有害事象と副作用の話 [仕事のこと]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日の内容は、
まだリサーチの途中なので、
そのつもりでお読み下さい。
現状で正しいと僕の思うことを書いていますが、
また情報が入れば、
修正される可能性があるからです。
有害事象(Adverse Events )という言葉があります。
有害事象とは、
「治療や処置に際して見られるあらゆる好ましくない徴候、症状、疾患(臨床検査値の異常を含む)であり、治療や処置との因果関係は問わない」
と定義されます。
これは結構広い範囲の事象について語られる言葉ですが、
僕が今日取り上げたいのは、
主に「薬の有害事象」、という話です。
「薬の有害事象」とは、
ある薬を使用した時に、
その使用した患者さんに、
好ましくない現象の起こることです。
この場合、「薬との因果関係を問わない」
というのが大きなポイントです。
つまり薬と結果的には無関係であっても、
薬を飲んだ後でその患者さんの具合が悪くなれば、
それは薬の有害事象と判断される場合があります。
よろしいでしょうか?
次によく似た言葉で、
副作用という言葉があります。
「薬の副作用」というのは、
一般の用語としてもよく使われますし、
薬事法などにおける法律用語でもあります。
一般に「薬の副作用」と言えば、
ある薬を使用した患者さんに、
その薬による有害な作用が生じたこと、
というニュアンスで使われます。
薬事法で書かれているニュアンスも同じです。
つまり、この場合の「薬の副作用」というのは、
「薬の有害事象」のうち、
薬との因果関係が明らかなものやその可能性のあるもの、
ということになります。
従って、「薬の有害事象」を分析した上で、
薬と無関係と判断されるものを取り除いたものが、
「薬の副作用」ということになります。
つまり、この時点で「薬の副作用」は、
「薬の有害事象」の一部なのですから、
あくまで患者さんにとって有害な作用のみのことです。
ところで…
「副作用というのは、薬の想定された作用以外の全ての作用のことなのだから、悪いものばかりじゃないんだ。副作用を期待して薬を使うこともあるんだぜ」
というような意見を、
訳知り顔に述べる人がいます。
この意見を言う人の頭の中には、
薬の想定された作用以外のものは、
良いものも悪いものも全て「副作用」と呼ぶ、
という考え方があります。
それは正しいのでしょうか?
それとも誤っているのでしょうか?
どうも問題は用語の混乱にあるようです。
副作用の英訳は何でしょうか?
ウィキペディアではAdverse Reaction が対応しています。
この用語を普通に訳せば「有害反応」です。
その一方でSide Effects という言葉があり、
これはそのまま訳せば文字通り「副作用」です。
英語では薬の有害事象のうち、
薬との関連性があるものをAdverse Reaction と呼び、
薬の主作用以外の副次的な作用は、
良いものも悪いものもひっくるめて、
Side Effects と呼んでいるのです。
ところが、日本語では厳密にその区別が付けられておらず、
ある時はAdverse Reaction のことを「副作用」と呼び、
またある時はSide Effects のことを「副作用」と呼んでいるのです。
ここに解釈の大きな混乱があると、
僕は思います。
更には「副反応」という言葉もあります。
ワクチンの有害事象があれこれと話題になった時に、
「ワクチンの副作用なんて言い方は不正確なのよ。薬と違ってワクチンに主作用はないんだから、副反応と言うのが正しい言い方なの」
とこれも訳知り顔に言う人がいました。
その時はなるほどね、と思ったのですが、
英語の文献を読んでも、
薬の副作用もワクチンの副作用も、
いずれもAdverse Reaction と書かれていて、
特に違いはありません。
要するに「副反応」というのは、
Adverse Reaction のもう1つの訳語なのだと、
合点が行きました。
上の発言をされた方は、
Adverse Reaction とSide Effects の違いを、
そのように説明していたのですが、
日本語ではその2つの用語は、
共に「副作用」と訳されることが多いので、
ある意味混乱を招くあまり意味のない発言なのです。
さて、ある医療報道に対する批判に絡んで、
「薬を飲んだ後で交通事故に遭っても、それは有害事象になって報告の義務が生じるのだ。メディアは有害事象と副作用を混同していて、有害事象の報告があるとそれを針小棒大に論じるが、そんな不見識は改めて頂きたい」
という専門家の主張がありました。
僕はこの発言に、
反対はしませんが、
ちょっと違和感は感じました。
薬を飲んだ後の偶発的な交通事故も、
有害事象になるのでしょうか?
