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バセドウ病の声 [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

昨日結婚の発表をした女性歌手が、
バセドウ病で闘病のため、
今年いっぱいで休業する、
というニュースがありましたね。

皆さんご存知のように、
バセドウ病は甲状腺の病気で、
その発生には自己免疫が絡んでいます。

甲状腺は脳の下垂体からの、
「甲状腺刺激ホルモン」の調節を受けて、
ホルモンを分泌している訳ですが、
バセドウ病では、
甲状腺刺激ホルモン以外の刺激物質があって、
それが甲状腺を刺激し続けるために、
通常甲状腺は腫れ、甲状腺ホルモンがじゃんじゃん出て、
甲状腺機能亢進症の状態になります。

この刺激物質を「TSH受容体抗体」と言います。
TSHとは甲状腺刺激ホルモンのことですから、
これは甲状腺ホルモンの代わりに、
甲状腺の受容体にくっついて、
それに似た作用をする物質、
というニュアンスです。

この物質は自己抗体なので、
バセドウ病は1種の「自己免疫」の病気です。
リウマチや膠原病の仲間、
と言っていいかも知れません。

この「自己抗体」だけを減らすような治療があればいいのですが、
残念ながらそれはありません。
従って、今ある治療は、
甲状腺ホルモンを下げるだけの治療です。
ただ、甲状腺の働きが安定すると、
その「自己抗体」も、
通常は自然に下がって来ます。
また、「抗甲状腺薬」という飲み薬には、
直接的に「自己抗体」を下げる働きがあるのだ、
という意見もあります。

今ある治療は大きく分けて3種類。
薬と手術と放射線治療です。

手術はごく一部を残して、甲状腺を取ってしまう、
というものです。
放射線の治療も、放射線の付いたヨードを飲んで、
甲状腺の大部分を死滅させてしまい、
甲状腺の働きを抑えてしまおう、
という治療です。
一般的に日本では薬の治療が多く、
海外では(特にアメリカ)、
手術か放射線治療が殆どです。

これは考え方の違いで、
必ずしもどちらが良いとは言い切れません。
手術や放射線は手っ取り早いのですが、
やや乱暴な方法で、
根本治療ではありません。
うまくいくこともありますが、
取る量が少なければ、
再発しますし、
多過ぎれば、逆にホルモンが下がって、
機能低下症になってしまいます。

薬はメリットも大きいのですが、
数年間薬を飲み続けなければならないのが、
一番の難点で、再発も稀ではありません。

ここで女性歌手の報道の内容を見てみますと、
2年半に渡り、薬の治療を行なったが、
「病気と正面から向き合うこと」が出来ず、
ホルモンは不安定なままで、
機能亢進になると息切れがして、
歌うのが辛かった、
とされています。

これはただ、ちょっと誤解を招く内容で、
まともな医者がまともな治療をして、
数ヶ月で甲状腺の機能が安定しないことは、
間違いなくありません。

治療がうまくいかないのは、
余程甲状腺が大きく、
治療に抵抗性の場合か、
甲状腺の薬が副作用で使えない場合、
もしくは患者さんが医者の指示通りに、
治療を続けて頂けなかった場合に限られます。

写真を見る限り、甲状腺の腫れは、
それほどではないので、
第一の可能性は否定的ですし、
薬の副作用があるなら、
2年以上も治療を継続している訳がありません。

すると、実際にはしっかり薬を飲めていなかったか、
医者が藪なのか、
2つに1つということになります。

薬以外の治療を考えているという可能性もありますが、
手術は首に目立たないとはいえ傷が残るので、
多分選択はされないと思いますし、
放射線治療はその後最低1年間は妊娠が出来ませんので、
これも現時点で選択はされないような気がします。

ただ、結局薬の治療を継続するのであれば、
別に仕事を休止する必要はないと思います。
少なくとも僕が主治医なら、
絶対にそんなことは勧めません。
逆に現在の甲状腺の状態が、
非常に不安定なのであれば、
今年いっぱいで休業などと、
悠長なことは言っていないで、
すぐに休みを取らなければいけません。
1ヶ月くらい休めば、
確実に改善するのですから、
それを引き伸ばす意味が分かりません。
もしそれが仕事のためなら、
そんな事務所は鬼の棲家です。

勿論何か他の理由で休業するのかも知れませんし、
その可能性が大きいのかな、
という気がするのですが、
そうであれば、
逆に病気がある種の口実に使われたような気がして、
それはそれで「バセドウ病」の患者さんに、
誤ったメッセージを与えかねないのではないか、
という思いがあります。

ちなみにあの歌手の声は、
如何にもバセドウ病ですね。
うまく言えないのですが、
甲状腺の機能が亢進すると、
ちょっと魅力的な艶が出るのです。
バセドウ病の女優と言えば、
夏目雅子が有名ですが、
声が似てるでしょ。
まあ、そんな感じなのです。

