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査定とその闇について [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

診療所で健康保険で診療を受けた患者さんは、
たとえば3割負担の方であれば、
そのうちの3割の負担分を診療時に払って頂き、
その翌月にレセプトという形で、
残りの7割を健康保険組合に請求します。

ただ、その請求が全て認められる訳ではなく、
健康保険組合が査定を行ない、
健康保険組合にとって、
不適切と判断された請求については、
「減点する」という無情な紙が、
ある日送られて来ます。

その査定は診療の2か月後くらいに送られて来ることもあれば、
何と1年くらい経ってから、
数か月分をまとめて査定されることもあります。

そのまとめた減点分を、
その月の診療報酬から引かれてしまうので、
患者さん毎に考えると、
その患者さんにはお金を払って頂いても、
診療所としては却って赤字になる、
というような深刻な事態にもなるのです。

1年くらい前の診療内容から査定されるのは、
健康保険組合が、
外部の業者に査定を下請けに出しているからです。

「うちに任せて頂ければ、
何百万はもぎ取れますよ」
というような業者がいて、
そこに健康保険組合はお金を出して、
査定を依頼する訳です。

10万円で依頼して、
もし5万円しか査定出来なかったら、
実際には健康保険組合の収支はマイナスになります。

医療機関の全てが適切な診療をしているのなら、
殆ど査定がない、ということも理屈では有り得る訳です。

しかし、それでも高額の下請け代を出して、
外部の業者に依頼するのは、
医療機関というものは、
どうせ水増しで請求しているのだろう、
という悪意があるからであり、
また、どんな嫌がらせめいた方法を使っても、
医療機関の多くは、
プライドだけが高く、
経済観念に乏しい、
詐欺を職業とされる方には、
カモの代表のような、
「医者」という人種が経営しているので、
幾ら絞り上げても文句は言えないだろう、
という侮りがあるからです。

そして、概ねその考え方は当たっています。

大手の医療事務の企業は、
医療機関の事務として、
レセプトの請求業務をする一方で、
健康保険組合から、
レセプトの査定も同時に請け負っています。

つまり、請求する側と審査をする側の、
両者の代行を同時にしている訳で、
普通に考えれば、
そんなことは不正の温床になるので、
あってはならないことのように思いますが、
世間の人も行政の担当者もメディアの方も、
医者の不正は常に疑い追求の手を緩めませんが、
こうした業者の不正は、
全く起こらないことのように想定し、
何の規制もないのは不思議でなりません。

まあこれは、製薬会社が悪の元締めのように思っている人が、
ジェネリック薬品の会社は正義の味方のように、
意味もなく思っているのと、
同じことなのかも知れません。

つまり、医療費削減という錦の御旗さえ立てていれば、
それがただの金儲けの行為に過ぎなくても、
全て善行なのであり、
医療機関が医療費を請求することは、
それ自体が悪なのでしょう。

医療費が不正なく請求されている、
という前提に立てば、
レセプトをチェックする業者など、
いらなくなり、
医療機関も健康保険組合も、
そうした業者にチェックさせる経費を、
削減することが出来ます。

こうした業者に吸い取られるお金は、
結局は社会保障費という税金の一部であり、
医療費の増加の裏には、
そうしたお金も存在するのですが、
そうしたことを指摘する人は誰もいません。

最後に1つのサンプルをお示ししましょう。

糖尿病のコントロールの指標に、
HbA1c というものがありますね。

点数表の記載によれば、
月に1回の検査が認められています。

この数値は概ね過去1~2ヶ月の血糖コントロールを反映しています。

それで僕は基本的には糖尿病の患者さんに対して、
2ヶ月に1回の測定を行なっていました。

それが最近バシバシと査定されて来ます。

色々と相談出来るところに訊いてみると、
3ヶ月に一度でないと認めない、
という方針になっている、
というのです。

しかし、そんなことは何処にも文書化はされていません。

つまり、査定をする人達の、
内々の基準なのです。

2ヶ月に一度のHbA1c の測定が過剰検査でしょうか?

僕には決してそうは思えません。
しかし、そんなことを主張したところで、
査定されたお金は戻っては来ないのです。

上に挙げた大手の医療事務の企業には、
そうした情報が逸早く集まるのです。
いや、ひょっとしたら、
彼らがそうした裏の査定の基準を、
作っているのかも知れません。

従って、査定されないためには、
彼らに高額な上納金を払って、
教えを仰がないといけない仕組みになっているのです。
それがいやなら情報が入らず、
そのために査定されて収入が減らされます。

どちらにしても、
医療機関は搾り取られる側で、
踏んだり蹴ったりなのですが、
日頃の行いが悪いのか、
それとも前世での悪行の報いでしょうか、
こうした医療機関を気の毒に思う人など1人もなく、
もっと搾り取れる筈だと言わんばかりの記事が、
今日も新聞には踊るのです。