そうならないとは言えませんが、
それは臨床試験なり市販後調査なりの、
デザインによるもののように、
僕には思えます。
新薬の試験中の方が、
どんな理由にせよ亡くなったとすれば、
それは重大な事態であり、
報告の義務が生じるのは当然のことです。
しかし、それが全くの偶発事故であれば、
報告者も「因果関係なし」とするでしょうし、
すぐにその項目は除外されることになります。
つまり、因果関係を問わずに有害事象を報告するのは、
そこに隠れている「副作用」を見つけ出すためです。
ウィキペディアにはこんな記載があります。
医薬品との関連性が考えにくい事象(例えば、運転を誤った車が歩道に乗り上げ、たまたま歩道を歩いていた患者(医薬品の服用者)が受傷したような場合)であっても、『医薬品を服用中の人物に発生した好ましくない事象』である限り「有害事象」とされる。これは、一見偶発的と思われるような未知の副作用を漏れなく拾い上げるために重要な考え方であり、症例数が蓄積されることにより、偶発的と思われた事象の中から未知の副作用を発見することが可能となる。
これを読めば、なるほどな、と思います。
ただ、交通事故を例に取るのがちょっと誤解を招きます。
全くの偶発事故なら、
それは有害事象とは言えないのです。
問題になるのは、
たとえば薬でふらつきが起こる可能性があり、
そのふらつきが事故に繋がったことが、
100%否定出来ないような場合です。
全くの偶発事故と判断されれば、
それは最初は確かに集計の時点では、
有害事象としてカウントはされるでしょうが、
それをまとめた段階では、
「因果関係なし」ですぐに除外されている筈です。
本来問題にすべき点は、
「有害事象が正しく整理され、真の副作用の発見に繋がっているか、そのプロセスに誤りはないのか」ということの筈です。
しかし、実際にはその点はあまり問題にはされません。
上の交通事故云々の発言で言えば、
問題は有害事象と副作用の区別が曖昧なことではなく、
副作用という用語が、
極めて曖昧で不正確で、
その状況によって、
ある時にはAdverse Reaction の意味で使われ、
またある時にはSide Effects の意味で使われる、
といういい加減さにあるのです。
一部の姑息な「痴恵」のある人は、
そのあやふやさを逆に利用して、
自分の都合の良い意見を、
正当化する目的に使っているのです。
ですから、もちろんメディアにも責任はあるでしょうが、
いい加減なのはメディアばかりではないと僕は思います。
明日はインフルエンザの副反応に関連して、
よりこの問題を深く考えます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日の内容は、
まだリサーチの途中なので、
そのつもりでお読み下さい。
現状で正しいと僕の思うことを書いていますが、
また情報が入れば、
修正される可能性があるからです。
有害事象(Adverse Events )という言葉があります。
有害事象とは、
「治療や処置に際して見られるあらゆる好ましくない徴候、症状、疾患(臨床検査値の異常を含む)であり、治療や処置との因果関係は問わない」
と定義されます。
これは結構広い範囲の事象について語られる言葉ですが、
僕が今日取り上げたいのは、
主に「薬の有害事象」、という話です。
「薬の有害事象」とは、
ある薬を使用した時に、
その使用した患者さんに、
好ましくない現象の起こることです。
この場合、「薬との因果関係を問わない」
というのが大きなポイントです。
つまり薬と結果的には無関係であっても、
薬を飲んだ後でその患者さんの具合が悪くなれば、
それは薬の有害事象と判断される場合があります。
よろしいでしょうか?
