糖尿病性ケトアシドーシスを考える [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
妻は昨日退院しました。
それでは今日の話題です。
今日は糖尿病ケトアシドーシスの話です。
糖尿病の合併症のうち、
緊急性の高いものの1つが、
糖尿病性ケトアシドーシスです。
これはインスリンの高度の欠乏により、
身体にケトン体という酸性物質が蓄積され、
血液が高度に酸性になる病態です。
そのままであれば脳の機能低下から昏睡となり、
呼吸も停止し死に至ります。
以前病院で糖尿病専門外来をしていた時には、
この病気で救急受診された患者さんを、
診る機会も多かったのですが、
診療所ではそうした患者さんを、
(勿論そうでないといけないのですが)
あまり診る機会はありません。
ただ、ケトアシドーシスの予備群や、
なりかかった状態の患者さんは、
実際には診療所を受診されることが結構ある筈で、
軽度の徴候を見逃さずに、
高次の医療機関に適切なタイミングで紹介し、
患者さんの状態を悪くしない義務が、
僕のような診療所にはあるのだと思います。
それが出来ないのであれば、
「診療所などまとめて潰してしまえ」
というお上の方針に、
逆らうことも出来ないのです。
通常糖尿病性ケトアシドーシスは、
極度のインスリンの欠乏状態にある患者さんが、
感染などのストレスに曝された時に起こります。
糖尿病は1型と2型とに大きく分かれ、
1型はお子さんの時期から、
インスリンの注射が必要になります。
つまりインスリンに依存している状態にある訳です。
それに対して2型は徐々に膵臓の働きが低下し、
インスリンの注射はすぐには必要にはなりません。
この分類には例外も多く、
現在ではやや問題もありますが、
それでも未だに使用されています。
欧米の教科書の記載では、
糖尿病性ケトアシドーシスは、
その殆どが1型糖尿病に起こるとされています。
これはこの現象には高度のインスリン不足が必須であり、
2型ではそうしたことは通常は起こらない、
というのが原則だからです。
ただ、日本ではその状況は少し違います。
ある病院での27例の糖尿病性ケトアシドーシスの統計では、
病型は1型が14例、2型が13例と殆ど差は無く、
特に比較的高齢の2型糖尿病の患者さんで、
低栄養状態がその特徴と報告されています。
また、若年層では清涼飲料水ケトーシス、
という特殊な病態のあることが知られています。
これはペットボトル症候群とも呼ばれ、
清涼飲料水などを大量に飲むことにより、
血糖が急激に上昇し、
糖毒性によりインスリンの分泌が阻害され、
そのために急激なインスリンの欠乏状態になって、
ケトン体が上昇し、
ケトアシドーシスになるものです。
この清涼飲料水ケトーシスは、
欧米では殆ど報告がなく、
その理由は日本人は欧米人に比して、
膵臓の予備力が少なく、
2型糖尿病の患者さんであっても、
インスリンの欠乏状態になり易いのでは、
と推測されていますが、
立証されたものではないようです。
また、日本では高齢の2型糖尿病患者さんでも、
しばしばケトアシドーシスの事例が報告されていて、
これもあまり欧米では報告のないものです。
先にも書いたように、
低栄養状態の方が多く、
またインスリンを含む治療の中断から、
発症した事例も多いのが特徴です。
つまり、インスリンの不足した状態で食事を摂らないと、
それだけ肝臓はケトン体を多く作るので、
ケトアシドーシスになり易いのです。
抗精神病薬であるセロクエルやジプレキサ(いずれも商品名)は、
糖尿病性ケトアシドーシスの死亡事例を出して、
一時期非常な問題になりましたが、
このケースでは食欲の亢進と、
薬自体の脂肪蓄積作用から、
患者さんは過食により清涼飲料水ケトーシスのような状態となり、
発症したものと思われます。
この副作用も矢張り、
日本でのみ多く報告されていて、
日本人は体質的に、
ケトーシスを生じ易い、
という可能性がこのことでも裏書されます。
糖尿病性ケトアシドーシスの、
初期症状は悪心、嘔吐です。
血糖値は前述の病院のデータでは、
299~1949mg/dl とかなりの幅があります。
欧米の教科書には200以上と書かれていて、
つまり250程度の血糖でも、
ケトアシドーシスの存在を、
絶対的に否定は出来ないのです。
従って、糖尿病の患者さんで、
身体のだるさが強く、
悪心、嘔吐を繰り返す時は、
この病気の疑いを持つ必要があります。
たとえばアルコールの関与があれば、
アシドーシスでも血糖は上がらない可能性があり、
果糖を大量に摂取したような状態でも、
血液が酸性である割に、
血糖は上昇していないことがあります。
従って、血糖値がそれほどではないからと言って、
糖尿病性ケトアシドーシスは否定出来ないのです。
糖尿病性ケトアシドーシスの治療は、
何よりまずはインスリンの補充です。
脱水のため生理食塩水かそれに類する点滴を行ないながら、
側管から1時間5~10単位程度のインスリンを注入。
血糖をゆっくりと下げて行きます。
僕が以前病院でやっていたのは、
通常20ml の注射器に40単位のインスリンを混ぜ、
1ml 当たり2単位に調節して、
シリンジポンプで注入するという方法です。
急速に血糖が下がると、
カリウムの低下や脳の浮腫みが生じることがあるので、
定期的に採血しながらの、
慎重な治療が必要なのです。
今日は糖尿病性ケトアシドーシスの総説でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
妻は昨日退院しました。
それでは今日の話題です。
今日は糖尿病ケトアシドーシスの話です。
糖尿病の合併症のうち、
緊急性の高いものの1つが、
糖尿病性ケトアシドーシスです。
これはインスリンの高度の欠乏により、
身体にケトン体という酸性物質が蓄積され、
血液が高度に酸性になる病態です。