それでは今日はこのくらいで。

いつもと違って、
勢いで書いたので、
細部に誤りがあるかも知れません。
後でちょっと手を入れるつもりです。
今日の記事は下書きと思って頂ければ幸いです。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 15

感謝

先生、とても明快な内容で感謝いたします。
実は、私もバセドウ病をわずらっておりまして、心配していることがありましたのでコメントを加えさせていただきます。

先生は声のことに触れられていましたが、私はバセドウ病のせいなのか、声がかすれてしまって困っています。

今、治療中の医者に聞いても、バセドウ病とは関係ないとのことですし、耳鼻咽喉科でも正常だ、と言われ、ほとほと困っています。

ここでこのようなことをお伺いするのは失礼を承知で伺います。

バセドウ病の人の声が艶っぽい、というのは、どういうことでしょうか。
また、バセドウ病で声がかすれる、ということも可能性としてあるのでしょうか。。。 もし、あれば、バセドウ病の数値が正常になっていけばなおるのでしょうか・・・。

声を使う仕事をしており、今は休職をしているのですが、とても心配です。どうか、コメントをいただけると幸甚です。
よろしくお願いいたします。
by 感謝 (2009-05-29 21:22) 

fujiki

感謝さんへ
コメントありがとうございます。
通常甲状腺の機能低下症では、
声に力がなくなり、かすれた低い声になることが知られています。
バセドウ病を含む機能亢進症では、
あまり一般的には声の変化は言われてはいません。
ですから、これはあくまで僕の印象なのですが、
バセドウ病の方は、
中音域の膨らみがあって、
ちょっとヴィブラートの掛かったような、
独特の音調になることが多いと思います。
メカニズムは分かりません。
もし、甲状腺の治療中に声がかすれるとすれば、
ホルモンの状態が機能低下に傾いているか、
最近ホルモンの数値に大きな変動のあった場合に、
そうしたことの起こるケースが多いのではないか、
と考えられます。
ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2009-05-30 13:29) 

感謝

石原先生、早々のお返事、本当にありがとうございます!

確かに、治療を始めて1ヶ月で大幅に数値が改善されたのですが。。。そもそも、バセドウ病を診断されて、まだ1ヶ月しかたっていない、ビギナーなのです・・・。

調子が良いときは、あまりかすれないのですが、それでも夕方ぐらいになると、小さい声は出なくなってしまいます。今は、力を込めて大きい声を出すとかすれませんが、疲れてしまいます。電話で話すときが一番辛いです。なんとか、がんばって、リハビリしていきたいと思っています。

本当にご丁寧にコメントをいただき、恐縮です。このように手を差し伸べてくださる先生こそが、本当に我々の必要としている医者だと思います。どうか、お体ご自愛のうえ、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

by 感謝 (2009-05-30 22:47) 

モカ

初めまして。

バセドウ病の事を検索して、こちらのブログに辿り着きました。
私の弟が、今バセドウ病の手術をして入院しています。

遠隔地に入院していますので、本人からの電話でしか様子が解りませんが、友達が手術後1週間で退院した話を聞いているので、あまりにも経過が違うので心配しています。
何か助言頂けたらと思ってコメントしました。

19日に全身麻酔で手術。
20日に腫れと出血があったので、局部麻酔でもう一度開いたようです。
26日ずっと微熱、腫れもあり分泌物が出て臭うので看護師さんに言ったら、化膿していたのでまた開いたそうです。

こうのような状態は、マレだと思うのですが、一部ではあることなのでしょうか?
経過を見るしかないのでしょうか。
by モカ (2009-08-27 15:34) 

fujiki

モカさんへ
バセドウ病の甲状腺は、
非常に血液が豊富なので、
術後出血は、専門の医療施設でも、
2%程度はある頻度の多い合併症です。
この場合、血液が溜まって血腫(血の塊)を作ると、
それが気管を圧迫して呼吸困難を起こす危険が大きいので、
創を開いて、止血するのは一般的な処置です。
ただ、通常2回も創を開くことはあまりない筈で、
これだけの情報で軽率なことは言えませんが、
何らかのトラブル(決して即医療ミスということではありません)
があった可能性はあります。
出来れば主治医にその経過を、
お聞き頂くのが良いのではないかと思います。
術後の感染が疑われますが、
それは想定内のことではないという気がするからです。
ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2009-08-27 17:54) 

モカ

早速、お返事頂きありがとうございます。

医療の事は、全然解らないし、なんせ片道4時間かかるとこに入院していますので、簡単にお見舞いに行けない状態です。
弟も時間とお金もかかるから来なくて良いと言いますし・・・。

とにかく、自分の体調でおかしいと思うことは、言わないと解ってもらえないからとは、話したのですが・・・。

小さい頃から、被れやすかったり、事故に遭って大怪我をして化膿したりしてたので、そういう体質なのかなとも思います。

少し気持ちが楽になりました。
ありがとうございました。



by モカ (2009-08-27 22:07) 