次によく似た言葉で、
副作用という言葉があります。
「薬の副作用」というのは、
一般の用語としてもよく使われますし、
薬事法などにおける法律用語でもあります。
一般に「薬の副作用」と言えば、
ある薬を使用した患者さんに、
その薬による有害な作用が生じたこと、
というニュアンスで使われます。
薬事法で書かれているニュアンスも同じです。
つまり、この場合の「薬の副作用」というのは、
「薬の有害事象」のうち、
薬との因果関係が明らかなものやその可能性のあるもの、
ということになります。
従って、「薬の有害事象」を分析した上で、
薬と無関係と判断されるものを取り除いたものが、
「薬の副作用」ということになります。
つまり、この時点で「薬の副作用」は、
「薬の有害事象」の一部なのですから、
あくまで患者さんにとって有害な作用のみのことです。
ところで…
「副作用というのは、薬の想定された作用以外の全ての作用のことなのだから、悪いものばかりじゃないんだ。副作用を期待して薬を使うこともあるんだぜ」
というような意見を、
訳知り顔に述べる人がいます。
この意見を言う人の頭の中には、
薬の想定された作用以外のものは、
良いものも悪いものも全て「副作用」と呼ぶ、
という考え方があります。
それは正しいのでしょうか?
それとも誤っているのでしょうか?
どうも問題は用語の混乱にあるようです。
副作用の英訳は何でしょうか?
ウィキペディアではAdverse Reaction が対応しています。
この用語を普通に訳せば「有害反応」です。
その一方でSide Effects という言葉があり、
これはそのまま訳せば文字通り「副作用」です。
英語では薬の有害事象のうち、
薬との関連性があるものをAdverse Reaction と呼び、
薬の主作用以外の副次的な作用は、
良いものも悪いものもひっくるめて、
Side Effects と呼んでいるのです。
ところが、日本語では厳密にその区別が付けられておらず、
ある時はAdverse Reaction のことを「副作用」と呼び、
またある時はSide Effects のことを「副作用」と呼んでいるのです。
ここに解釈の大きな混乱があると、
僕は思います。
更には「副反応」という言葉もあります。
ワクチンの有害事象があれこれと話題になった時に、
「ワクチンの副作用なんて言い方は不正確なのよ。薬と違ってワクチンに主作用はないんだから、副反応と言うのが正しい言い方なの」
とこれも訳知り顔に言う人がいました。
その時はなるほどね、と思ったのですが、
英語の文献を読んでも、
薬の副作用もワクチンの副作用も、
いずれもAdverse Reaction と書かれていて、
特に違いはありません。
要するに「副反応」というのは、
Adverse Reaction のもう1つの訳語なのだと、
合点が行きました。
上の発言をされた方は、
Adverse Reaction とSide Effects の違いを、
そのように説明していたのですが、
日本語ではその2つの用語は、
共に「副作用」と訳されることが多いので、
ある意味混乱を招くあまり意味のない発言なのです。
さて、ある医療報道に対する批判に絡んで、
「薬を飲んだ後で交通事故に遭っても、それは有害事象になって報告の義務が生じるのだ。メディアは有害事象と副作用を混同していて、有害事象の報告があるとそれを針小棒大に論じるが、そんな不見識は改めて頂きたい」
という専門家の主張がありました。
僕はこの発言に、
反対はしませんが、
ちょっと違和感は感じました。
薬を飲んだ後の偶発的な交通事故も、
有害事象になるのでしょうか?