そのままであれば脳の機能低下から昏睡となり、
呼吸も停止し死に至ります。
以前病院で糖尿病専門外来をしていた時には、
この病気で救急受診された患者さんを、
診る機会も多かったのですが、
診療所ではそうした患者さんを、
(勿論そうでないといけないのですが)
あまり診る機会はありません。
ただ、ケトアシドーシスの予備群や、
なりかかった状態の患者さんは、
実際には診療所を受診されることが結構ある筈で、
軽度の徴候を見逃さずに、
高次の医療機関に適切なタイミングで紹介し、
患者さんの状態を悪くしない義務が、
僕のような診療所にはあるのだと思います。
それが出来ないのであれば、
「診療所などまとめて潰してしまえ」
というお上の方針に、
逆らうことも出来ないのです。
通常糖尿病性ケトアシドーシスは、
極度のインスリンの欠乏状態にある患者さんが、
感染などのストレスに曝された時に起こります。
糖尿病は1型と2型とに大きく分かれ、
1型はお子さんの時期から、
インスリンの注射が必要になります。
つまりインスリンに依存している状態にある訳です。
それに対して2型は徐々に膵臓の働きが低下し、
インスリンの注射はすぐには必要にはなりません。
この分類には例外も多く、
現在ではやや問題もありますが、
それでも未だに使用されています。
欧米の教科書の記載では、
糖尿病性ケトアシドーシスは、
その殆どが1型糖尿病に起こるとされています。
これはこの現象には高度のインスリン不足が必須であり、
2型ではそうしたことは通常は起こらない、
というのが原則だからです。
ただ、日本ではその状況は少し違います。
ある病院での27例の糖尿病性ケトアシドーシスの統計では、
病型は1型が14例、2型が13例と殆ど差は無く、
特に比較的高齢の2型糖尿病の患者さんで、
低栄養状態がその特徴と報告されています。
また、若年層では清涼飲料水ケトーシス、
という特殊な病態のあることが知られています。
これはペットボトル症候群とも呼ばれ、
清涼飲料水などを大量に飲むことにより、
血糖が急激に上昇し、
糖毒性によりインスリンの分泌が阻害され、
そのために急激なインスリンの欠乏状態になって、
ケトン体が上昇し、
ケトアシドーシスになるものです。
この清涼飲料水ケトーシスは、
欧米では殆ど報告がなく、
その理由は日本人は欧米人に比して、
膵臓の予備力が少なく、
2型糖尿病の患者さんであっても、
インスリンの欠乏状態になり易いのでは、
と推測されていますが、
立証されたものではないようです。
また、日本では高齢の2型糖尿病患者さんでも、
しばしばケトアシドーシスの事例が報告されていて、
これもあまり欧米では報告のないものです。
先にも書いたように、
低栄養状態の方が多く、
またインスリンを含む治療の中断から、
発症した事例も多いのが特徴です。
つまり、インスリンの不足した状態で食事を摂らないと、
それだけ肝臓はケトン体を多く作るので、
ケトアシドーシスになり易いのです。
抗精神病薬であるセロクエルやジプレキサ(いずれも商品名)は、
糖尿病性ケトアシドーシスの死亡事例を出して、
一時期非常な問題になりましたが、
このケースでは食欲の亢進と、
薬自体の脂肪蓄積作用から、
患者さんは過食により清涼飲料水ケトーシスのような状態となり、
発症したものと思われます。
この副作用も矢張り、
日本でのみ多く報告されていて、
日本人は体質的に、
ケトーシスを生じ易い、
という可能性がこのことでも裏書されます。
糖尿病性ケトアシドーシスの、
初期症状は悪心、嘔吐です。
血糖値は前述の病院のデータでは、
299~1949mg/dl とかなりの幅があります。
欧米の教科書には200以上と書かれていて、
つまり250程度の血糖でも、
ケトアシドーシスの存在を、
絶対的に否定は出来ないのです。
従って、糖尿病の患者さんで、
身体のだるさが強く、
悪心、嘔吐を繰り返す時は、
この病気の疑いを持つ必要があります。
たとえばアルコールの関与があれば、
アシドーシスでも血糖は上がらない可能性があり、
果糖を大量に摂取したような状態でも、
血液が酸性である割に、
血糖は上昇していないことがあります。
従って、血糖値がそれほどではないからと言って、
糖尿病性ケトアシドーシスは否定出来ないのです。
糖尿病性ケトアシドーシスの治療は、
何よりまずはインスリンの補充です。
脱水のため生理食塩水かそれに類する点滴を行ないながら、
側管から1時間5~10単位程度のインスリンを注入。
血糖をゆっくりと下げて行きます。
僕が以前病院でやっていたのは、
通常20ml の注射器に40単位のインスリンを混ぜ、
1ml 当たり2単位に調節して、
シリンジポンプで注入するという方法です。
急速に血糖が下がると、
カリウムの低下や脳の浮腫みが生じることがあるので、
定期的に採血しながらの、
慎重な治療が必要なのです。
今日は糖尿病性ケトアシドーシスの総説でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2010-10-20 08:13
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コメント(2)
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清涼飲料水ケトーシス、ジプレキサ、セロクエルでのケトアシドーシスがやっと良くわかりました。
質問がありますが、アルコールの関与では血糖が上がらないのは何故なのでしょうか?
by hiiragiyama (2010-10-20 22:27)
hiiragiyama さんへ
コメントありがとうございます。
これはアルコールの代謝のため、
肝臓で糖新生が抑制されるので、
肝臓から血液に入るブドウ糖が、
減少するためです。
by fujiki (2010-10-21 06:16)