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薬剤熱の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は「薬剤熱」の話です。

薬剤熱(drug fever )とは何でしょうか?

まず事例をお示しします。

患者さんはBさん。50代の女性です。

ぎっくり腰になり、
それからロキソニンという痛み止めと、
ミオナールという筋肉の緊張を取る薬を飲むようになりました。

1週間ほどもすると、
腰の痛みは和らいでは来ましたが、
まだ痛み止めを止めるのは不安な気がします。
担当医にそう話すと、
「それじゃ、もう少し出しておきますね。
でも、痛み止めは胃を悪くすることがあるので、
胃の調子には気を付けて下さい」
とアドバイスがされます。

異変が起こったのは、
それから数日してからのことでした。

ある日Bさんは朝から熱っぽいのに気付き、
熱を測ると37度ありました。
微熱かな、風邪を引いたのかな、という感じです。
案の定その夜になると熱は38.5度まで上昇します。
これはもう、間違いなく風邪だと思います。
その日は様子を見ましたが、
その翌日も2日目も、
同じように朝は微熱で夜には38度を越える熱になります。

痛み止めを出してもらった医者に行くと、
「風邪ですね。咽喉もちょっと腫れていますよ」
と言われ、風邪薬が処方されます。
「ロキソニンを飲んでいるので、
少し熱は下がっている筈です。
本当なら、もっと高い熱なのかも知れませんね」
とも言われました。

風邪薬を飲むと、
体調は幾らか良くなったような気がします。

しかし、熱は一向に下がりません。

例によって同じように、
朝は37度台で夜になると決まって38度を超えます。

これは一体何の熱なのでしょうか?

本当にこれは風邪なのでしょうか?

咽喉も痛くはならず、
咳も出ないのに、
身体がだるくなって熱だけが上がるのです。

更に数日が過ぎても熱は下がらず、
2週間が経ちました。

不安になり担当医を受診すると、
それはおかしい、と総合病院を紹介されます。
ところが、病院で胸のレントゲンを撮っても異常はなく、
血液の検査をしても、
炎症反応が少し上がっているだけです。
膠原病や癌の検査をしても、
特別な異常は見付かりません。

不思議なことは、これだけの熱が続いているのに、
Bさん自身には、それほどの重症感はないのです。
熱がそれほど上がっていない時には、
特に身体が不調だ、という感じもありません。

一体、Bさんの熱の原因は何なのでしょうか?

まあ、最初に答えは出してあるので、
勿体ぶるほどのことはありませんが、
これが薬剤熱です。

つまり、薬を飲み続けることによって起こる症状の1つです。
薬の副作用の一種ですね。

原因の薬剤はロキソニン(ロキソプロフェン)です。
熱を下げる筈の解熱鎮痛剤が、
熱の原因になるのですから奇妙な話ですが、
これは僕の経験した実例です。

その証拠に、Bさんの熱は、
ロキソニンを中止して3日後には解熱し、
その後は再発はありません。

それでは、何故ロキソニンで熱が出るのでしょうか?

これはアレルギー反応の一種だと考えられています。

身体に入った薬剤が、
身体の蛋白質とくっついて、
「抗原」となり、
それが免疫反応を起こして、
その免疫複合体が白血球から発熱物質を遊離するか、
リンパ球からサイトカインが放出され、
それが原因となって発熱するか、
その2つの機序が考えられています。

ただ、教科書に書かれているこの説明は、
若干説得力に乏しい気がします。

この説明では、
アレルギー反応は全て
(厳密にはⅢ型とⅣ型のアレルギー反応は全て)
熱を出す、ということになります。
しかし、実際には多くのアレルギー反応は熱を出しません。
少なくとも、上の事例のような高熱は出しません。
もしアレルギーが須く高熱になるなら、
感染症とアレルギーとの区別は、
非常に困難なものになってしまいます。
また、この説明では、
全ての薬が熱を出しそうですが、
勿論実際にはそんなことはありません。

つまり、どのようなアレルギー反応が高熱の原因になるのかも、
どのような薬剤が高熱の原因になるのかも、
上の説明では説明にはなっていないのです。

その原因については、
現時点では不明のままのようです。

ただ、今までの報告の蓄積より、
薬剤熱を起こし易い薬、というのは存在します。

ちょっと古い文献ですが、
1987年の報告によると、
抗生物質のペニシリンやメチシリン、
INHという結核の薬、胃薬のシメチジン、
解熱鎮痛剤のイブプロフェンやアスピリン、
不整脈の薬であるキニジンやプロカインアミドは、
薬剤熱を起こし易い薬とされています。
上の事例はロキソニンですが、
ロキソニンの名誉のために付け加えると、
他の消炎鎮痛剤より格段に薬剤熱の報告が多い、
という訳ではありません。
また、最近では抗アレルギー剤による事例も、
報告が増えています。

