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抗凝固剤の適応について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日はワーファリンに代わり得る、
リバロキサバンという薬剤の、
臨床試験の結果をご説明しました。

こうした臨床試験の結果というのは、
医療系のニュースや一般のニュースでも、
しばしば紹介されることがありますが、
「リバロキサバンにワーファリンを凌ぐ有効性と安全性が判明」
のように紹介されるのが常で、
実際にどのような患者さんに、
有効性と安全性とが証明されたのか、
というような点については、
解説はされないことが殆どです。

ただ、新薬が華々しく発売され、
発売後数ヶ月で、
その予想外の副作用や有害事象のために、
緊急で安全性情報が出されたりする事態の裏には、
当初の適応とされた患者さんの枠を外れて、
その新薬が使用されたために生じた事態であることが、
しばしばあるように思います。

製薬会社が殊更に安全性を軽視している訳ではありませんが、
商品を売るという性質上、
少しでも多くの患者さんに使ってもらいたい、
という意図が働くのは当然のことで、
処方する医者の側が、
その点には充分に留意して、
製薬会社の担当者や、
製薬会社がスポンサーとなったネットのサイト、
そして製薬会社の御用専門医のレクチャー、
などの情報のみから、
その適応を判断することは、
適切ではなく、
処方した患者さんの利益に、
相反する結果となる場合もあることに、
心を向けるべきではないかと、
僕は思います。

昨日ご紹介したリバロキサバンという薬剤の場合、
その適応は心房細動という不整脈があり、
脳卒中のリスクが高く、
薬によるその予防の利益が大きい、
という想定がなされた患者さんに使用されています。

そのリスクの想定とは、
どのようなものでしょうか?

薬の適応はまず、
過去に脳卒中や一過性の脳虚血発作、
そして足の血管や肺の血栓症などの、
発作を起こしたことのある患者さんを対象としています。

こうした発作を、
1回でも起こした患者さんで、
慢性の心房細動という不整脈があれば、
その使用による出血などの副作用の危険性より、
使用した場合の発作予防の効果の方が、
より大きなものである、
という判断です。

それでは、そうした発作を起こしたことの、
これまでにない患者さんの場合はどうでしょうか?

その場合は、
幾つかの他のリスクの有無を判断材料にします。

そのリスクとは、
心臓の機能低下、
高血圧、年齢が75歳以上、糖尿病の4つです。

このうち2つ以上のリスクがあれば、
予防的に薬を使う適応と考えます。

ただし、この臨床研究では、
リスクが2つだけの事例は、
全体の1割以下にするように定められています。
つまり、残りの9割はよりリスクの高い患者さん達です。

日本のガイドラインにおけるワーファリンの使用の基準は、
心房細動の患者さんで、
リスク評価としては発作の既往と糖尿病と、
心不全と高血圧と狭心症とを同列に扱い、
1つ以上のリスクがあれば、
ワーファリンの適応とされています。

この場合、70歳未満ではPT-INRを海外と同じ、
2~3にコントロールし、
70歳以上では1.6~2.6にコントロールする、
とされています。
ただ、日本人では2.2を超えると、
出血系の合併症が増えるというデータがあり、
そのため僕は1.6~2.2を、
75歳以上では目標としています。

リバロキサバンの適応は、
基本的にはワーファリンと同じです。

従って、リバロキサバンが、
ワーファリンと同等の予防効果と、
それに勝る安全性があった、
というデータは、
上のような基準を満たす患者さんにおいてのみ、
当面は当て嵌まるものであって、
それを外れた患者さんにおける有効性と安全性は、
同じであるとは言い切れない、
ということになります。

僕は新薬を使用する上では、
これが非常に重要な情報と考え、
少なくとも発売後半年の間は、
その適応を外れた患者さんには、
使用を控えるようにしています。

たとえば糖尿病のある心房細動の患者さんで、
他の危険因子はなく、
75歳で発作の既往もない方がいたとします。

これは海外の診療試験の枠組みから言えば、
適応になるのですが、
日本のワーファリンの使用の適応から言えば、
通常のコントロールではなく、
PT-INRが2.2以下という、
より出血の発生に留意した、
使用を行なうべき事例になります。

この事例に通常量のリバロキサバンを使用すれば、
その効果は厳しくコントロールしたワーファリンと、
同等なのですから、
ワーファリンの使用よりも、
患者さんの出血系合併症は、
日本人ではより多くなる可能性があると、
考えられるのです。

従って、こうしたケースでは、
僕は仮にリバロキサバンが発売されても、
ただちに変更するのではなく、
日本での使用経験をもう少し積み重ねるまで待つのが、
妥当ではないかと思います。

もう1つ重要なことは、
患者さんの背景を見ると、
年齢は60代が平均で、
腎機能の数値も67ml/min が平均と、
かなり腎機能の良い患者さんを、
選んでいるということです。

リバロキサバンは腎排泄が主体の薬なので、
このことは非常に重要な情報です。

ダビガトラン(プラザキサ)も同様の排泄経路の薬で、
添付文書の指示通りに減量して使用されたにも係らず、
重篤な出血系の合併症を起こして、
死亡された事例が報告されています。

同じようなことは、
リバロキサバンでも当然起こる可能性があります。

問題は腎機能の良い人が主体で、
その安全性が検討されている、
という事実で、
この点を考えると、
添付文書上で問題のない使用であっても、
少しでも腎機能の低下した事例では、
特に新薬の使用時には、
慎重であるべきだと僕は思います。

このように新薬を安全に使用するに当たっては、
臨床試験の情報は非常に重要なもので、
かつ日本と海外の適応や患者さんの選択も、
往々にして異なっていることがあるので、
特に抗凝固剤のように、
合併症が重症になる可能性のある薬剤においては、
そうした情報の、
より慎重な解釈が、
臨床家にとって重要なのではないかと思います。

今日は抗凝固剤の適応についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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シロ

ありがとうございます。様子を見てみます。
by シロ (2011-09-13 10:07) 

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