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「吐き気」とは何か? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は「吐き気」の話です。

「吐き気」とは、皆さんもご存知のように、
嘔吐を促すための一種の身体の防御反応です。

しかし、特別嘔吐するような原因が存在しないのに、
強い「吐き気」のみが身体を襲うことがあります。

それが非常に顕著に現れるのが、
薬剤の副作用とうつ病の症状としての「吐き気」です。
「吐き気」のみがうつ病の主な症状である場合があります。
たとえば、会社に行こうとすると、
酷い吐き気がその時だけ生じたり、
自分の机に近付いた時や、
苦手な上司の言葉を聞いた瞬間に、
酷い吐き気が生じることもあります。

うつ病の症状という表現は若干不正確かも知れません。
より正確を期するとすれば、
脳内のホルモンや伝達物質の不足や不均衡が存在する時、
それによって誘発される発作的な吐き気が存在する、
と言った方が良いでしょうか。

この吐き気と同じような症状として、
頭痛やめまい、腹痛などの症状があります。
これらは互いに単独で現れることもありますし、
時には幾つかが一緒になって現れることもあります。

同じような性質の吐き気が、
薬の副作用として出現することがあります。
その代表はモルヒネのような癌の痛みに使われる鎮痛剤と、
SSRIやSNRIに代表される抗うつ剤です。

うつ病には症状としての吐き気があり、
また治療のための薬の副作用としての吐き気もあります。
この2つは、果たして同一の原因で生じているのでしょうか。
それとも全然別個の原因で生じているのでしょうか。

皆さんはどちらだと思われますか?

もし同一の原因であるとすれば、
うつ病の症状を悪化させる薬を、
わざわざ使用するのは理屈に合わないような気がします。
もし別個の原因であるとすれば、
全く同一の症状に身体が2つのメカニズムを用意していることが、
身体の仕組みから考えて、
自然ではないような気もします。

どちらが正しいのでしょうか?

端的に言えば、どちらも誤ってはいないのですが、
どちらも微妙にニュアンスが違っているのです。

ご説明しましょう。

「吐き気」の起こるのは、脳にある「嘔吐中枢」が刺激されるからです。
嘔吐中枢(vomiting center )は、
脳の下の延髄と呼ばれる部分の、
背中側にあります。
これは一部が第4脳室という髄液に満たされた穴に面していて、
その中には自律神経の1つである、
副交感神経の運動神経の細胞の集まりが、
すっぽり含まれています。

この「嘔吐中枢」には、
大雑把に言って、4箇所からの信号が、
集まって来ています。

その1つは胃や腸からの信号で、
これは迷走神経という自律神経を伝わって、
「嘔吐中枢」を刺激します。
たとえば食べ過ぎたり、悪いものを食べて、
そこから毒素が発生したとしましょう。
この状況で胃や腸の粘膜が刺激されると、
粘膜の中にある「クロム親和性細胞」から、
お馴染みのセロトニンが分泌されます。
これは主に3というタイプの受容体にくっついて、
その刺激が副交感神経を伝わって、
脳の「嘔吐中枢」を刺激するのです。
これが第1の経路です。

2つ目はたとえば毒物を飲んだ時に起こる経路です。
血液中の物質が、第4脳室を介して、
そこに面した「化学受容器引き金帯
(chemoreceptor triger zone )」
を刺激します。
(申し訳ないですが、あまりに酷い訳語ですね)
これが主にドーパミンという伝達物質を介して、
「嘔吐中枢」に伝わります。
腎臓が悪くなると、尿毒症という状態になります。
アンモニアのような毒素が血液に溜まるのです。
この時に起こる吐き気は、
この経路を介して起こる、と言われています。

3つ目の経路は平衡感覚を司っている、
前庭神経からの経路です。
前庭神経核は「嘔吐中枢」のすぐそばにあり、
その興奮が「嘔吐中枢」に伝わり易いのです。
前庭神経の異常は眩暈を起こします。
つまり、眩暈と一緒に起こる吐き気は、
この経路を伝わって起こるのです。

4つ目の経路は、大脳からの信号が、
「嘔吐中枢」に伝わる、というものです。
うつ病の症状としての吐き気は、
この経路を伝わって生じていると考えられています。
しかし、残念ながらその本態ははっきりしていません。
おそらくはステロイドの受容体と、
ドーパミンの受容体を介した経路が主に働いているのではないか、
と思われます。

ここで最初の質問に戻りますと、
うつ病の症状としての吐き気は、
大脳からの信号により、
「嘔吐中枢」が刺激されたことによるものと考えられます。

一方で、SSRIのような薬剤で生じる吐き気は、
セロトニンの上昇により、
胃腸の粘膜下のセロトニンの3のタイプの受容体が刺激され、
その信号が迷走神経を伝って、
「嘔吐中枢」が刺激されたことによるものです。

従って、いずれも「嘔吐中枢」が刺激された症状であることには、
違いはないのですが、
そのメカニズムには違いがあるのです。

ちなみに三環系の抗うつ剤ではあまり吐き気は出ないのですが、
この原因は三環系の抗うつ剤には、
抗ヒスタミン作用と抗コリン作用があるためと考えられています。
抗ヒスタミン作用が中枢でセロトニンによる吐き気を抑え、
抗コリン作用が末梢でセロトニンによる吐き気を抑えるのです。
SSRIという薬は、それ以前の抗うつ剤の副作用を、
取り除くことを1つの目的として開発されたのですが、
それで却ってセロトニンの上昇による、
副作用を強める結果にもなっているのです。
良い薬とは何かということを、
今更ながらに考えさせられますね。

さて、皆さんは今までの説明に、
何か賦に落ちない点はないでしょうか?

実は僕は自分で書いていながら、
納得のいかない点があります。

長くなりましたので、
その話は明日にしますね。

明日はそれに併せて、吐き気の治療についての話です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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