薬剤熱の特徴は、
その薬剤を使用してからすぐではなく、
1週間から10日くらいしてから、熱の出る事例が多い、ということです。
その熱は上の事例のように夜に上がるのが特徴で、
時に40度になることもありますが、
それでいて、本人には重症感があまりありません。
また熱の割に脈拍が上昇しないのも特徴とされています。
検査ではアレルギーで上昇するリンパ球である、
好酸球が増えていることが多く、
炎症反応は軽度の上昇に留まることが殆どです。

診断はこの病気を疑うことしかなく、
原因の薬剤を止めれば、
3日以内には速やかに熱は下がります。
(しかし、再度その薬を使用すると、
今度はすぐに熱が上がるのです)

薬剤熱の定義はやや混乱していて、
たとえば、抗精神病薬による発熱が、
その事例として紹介されていることがありますが、
これは通常「悪性症候群」と呼ばれ、
全身症状が強く、中枢性の発熱で、
筋肉の緊張を伴うなど、
薬剤熱とは別物と捉えるべき現象です。

また、デカドロンというステロイド剤が、
薬剤熱の原因とされている文章がありましたが、
これはおそらく薬の切れた時間に生じる、
副腎不全による発熱で、
薬剤熱とは無関係だと僕は思います。

また、インターフェロンやヨード造影剤、
プロスタグランジンやカルシトニンによる発熱を、
薬剤熱に加えている教科書もありますが、
こうした薬剤による発熱は、
それぞれに別個の機序で起こっていることが、
既に明らかになっており、
その起こり方もそれぞれに特徴があるので、
僕は原因不明のアレルギー反応による発熱と、
同一に扱うべきではないと思います。

ただ、これは薬剤熱をかなり狭く捉えた考え方で、
僕はこれが正しい見方だと思いますが、
異論もあることは承知しています。

それでは今日のまとめです。

薬剤を1週間以上使用することにより、
特殊なアレルギー反応から、
薬剤熱という特殊な発熱を来たすことがあります。
特に痛み止めや解熱剤、抗生物質や抗アレルギー剤を、
長く使用してから熱が出た場合は、
この病気を疑う必要があります。
診断は薬を止めて様子を見ることで、
薬剤が原因であれば、
熱は速やかに下がります。

皆さんもご注意下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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iyashi

悪性症候群の治療にはダントリウムが使用されると思うのですが、ミオナールとはタイプが違えど筋緊張緩和剤と認識しています。
なぜ悪性症候群の治療にダントリウムなのかその作用機序を教えて頂けたら嬉しく思います。
by iyashi (2010-04-20 19:18) 

ばん

大変勉強になりました。
by ばん (2010-04-20 22:23) 

みぃ

こんばんは。
私が五十肩の痛みが激痛だった頃、ロキソニンやボルタレンを頂きましたが、胃痛だけがひどくなり、あまり効果が有りませんでした。
リンラキサーとロルカムを下さるお医者様になってからは、かなり痛みが治まり、2週間位で、飲まなくても済むようになりました。
同じ痛み止めでも、人によって作用がそれぞれ違う物なのですね。
それにしてもロキソニンで、熱が出る・・・驚きました。 ちょっと、頭の片隅にでも置いて置こうと思います。
by みぃ (2010-04-20 23:56) 

fujiki

iyashi さんへ
ミオナールは中枢性の筋弛緩剤で、
ダントリウムは筋小胞体に作用する、
末梢性の筋弛緩剤です。

悪性症候群の原因として、
筋小胞体からのカルシウムの異常な遊離が、
考えられているため、
ダントリウムを使用する、
ということのようです。
by fujiki (2010-04-21 06:23) 

fujiki

ばんさんへ
ご訪問&niceありがとうございます。
by fujiki (2010-04-21 06:24) 

fujiki

みぃさんへ
コメントありがとうございます。

ロキソニンに限った話ではありませんが、
解熱鎮痛剤の連用で、
稀にこうしたケースがあるようです。
by fujiki (2010-04-21 06:26) 

あらべすく

連用じゃなくて、単発で使っても熱出るように思う。特に、ロキソニンテープの類い。正確に言うと、使用前から発熱してた場合、熱が上がる。大したことなかったのに、重篤感が出てしまう。ボルタレンテープも同じ。  
by あらべすく (2015-08-21 22:37) 

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