取り敢えずHbA1c は3ヶ月に一度しか測りません。

不条理ですが、
それが上納金も払えない、
末端の医療機関の日常なのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 10

rtfk

医療に従事される方が他の雑事に気を取られず
仕事に集中できる環境を整えるというのも
医療を向上・発展させることにつながるのではないか?
と教科書的に考えてしまいます。
国の施策はどうなのでしょう?それらを見据えていても
結局は民間事業者の手綱を締められないのでしょうか・・。
by rtfk (2010-12-14 09:13) 

いつも楽しみに拝見しています

石原先生

先日のブログで呆然としていらっしゃった理由がわかりました。

1ヶ月に1度と書いてあるのに勝手に3ヶ月に1度にするなんて、
そんなひどいことが行われているとは知りませんでした。

お医者さんの側から見ると、この人の健康保険組合は嫌だなあ、と思う、患者さんがいるわけですね。もし、それが自分だったら恥ずかしいし、安心して医療を受けられません。

私の健康保険組合からは、3ヵ月後に明細がメールできます。
いつもざっとみて、ああ、あのときの医療費だな、と確認していますが、
他の健康保険組合ではどうなのでしょう。明細が届くのでしょうか?

利用者は、明細を確認して、変に減額されていた場合は、
みんなで一丸となって、健康保険組合にもっと利用者の立場に立って、変な減額をしないように要求するべきですね。

by いつも楽しみに拝見しています (2010-12-14 22:06) 

yuuri37

製薬会社が悪の元締めのように思っている人が、 ジェネリック薬品の会社は正義の味方のように、 意味もなく思っているのと・・・ここで思わず噴き出してしまいました。

先生、がんばれ!!
by yuuri37 (2010-12-14 22:13) 

会社員

あら~っていうお医者さんもたしかにいますが、一生懸命治療をしているお医者さんもたくさんいるのもわかります。

ただ、身近にいないとわからないのですよ。特にお医者さんの世界って閉鎖的過ぎて。
たまには愚痴をいうのも必要かと思います。
こういう話を聴けるのがブログのいいところですね。

>いつも楽しみに拝見していますさん
私の会社の場合は、日にちとかかった医療機関と金額のリストが届きます。
でも、届くのに3か月もかかってないような気がします。

by 会社員 (2010-12-14 23:30) 

fujiki

rtfk さんへ
コメントありがとうございます。
もう少し煩わしさがなければ、
良いのになあ、とは思います。
by fujiki (2010-12-15 08:35) 

fujiki

いつも楽しみに…さんへ
コメントありがとうございます。
まあ利害が違うので、
仕方がないのかも知れませんが、
もう少しうまく両者の調整をしてくれればな、
とは思います。
現状は両者の対立を、
行政も意図的に煽っている訳です。
by fujiki (2010-12-15 08:41) 

fujiki

yuuri37 さんへ
コメントありがとうございます。
医者は交渉下手ですよね。
その上職種全体の利益なんて考えないのだから、
いやになります。
by fujiki (2010-12-15 08:46) 

fujiki

会社員さんへ
愚痴におつきあい頂き、
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2010-12-15 08:46) 

ジャニオク

>医者の不正は常に疑い追求の手を緩めませんが、
>こうした業者の不正は、
>全く起こらないことのように想定し、
>何の規制もないのは不思議でなりません。

何の規制もないというより、
単純に無知なのではないでしょうか。

ただ、私個人の体験では
医者に対して腹が立つことは
正直最近もありました。

ある歯科医たちの掲示板があって
何でも相談できるというので
衛生的な不安を書いたところ
保険で治療しておいて衛生的な配慮を
当たり前だと思うな、
というようなことを書かれたことがあります。

同じことを、食料品店のオーナーが書いたら
あっという間に2ちゃんねるに叩かれ
マスコミにたたかれ
不買運動でその店はつぶされます。
そう書いたらますます掲示板は荒れました。

歯医者も世間知らずで甘えているんだなと思いました。

政治家や芸能人が公人として、
片言隻句を過剰に叩かれるように
命と健康を預かる医師も
そのへんの緊張と仕事のうちだという
自覚が欲しいと思いました。


人間というのは被害者意識がつよいものです。
自分が不遇・不条理な思いをされたら
他の職業の人に、こんなことはないかと
一杯やりながら尋ねてみるのもよいかと思います。

先生の出身高校なら
官僚もサラリーマンも学者もおられるでしょう。
by ジャニオク (2010-12-16 04:48) 

fujiki

ジャニオクさんへ
コメントありがとうございます。
ご指摘心に刻みます。
by fujiki (2010-12-16 08:27) 

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