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百日咳抗体価測定の補足 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

今日の夜はデセイ様の「夢遊病の女」が、
NHKで放映されるので、
それだけが楽しみ。
この間、メトロポリタンのは聴いたけれど、
今ひとつの出来で演出もへっぽこだったので、
今回はホームグラウンドのパリオペラ座だし、
もう少し出来が良いといいな。

数年前ほどじゃないけれど、
デセイ様の名前を聞くだけで胸騒ぎがするし、
フランスと聞くだけでもワクワクする。
パリオペラ座なんて聞いたら、
気が動転して何処かに走り出したくなる。

衰えたりと言えども、
彼女は僕にとっては最高の藝術家なので、
引退まで1つでも多くの優れた舞台に立って欲しい。

もし僕が独裁者だったら、
彼女に専用の劇場とオケを用意して、
最高の舞台を金にあかせて、
大衆には重税を強いて上演しちゃう。
官僚の言うことなんか聞かないで、
赤字国債なんてバンバン発行しちゃう。
それで革命が起こって、
「この野郎、オペラ歌手なんかに入れ込んで、
この国を目茶目茶にしやがって。
俺達民衆の恨みを知れ」
とかと言われて、
彼女にも愛想を付かされ、
惨めな生涯を終えても僕は満足。

だから、僕を独裁者にしたりしたら、駄目だよ。

まあ、誰もそうはしないので、
安心なのです。

冗談はさておいて今日の話題です。

今日は大人の百日咳の、
補足的な話です。

大人の軽症百日咳の話は、
これまでにも何度か取り上げました。

大流行しているのだ、という先生もいれば、
いやいやあれは大半がインチキだ、
と言われるような先生もいます。

ただ、インチキだと言われる先生は現状をご存知ないので、
集団感染の事例は複数報告されていて、
その事例では遺伝子診断も行なわれているのですから、
感染事例が増えていることは事実で、
大半がインチキ、などというのは、
自分の無知を大声で怒鳴っているようなものなのです。

また、百日咳というのは、
それこそ息が出来なくなるくらいの咳が、
長期間持続するものなので、
今流行っているような、
夜の咳き込みが続く程度の風邪は、
百日咳ではある筈がないのだ、
と言われる先生もいますが、
これも実際には誤りで、
大学での集団感染の遺伝診断の報告でも、
現実に軽い咳程度の方で、
百日咳の遺伝子診断が陽性の方が、
数多く報告されています。

しかし、一般臨床のレベルで、
百日咳の診断が難しいことは事実です。

インフルエンザと同様、
遺伝子診断は一般の医療機関では実際には施行は出来ず、
行政の検査機関に事実上独占され、
研究目的か集団感染の事例以外には、
施行されることはありません。

また、日本で汎用されている診断法である、
凝集素価の測定は、
紛らわしい診断基準が複数あるため、
そのどれを採用するかで、
診断がその診断医によってバラバラになる、
という事態が生じています。

この凝集素価の測定を、
麻疹の抗体価のようなものと、
混同されている意見も、
良く聞かれます。
つまり、この凝集素価の測定を、
この病気の初期と回復期で2回行ない、
4倍以上の上昇がなければ、
それは百日咳ではない、
というような考え方です。
しかし、僕は数百例は凝集素価の測定を行ないましたが、
この数値は麻疹の抗体価のように、
クリアに上昇を掴まえるのは極めて困難で、
咳がある程度持続している時期に、
凝集素価の高度の上昇が認められれば、
それは百日咳の可能性が極めて高い、
というように臨床的には考えるのが、
適切だと思います。

よく抗体価という説明がされているのは、
殆どがこの凝集素価の測定のことです。
以前何度か記事にしました、
百日咳抗体価というのも、
全てこの凝集素価のことです。

ところが、この凝集素価の検査は、
実は海外では殆ど行なわれていません。

世界的な百日咳の診断法としては、
抗PT抗体という検査が存在します。

これは百日咳の毒素に対する抗体を測定したもので、
アメリカCDCのガイドラインで、
この抗体価が100EU/ml という数値以上であれば、
1回の検査でも百日咳の急性感染の可能性が高い、
と判断されています。

実はこの抗PT抗体価は現在日本でも測定可能です。
いつの間にか、健康保険の適応にもなっています。
その検査料は凝集素価の測定に比べれば高額で、
1件3000円という診療報酬になっていますが
(凝集素価は800円です)、
実際には僕のような診療所で測定すると、
検査会社からはもう少し余計に検査料を請求されます。
つまり、検査をすれば、診療所は赤字になる訳です。

ただ、検査をされている先生は、
現時点ではあまりいません。
その理由はまだ日本人の感染で、
これ以上なら急性感染と見做せる、というような、
明確な基準がないからでもありますし、
検査をすればするほど、
多くの医療機関では赤字になる、
という酷い診療報酬の設定のせいでもあります。

僕は最近少し測り始めたところですが、
単独の測定ではその評価は難しいため、
通常測る凝集素価も、
同時に測定しています。
これは健康保険では認められないので、
診療所の持ち出しになるのです。

そのデータがある程度まとまったら、
またご報告したいと思います。

今日は大人の百日咳の補足的な話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

スマイル

おはようございます
デセイ様、少し垣間観ますね~横取りはしませんので(笑)
私は5歳くらいに百日咳にかかり毎日注射に通っていました。
体質的にかかりやすいなそのことを懸念する必要はありませんか?
by スマイル (2010-06-26 08:53) 

永遠の通りすがり

今年の7月下旬から8月上旬にかけて、先生の憧れの方が来日しますね。
(えー、名前を打つのも憚られますので「憧れの方」と表現)。

それを考えると、今から何も手に着かなくなってしまうのではないですか?
by 永遠の通りすがり (2010-06-26 11:25) 

yuuri37

先生、笑わないでね。私、オペラ全然だめなの。
初めてのオペラがイタリア語だった。人間って凄いと発声法に興味を持ったけど、イタリア語が理解できない私は、犬が☆を見ているようだった。つぎにテレビで、オペラをやっていたのを見た。MOZARTだった。へぇーMOZARTってオペラをドイツ語でやったんだ。やっぱ、MOZARTはただ者ではないな。と思ったけど、ドイツ語Cの私は、ドイツ語のオペラも犬が☆を見ているようだった。
私が独裁者になったら、マンガ芸術院を創設し、マンガを芸術として高める。音楽は、ロックやラップを奨励し、補助金も・・・
どうすれば、オペラが分かるような高尚な人間になれるんだろう。
お育ちかな・・・トホホ・・・
今日はラッキー^^V オペの予約がキャンセルになったので、これにて営業終了。サラリーマンの特権だよんククク^^
by yuuri37 (2010-06-26 11:27) 

fujiki

スマイルさんへ
コメントありがとうございます。

百日咳は終生免疫とは言い切れないので、
また罹る可能性もありますが、
何度も罹ることで重症化する、
というような病気ではないので、
特にご心配は要らないと思います。

1998年から2002年くらいまでのデセイ様は、
本当に最高です。
生で聴けなかったのが、本当に心残り。
by fujiki (2010-06-26 16:20) 

fujiki

永遠の通りすがりさんへ
仕事があるので、
そうもいかないのです。
by fujiki (2010-06-26 16:23) 

fujiki

yuuri37 さんへ
まだ外来中ですが、今は暇です。
オペラは正直一時ほど入れ込んでいる訳ではありません。
まあ、「たかがオペラ」と言えないこともありません。
でも、電気的に拡声された歌には、
基本的にどんなものでもあまり興味はありません。
by fujiki (2010-06-26 16:32) 

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