そうならないとは言えませんが、
それは臨床試験なり市販後調査なりの、
デザインによるもののように、
僕には思えます。
新薬の試験中の方が、
どんな理由にせよ亡くなったとすれば、
それは重大な事態であり、
報告の義務が生じるのは当然のことです。
しかし、それが全くの偶発事故であれば、
報告者も「因果関係なし」とするでしょうし、
すぐにその項目は除外されることになります。
つまり、因果関係を問わずに有害事象を報告するのは、
そこに隠れている「副作用」を見つけ出すためです。
ウィキペディアにはこんな記載があります。
医薬品との関連性が考えにくい事象(例えば、運転を誤った車が歩道に乗り上げ、たまたま歩道を歩いていた患者(医薬品の服用者)が受傷したような場合)であっても、『医薬品を服用中の人物に発生した好ましくない事象』である限り「有害事象」とされる。これは、一見偶発的と思われるような未知の副作用を漏れなく拾い上げるために重要な考え方であり、症例数が蓄積されることにより、偶発的と思われた事象の中から未知の副作用を発見することが可能となる。
これを読めば、なるほどな、と思います。
ただ、交通事故を例に取るのがちょっと誤解を招きます。
全くの偶発事故なら、
それは有害事象とは言えないのです。
問題になるのは、
たとえば薬でふらつきが起こる可能性があり、
そのふらつきが事故に繋がったことが、
100%否定出来ないような場合です。
全くの偶発事故と判断されれば、
それは最初は確かに集計の時点では、
有害事象としてカウントはされるでしょうが、
それをまとめた段階では、
「因果関係なし」ですぐに除外されている筈です。
本来問題にすべき点は、
「有害事象が正しく整理され、真の副作用の発見に繋がっているか、そのプロセスに誤りはないのか」ということの筈です。
しかし、実際にはその点はあまり問題にはされません。
上の交通事故云々の発言で言えば、
問題は有害事象と副作用の区別が曖昧なことではなく、
副作用という用語が、
極めて曖昧で不正確で、
その状況によって、
ある時にはAdverse Reaction の意味で使われ、
またある時にはSide Effects の意味で使われる、
といういい加減さにあるのです。
一部の姑息な「痴恵」のある人は、
そのあやふやさを逆に利用して、
自分の都合の良い意見を、
正当化する目的に使っているのです。
ですから、もちろんメディアにも責任はあるでしょうが、
いい加減なのはメディアばかりではないと僕は思います。
明日はインフルエンザの副反応に関連して、
よりこの問題を深く考えます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2010-11-24 08:10
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コメント(7)
トラックバック(0)
(社)日本薬学会の有害事象(adverse event)の定義では
薬物との因果関係がはっきりしないものを含め、
薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない
あるいは意図しない『徴候,症状,または病気』
とありました。
その他のサイトの定義でも、
結果を医療上の出来事に限定するものが多く、
やはり、ウィキペディアの交通事故の事例は、
拡大解釈のきらいがある、という印象を受けました。
ただ、真の副作用の発見に繋がるかどうかの判別は、
非常に困難である事も事実だと思います。
なので、統計学的に、幅広い分母から、
一般人より有意に、その徴候、症状、病気に陥る可能性を
探るのは、意義のある事だとも思います。
Adverse Reaction と Side Effects の使い分けの
ファジーさに異論は有りませんが、
adverse event については、統計学的なもので
別次元の言葉の様な気がします。
by acco (2010-11-24 14:57)
度々済みません・・・。
(社)日本薬学会さんのHPによると、
「薬物との因果関係がはっきりしないものを含めて有害事象、
因果関係があるものを有害反応という」
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E6%9C%89%E5%AE%B3%E4%BA%8B%E8%B1%A1
そうです。
そして、
「一般には副作用と有害反応は同じ意味として扱われている」
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%e5%89%af%e4%bd%9c%e7%94%a8
との事です。
言葉の解釈って難しいですね☆
by acco (2010-11-24 17:34)
acco さんへ
色々と調べて頂きありがとうございます。
有害反応というのは学術用語としてはあっても、
その印象が悪いので、
副作用や副反応と、
翻訳されるのかも知れません。
by fujiki (2010-11-24 18:54)
海外では Adverse Reaction と Side Effects が
同義語として扱われており、
日本では、それらについて
ワクチン投与については『副反応』
それ以外のものについては『副作用』
と使い分けているのではないでしょうか?
敢えて厳密に分けるとすれば、ですが・・・
http://wkp.fresheye.com/wikipedia/%E5%89%AF%E5%8F%8D%E5%BF%9C
by acco (2010-11-24 20:38)
石原先生、こんにちは。
あの、、、副作用かどうかわからないですが、レキソタンを服用していて体重が増えるということはありますか?
他に思い当たる理由がないのに、服用始めて約1ヵ月で3キロ増えてしまいました。。。
by Y.T (2010-11-25 12:00)
Y.T さんへ
レキソタンは必ず体重が増える、
という薬ではありませんが、
安定剤はある程度食欲を増し、
交感神経を抑えて代謝を抑制するので、
油断すれば体重が増え易くなる、
ということはあると思います。
食事を意識的に減らしたり、
運動量を増やしたりするような工夫は、
増加傾向があるようなら、
必要かも知れません。
by fujiki (2010-11-25 19:49)
お返事ありがとうございます。
食事はいつもより減らしていたくらいなんですが、もう少し気を付けてみますね。
by Y.T (2010-11-26 13:24)