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血糖値の測定法とその誤差範囲について [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻ります。

それでは今日の話題です。

今日は血液検査とその数値についての話です。

血糖値の測定、という検査がありますね。
これは採血をして、その血液の中のブドウ糖の濃度を、
測定する検査です。
通常の簡単な健康診断でも、
計測することの多い、
極めて一般的な検査です。

おそらく皆さんの中で、
この検査を今まで一度もされていないという方は、
極めて少数ではないか、と思います。

この検査をする目的は、
主に糖尿病の診断のためです。

人間の身体はブドウ糖をエネルギー源として使用しています。
そのために、血液の中に一定の濃度でブドウ糖が含まれている、
ということは、非常に重要なことなのです。
糖尿病の状態では、血液の中のブドウ糖を、
身体の細胞が利用し難い状態になり、
結果として、血液の中に余分なブドウ糖が溜まり、
血液のブドウ糖の濃度が上昇します。
これを「高血糖」と言います。

健診で血糖を測る主な目的は、
この「高血糖」を診断することです。

さて、あなたが健康診断を受け、
その結果を手にすると、
そこにはあなたの血液の中のブドウ糖の濃度が、
数字の形で書かれています。
その数字の単位は通常mg/dl です。
これは100mlの血漿の中に、ブドウ糖が何mg入っていますよ、
という意味合いの数字です。

この数値が、たとえば102mg/dl だったとしましょう。

健康診断の結果には、
その横に「基準値」という数字が記載されています。
その基準値が、たとえば60~109と書いてあったとします。

この数字は、それを見る人によって、
様々な印象をもたらします。

ある人は自分の数値は基準値の中にあるので、
正常だった、と安堵します。
しかし、同じ数字を見て別の人は、
自分の数字の102は、基準値の上限の109と、
7しか離れていない。
これはもう異常値に近いのではないか、
来年また血糖の検査をしたら、
次は基準値を超えてしまうのではないか、
と不安に駆られます。
また、別のある人は診療所でした検査など、
いい加減なのではないかと不信を持ち、
もっと大きな病院を受診して、
同じ血糖の検査をしてもらいます。
その結果が95であれば、
ほら、診療所の検査などいい加減だったのだ、
7も違いがあったのだから、と考えます。

皆さんは果たしてどのように自分の検査値をお感じになるでしょうか?

どのようなお考えを持たれるのも個人の自由です。
ただ、ここで診療の中では細かく説明出来ない部分について、
一応の僕の考えと事実と思えることを、
まとめておくことは決して無駄なことではないという気もします。

まず、血糖値の測定法とその安定性についてです。

血糖とは通常血液の血漿で測定した、
ブドウ糖の濃度のことを示しています。

血液を採ると、その瞬間から、
血液の中にある赤血球の働きによって、
ブドウ糖は分解されてゆきます。
従って、血液をそのままにしておけば、
血液の中のブドウ糖はどんどん分解され、
血糖値は低下して行きます。
この低下の程度は、あるデータによれば、
1時間に7mg/dl とされています。
つまり、血液を採ってから2時間後に測定すれば、
元々は100の血糖も、86になってしまう、ということになります。
これはしかも低温の場合で、
今のように気温が高ければ、
低下のスピードは更に速まります。

通常診療所のような医療機関では、
血液検査を外の検査会社に出していることが殆どです。
その場合、血液を採った採血管が、
検査機関に運ばれて、検査されるまでに、
ある程度の時間が掛かります。
総合病院クラスの病院になれば、
病院内で検査を行なうことになりますが、
その場合でも全ての患者さんで全く同一の条件で、
(たとえば採血してかっきり30分後に検査機に掛ける)
というようなことは不可能なので、
そうして出た検査値は10程度は簡単に変動してしまう、
ということになります。

これではさすがに問題なので、
検査法の改善が行われました。
血液を採る採血管にフッ化ナトリウムという物質を入れます。
これは解糖阻止剤と呼ばれています。
要するに、この薬と血液が混ざると、
ブドウ糖を分解する酵素の働きが抑えられるので、
そのまま時間を置いても、血糖値は低下しないのです。
これで理屈から言えば、血液を採って1日経ってから検査をしても、
ほぼ同一の結果が出るようになったのです。

ただ、問題は解糖阻止剤の効果は、
100パーセントではない、ということです。
血液を採った直後には、どうしてもブドウ糖がある程度分解されます。
これが概ね2時間以内に7程度の低下になる、
と言われています。
つまり、実際の血糖値が100であったとして、
それが2時間後にはおよそ93になっています。
そして、その後はほぼ変わらない状態が、24時間は持続する訳です。

皆さんは血液を採ってから、
すぐに検査をした方がより正確な値が得られる、
と当然のように思われるかも知れません。
ただ、それは必ずしもそうではないのです。
血液を採ってから2時間後までは、
ゆるやかに血糖は低下している訳ですから、
その状態は不安定であるのです。
採血してから2時間以上経った方が、
あなたの数値と他の方の数値とを、
比較する意味では意味合いが大きいのです。

