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新しい不眠症治療薬、メラトニン受容体アゴニストの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は新しいメカニズムを持つ、
不眠症の新薬の話です。

その名前はラメルテオン(ramelteon )。
武田製薬の開発品で、
商品名はロゼラムです。
アメリカでは既に発売されており、
今月日本での製造販売承認が下りて、
数ヶ月の間には発売の運びとなる見通しです。

この薬はメラトニンの1型というタイプの受容体を、
選択的に刺激するという効果の薬剤です。
(一部2型の受容体も刺激します)

メラトニンの1型受容体とはどういうもので、
それを刺激するとどのような効果があるのでしょうか?

メラトニンは脳の松果体という部分で作られる、
一種の神経ホルモンで、
1958年に発見されました。

メラトニンはトリプトファンというアミノ酸から、
皆さんお馴染みのセロトニンを介して、
脳神経で合成されます。
つまりメラトニンはセロトニンの仲間のような物質です。

メラトニンの分泌は、
昼には少なく、夜には多い、という特徴があり、
これは脳にある「視交叉上核」という、
体内時計の役割を果たす部分の、
調節を受けているためだ、
と説明されています。

不思議なことに、
夜行性の動物であっても、
このメラトニンは夜に多く分泌されます。

メラトニンは松果体で分泌されると、
その多くは「視交叉上核」にある受容体にくっついて、
その作用を現わします。

つまりメラトニンは体内時計からの指令で分泌され、
その体内時計を調節する働きを持ちます。

メラトニンの受容体には、
例によって幾つかの種類があり、
そのうちの1型の受容体は、
体内時計の働きを抑え、
そのことによって睡眠を誘導します。
そして、2型の受容体は、
体内時計を進めたり遅らせたりする働きがある、
と考えられています。
つまりメラトニンは体内時計をリセットして時報に合わせたり、
モーニングアラームならぬ、
睡眠信号を発して睡眠を誘導する働きがあるのです。

それ以外にメラトニンには3型の受容体があり、
これは全身に分布していて、
その刺激により運動の調節がし難くなったり、
記憶や学習の障害が起こったりする、
と考えられています。

本来は体内時計の調節作用が得られれば、
それが理想的な睡眠剤であるに違いはありません。
薬を調節するだけで、
どの時間からどの時間まで眠り、
どの時間に目覚めるのかが、
時計をプログラムするように、
簡単に出来てしまうのです。

しかし、現実にはそんなにうまい話はなかなかなく、
現時点でメラトニンの効果は、
主に睡眠の誘導に限られたものです。

メラトニンそのものは、
これまでもサプリメント的に使用され、
国内での販売はありませんが、
輸入品を不眠の治療に使う例もありました。

そのメラトニンの効果については、
諸説あり、少量の使用ではあまり効果はなく、
大量に使用すると運動障害が出現するなどの、
使い難い面がありました。

そこで今回の新薬は、
メラトニンの良くない作用の主な原因である、
3型の受容体への刺激作用を取り去り、
主に1型の受容体のみを刺激する、
という点にその特徴があります。

その効果は現時点での資料によると、
早期の自然な眠りを誘発し、
その半分が身体から消失する時間が1時間半と、
速やかに体内から消失し、
目覚めのだるさが残るようなことはありません。

ただ、その効果は比較的マイルドなものなので、
重症の不眠症の方に、
単独で効果があるかどうかは、
疑問の面もあります。

現在使われている睡眠剤は、
そのほぼ全てがベンゾジアゼピン系という、
GABAという鎮静を誘導する物質を介して、
睡眠を誘導するメカニズムの薬剤です。
(ハルシオンもマイスリーもサイレースも、
全てその仲間です)
それ以前の睡眠剤と比較すれば、
ベンゾジアゼピン系の薬剤は、
遥かに安全な薬ではありますが、
その効果は大同小異で、
依存性を生じることがあり、
また昼間のふらつきや記憶障害などの、
副作用も起こり得る、という欠点がありました。

従って、特に軽症の不眠症の方には、
それ以外の薬剤の使用が望ましいと思われますし、
その発売が待たれていたところだと思います。

今回のロゼラムはその第1番手で、
僕は非常に期待を寄せていますが、
実際に使用されるようになると、
また別個の問題点が出て来るのかも知れません。

今後の経過を見守りつつ、
その発売を待ちたいと思います。

今日は新しいメカニズムの睡眠導入剤の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

まみしゃん

最近まったく熟睡感がないので、魅力的な記事ではありますが・・・

新薬ということはリフレックスの時のような未知の世界に突入する可能性もあるわけですし・・・やはり大なり小なり副作用はあるわけですしね。

この年になれば「6、7時間寝れば十分なのよ」とドクターはおっしゃいますが「寝たぁ~」という気分が味わえれば、どれだけすっきりするだろうと思います!
by まみしゃん (2010-04-19 17:24) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。

単独での使用は、
それほど問題はないのではないか、
と思いますが、
問題は他の睡眠剤との併用だと思います。
by fujiki (2010-04-19 21:18) 

みぃ

こんばんは。
数年前に色々と大変だった頃、あまりにも眠れなくて、メラトニンを購入して飲んで見ました。 殆ど効果が有ったようには感じませんでしたが、安心感が有って、結構若返りも期待して、??飲んで見ました。
お医者様に相談した所、レンドルミンを頂きました。  それを飲むと確かに、良く眠れましたし、目覚めもすっきりでした。
習慣性になっても困るので、よほどひどい時だけ飲む事が有ります。
主人が眠れなかった時に、勝手に飲んだようですが、全く効かなかったようです。
レンドルミンはそんなに強い薬では無いと聞きましたが、安全性的には、石原先生のご見解では、どう思われるでしょうか?

by みぃ (2010-04-20 23:46) 

fujiki

みぃさんへ
コメントありがとうございます。

レンドルミンの安全性に関しては、
他のベンゾジアゼピン系の睡眠剤と、
同等と考えて頂くのが良いと思います。
ただ、スムースに眠れて目覚めが良ければ、
それはお身体に合っている薬と考えて良く、
比較的安全に使えるという判断で良いかと思います。
by fujiki (2010-04-22 08:08) 

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