つっちゃん

先生、こんにちは
私はバセドウ病で、今通院治療を3ヶ月程続けております。
前に先生の病院のホームページから、相談をさせていただき病院を探す参考にさせていただきました。
本当にありがとうございました。

実は、メルカゾールを服用して身体がだるいとか、足がつるとか嫌な症状があって数値が良くなり、1錠減った事をとても喜んでいたのですが

1ヶ月たったらまた悪くなってしまったので、また元の1日3錠に戻ってしまいました。
先生は、症状と数値がとても素直に出てるね。といってましたけど。

無顆粒球症とか、重要な副作用はありませんが
薬をのんで不快な症状より、服用をきちんとする方が良いんでしょうか?
担当の先生にも、こんな感じがつらいとは話してるんですが。

みんな、がまんしながら付き合っていくんでしょうか?
先生の患者さんは、どの様にこの病気と向き合っているようですか?
by つっちゃん (2009-11-16 23:40) 

fujiki

つっちゃんさんへ
ご返事が遅れまして申し訳ありません。
どう書いたらいいか、ちょっと迷う思いがありました。
ご経過の詳細が分からないので、
何とも言えない部分があるのですが、
おそらく身体のだるさや足のつりは、
甲状腺機能が低下したための症状ではないか、
と考えます。
メルカゾールという薬自体は、
そうした「つらさ」を感じるような性質の薬ではない筈だからです。
「つらさ」を感じるとすれば、
ホルモンのコントロールが不安定であるか、
薬が合わないか、そのどちらか
(おそらくは前者)ではないかと思います。

3錠を継続していて、つらさが続くようでしたら、
もう一度、主治医によくご相談される必要があると思います。

すいません。
あまり良いお答えになっていないような気がします。

何かありましたら、
お気軽にご連絡下さい。
by fujiki (2009-11-18 08:41) 

つっちゃん

先生、お返事ありがとうございます。
バセドウ病は、薬の量を調節するのが大変だよと友人に言われましたがその通りだと実感しております。

また、気にかかる事があったらご相談させていただきたいと思っています。
よろしくお願いします。
by つっちゃん (2009-11-19 21:55) 

toku

いつもブログを拝見して勉強させていただいております。職場の同僚がバセドウ病と診断されて、投薬治療をすることになりました。重い病状ではないそうなのですが、2ヶ月くらいはお薬を飲むそうです。そのお薬では副作用があるかもしれないと言われているそうです。彼女に仕事の負荷がかからないように、細心の心配りを致しますが、周囲の人間として、特に配慮してあげた方がよいことはありますか?副作用があるような強いお薬を飲むと聞いて、少し気になってしまいました。
by toku (2010-05-01 23:47) 

fujiki

toku さんへ
コメントありがとうございます。

レスが遅れまして申し訳ありません。

通常抗甲状腺剤を飲み始めてから、
甲状腺機能が正常になるのに、
1ヶ月程度は掛かります。
その間は機能亢進の程度にもよりますが、
息切れや動悸などの症状はあるため、
通常の無理のないお仕事には問題はありませんが、
過労や激しい運動は禁物です。
食事はヨードの制限は必要です。
(海草を食べないくらいでOKです)

甲状腺の機能が薬で安定した状態になれば、
基本的には生活の制限は全くありません。
ただ、抗甲状腺剤は、
年のオーダーで継続するのが一般的です。
(通常2ヵ月で終了することはバセドウ病の場合はありません)

薬の副作用は飲み始めから1ヶ月以内に起こることが多く、
一番重篤なものは白血球の減る、
好中球減少症です。
従って、定期的に採血は必要です。
ただ、飲み始めから3ヶ月くらいして、
薬の量も減ってくれば、
その発生は極めて稀になります。
それ以外にはアレルギーによる身体の痒みや湿疹、
肝機能障害などがあります。
一般の薬の場合と違い、
アレルギー症状や軽度の肝機能障害は、
薬を継続していると改善することが多く、
そのため症状があっても、
使用を継続することもあります。

症状が軽ければ、
薬の量もそれほど多くはなく、
ある程度の期間継続は必要ですが、
副作用の発生も稀だと思います。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-05-03 14:03) 

toku

大変ありがとうございました。わかりやすくご説明いただいて、感激しています。よいお休みをお過ごしください。
by toku (2010-05-03 23:08) 

華月

バセドー病のひとは大きな声を出すことは控えたほうがいいのでしょうか?


by 華月 (2014-08-21 17:30) 

fujiki

華月さんへ
甲状腺機能が安定していれば、
格別そうしたことはないと思います。
by fujiki (2014-08-21 19:29) 

華月

返答ありがとうございます。
新しい職場で、大きな声を出さなければいけなくて
喉に負担がかからないか心配になりまして...

薬は数年服用していて
安定はしているはずなんですが
悪化しないといいのですが...
by 華月 (2014-08-21 20:01) 

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