検査値というのは、数字にしてしまえば、
腎機能の値も肝機能の値も、そして血糖値も同じ数字ですが、
その意味合いは個々に違います。
ある数値は10と11では明らかに違うデータですが、
また別の検査の数値では10でも11でも、場合によっては15でも、
全く同じ意味合いしか持たないのです。
それはその検査の精度と安定性と、
正常と異常との分離がどの程度可能かによって、
まるでその意味合いを変えるものなのです。

血糖値に関して言えば、採血の時点で、
ある程度の酵素によるブドウ糖の分解は、
避けられないことです。
従って、5程度の幅での変化は、
止むを得ない範囲だ、と言うことが出来ます。
迅速診断が必要な場合に、
敢えて採血から2時間待つ必要はありませんが、
通常の採血のデータは、
1~2時間待ってからの方が安定して計測が出来ます。

数値の安定性という意味合いで考えると、
たとえばある人が空腹の同じ条件で採血したとしても、
その血糖値は概ね5~6程度は変動します。
この原因は分かりません。
従ってこの意味からも、
5程度の数値の変動は、
「同じもの」と判断して差し支えがない訳です。
また、現在一般に使われている機械の誤差も、
5パーセント程度は存在します。

従って、仮に神様が測った血糖値が100であるとして、
それは機械の誤差としても、
測定後の時間経過としても、
個人の変動の範囲内としても、
前後に5程度は動く可能性はあるのです。

厄介なのは糖尿病の診断基準は、
明確な数字で決められている、ということです。
現行のメタボリックシンドロームの基準では、
100と110の2つのラインが設定されています。
また空腹時の血糖が126以上は糖尿病とする、
という基準も存在します。
しかし、これはあくまで便宜的なものであり、
統計学的な架空の世界でのみ、
その厳密な基準は成立します。

厳密に同じ数値が同じ条件で再現されるのなら、
127の血糖値が一度出れば、
それだけでその人は糖尿病である、
と診断が可能になります。
しかし、現実にはその数値は全く同じ条件でも、
125にもなり得、128にもなり得る訳です。

従って血糖値の数値は、
ある種の幅の中で考えるべきものであって、
102の血糖が107になった、
などと言って一喜一憂するのは、
ナンセンスの極みです。

糖尿病の診断基準を作られた先生も、
勿論そのことは認識しているので、
診断基準をよく読むと、
2回は血糖を同じ条件で測定して、
それから判断する、という但し書きと、
血糖値のみではなく、他の症状や、
他の検査数値も参考にして診断を下す、
との注意事項が記されています。
ただ、空腹時の血糖値が126以上であれば糖尿病型とする、
との一文だけが一般には強調され、
医者の中にも一度数値が高かっただけで、
断定的に糖尿病と診断する方がいるので、
数字だけが一人歩きしている傾向があるのは、
問題だという気がします。

その一方で、たとえば甲状腺刺激ホルモンの数値は、
1くるえば大事になります。
その数値が3であるのと4であるのとでは、
意味合いが大きく違ってくる場合があるからです。
検査にもそれなりの精度が求められますし、
その判断も厳密でなければならないのです。

一般に通常の健康診断で検査される項目は、
採血から時間が経っても、
検査値が変動し難いものが選ばれています。
ですから、こうした数値については、
何処で計測しても、それほどの差はないと、
考えて頂いてよいと思います。

その反対に、たとえば血液のカリウムの数値などは、
採血からの時間によって変動し易いものの代表です。
従ってカリウムの数値は、
本来はその医療機関内で測るのが適当なのですが、
現実にはそう出来ずに計測することもあります。
ただ、その場合、検査までの時間経過によって、
数値が上昇している可能性が高いことを常に念頭に置いて、
その誤差の幅を考慮しつつデータを読むことが必要になるのです。

僕の言いたいことはこうです。

血液検査結果の数字が、たとえば同じ10であっても、
その意味合いは検査の項目によって違うのです。
それを判断した上でデータを読むことは、
内科の医者の一番の腕の見せ所の1つです。
ですから、その数値が基準値を外れていたからと言って、
そのことのみで一喜一憂せず、
その数値の読み方については、
是非聞いて頂ければな、と思います。

ちなみに現在診療所では、
白血球の数と貧血および炎症反応の検査は、
診療所内の検査機器で測定し、
(概ね10分で検査可能です)
それ以外の血液検査は検査機関に測定を依頼しています。
緊急検査や人間ドックの場合には、
午前中に限りますが、
2時間以内に結果を出すことが可能です。
現在検査機関は2箇所に依頼をしていますが、
これは比較をすることにより、
検査の精度をチェックすることが主な目的です。

最後にちょっと愚痴めいた話です。

説明というのは些細なことでも本当に難しいですね。
特に理解してもらえていると思っていたのに、
本当に基本的な時点で、
まるで考え方が違っていたのだと、
分かった時はちょっとショックです。

村上春樹の「1Q84」の中に、
「説明しなくてはそれがわからないということは、
どれだけ説明してもわからないということだ」
というフレーズがあります。
絶望的な言葉ですが、
その通りなのかな、と思わなくもありません。
でも、僕に出来ることは、
それでも説明をし続けることしかないような気もします。

すいません、余計な話でしたね。

今日は検査値の読み方についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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