検査をして、
その効果を判定しながら、
使用量を増減する必要のある薬です。

それではどのようにして、
どちらの薬が処方されているのかを、
分からないようにしたかと言うと、
定期的な採血自体は両者に行ない、
その数値もリバロキサバン使用群では、
偽物が医者に渡されます。
それに応じて量を調節する場合、
これもリバロキサバン使用群では、
偽の薬が増やされたり減らされたりするのです。

以前ご紹介したダビガトランのデータは、
こうした手法は採用されていません。

従って、今回のデータは、
より信頼性の高いものだと、
考えて良いのです。

トータルにエントリーされた人数は14000人余で、
7000人余の2群の分けて、
ワーファリンとリバロキサバン使用群に割り付けされます。

リバロキサバンは1日20mgの1回投与で、
腎機能の数値である、
クレアチニンクリアランスが、
30~49ml/min の場合には、
その量は15mgに減量されます。
この薬はダビガトランと同じ腎排泄のメインの薬です。
被験者の平均のクレアチニンクリアランスは、
67ml/min ですから、
基本的には腎機能の良い人に限って、
使用を行なっていることが分かります。

それに対してワーファリンは、
PT-INRの数値が2~3になるように、
そのコントロールがなされます。

これは海外の基準で、
結構厳しいコントロールなのです。

その結果はどうだったのでしょうか?

基本的には以前発表されたダビガトランのデータと、
同様の効果が示されています。

つまり、よくコントロールされたワーファリンと、
同等かやや良い脳卒中の予防効果を示し、
その出血性の副作用の頻度は、
ワーファリンよりより低いものでした。

特に重症の命に係るような出血と、
脳出血の副作用の頻度は、
リバロキサバンの方が有意に低いものでした。

この結果をどう考えれば良いのでしょうか?

リバロキサバンは、
海外の臨床試験の結果を見る限り、
先行したダビガトラン(プラザキサ)と、
ほぼ同等の脳卒中予防効果があります。

その副作用の頻度は、
ダビガトランよりやや少ない可能性があります。

ただ、ダビガトランでも海外より、
日本での使用で出血系の合併症が多い可能性があり、
このリバロキサバンでも、
同様の可能性は否定出来ません。

この薬は第3層の臨床試験の段階で、
海外とは別の用量設定がなされており、
海外用量より少ない量で、
その使用が開始される可能性が高いと思われます。

ダビガトランは海外と全く同じ用量でしたから、
その意味ではその決定は妥当と思われますが、
逆に海外データと同等の有効性が、
果たして得られるのだろうか、
という疑問は生じます。

先行したダビガトランに加え、
アピキシバン、リバロキサバンと、
ワーファリンに代わり得る薬剤が、
近いうちには出揃う形になります。
慌てて飛びつくのではなく、
その安全性を含めて、
その適応を、
慎重に見極めたいと思います。

今日は抗凝固剤の新薬の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ごぶりん

以前の記事でアビキシパンvsアスピリンのデーターを紹介して下さってましたが、
リバロキサパンはワーファリンとの比較なんですね。
そちらの方が実用的(…という言い方でいいのか・・・)な気がします。

第Ⅹa因子阻害剤はヘパリンのderivativeなんでしょうか?

ヘパリンは妊婦さんにも使用可ですが、新薬たちはどうなのかなぁ?
by ごぶりん (2011-09-13 08:00) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
アピキシアンもワーファリンとの比較も施行していると思いますが、
色々な事情があり、
結果の出易いアスピリンとの比較試験を、
優先させたもののようです。

by fujiki (2011-09-13 08:07) 

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