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「双極性障害」という日常 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務仕事をする予定です。
東京は鬱陶しい春の雨です。

それでは今日の話題です。

今日はちょっとした問題提起をして、
それに関する話題を、
何日かに分けて取り上げたいと思います。

数年前まで、
うつ病が急激に増えているという話がありました。

養育環境に問題があり、
愛情をあまり得られずに成長すると、
その経過の中で、
主に脳の中のステロイドホルモン系のバランスが崩れ、
ストレスに対して弱い人格が形成されます。
そこに仕事や恋愛などのストレスが加わると、
脳の中のホルモンのバランスが更に崩れ、
主にセロトニンが減少して、
うつ症状を出すのだよ、
というのが一般的に言われているメカニズムです。

何となくそれらしい説明ですよね。

でもこれは、
「お隣のシンジ君が最近おうちに戻っているらしいのよ」
「でも、東京の一流企業に、今年就職して向こうに行ったんだろ」
「それが、半年で休職ですって」
「病気なのか?」
「それがね、(ト声を潜め)うつになったらしいの」
「東京の水が合わなかったのかな」
「お隣は家族関係が複雑じゃない。
ああいう家の子は、ストレスに弱くなるのよ」
と言った世間話と、
あまり変わらないレベルの仮説であるような気がします。

要するに、実証性には乏しいのです。
人間で証明されていることは、
せいぜいステロイドホルモンの刺激に対する反応がちょっと違いそうだ、
とか、
髄液の中のセロトニンが低いかも知れない、
とか、
脳の一部のブドウ糖の取り込みが悪そうだ、
とかといった程度のことです。
後は細胞レベルの実験か、
ネズミが主体の動物実験です。
でも、ネズミに「うつ病」があるんでしょうか?
行動パターンに変化がある、
とか何とかといってデータを出すのですが、
僕にはこじつけのようにしか思えません。

セロトニンのみを増やすという振れ込みの、
SSRI と言われる抗うつ剤が、
それまでにない画期的な薬として、
日本で発売されたのが、
1999年のことです。
一時は信仰のように崇められ、
簡単な筆記検査で「うつ」を疑ったら、
取り敢えずSSRI を出して様子を見れば、
どんな藪でも名医になれる、
みたいな内容の医者向けの勉強会が、
全国津々浦々で開かれました。
その費用を出していたのは、
勿論SSRI を販売している製薬会社で、
テレビや新聞などでも、
大々的に「うつが増えている」
との宣伝が打たれたのです。

単独の抗うつ剤を使い、
充分な量まで増やさなければ効果がない、
というのがその時の説明です。

うつを最初に診るのは、
精神科や心療内科よりも、
むしろ一般の内科なので、
うつを疑ったら、取り敢えずSSRI を出して、
様子を診ればいいのだ、
というキャンペーンも張られ、
湯水のようにこのタイプの薬が使われました。

その時の患者さんへの説明は、
「うつは心の風邪のようなものだから、
休養を取ってしっかり薬を使えば、
半年くらいで必ず良くなり、
薬も2年以内には中止出来るんだよ」
というものでした。

要するに、「うつ病」は急性の病気で、
慢性の病気ではない、
というのが大前提だったのです。
再発することはあっても、
慢性化することは極めて稀だ、
というのが共通認識です。

ところが…

実際には多くの患者さんが、
薬を続けて仕事を休んでいるのにも関わらず、
あまり改善傾向が見られず、
仕事に復帰しても、
すぐに体調が悪くなって再び休みがちになりました。
症状は多彩で一定した傾向はありませんが、
情緒的に不安定であることと、
うつと診断された最初の頃よりも、
むしろストレスに弱くなっていることは、
共通した傾向です。

患者さんは何年にも渡って、
苦しんでいます。
これがもし「うつ病」だとすれば、
慢性化したのだと言っていいかも知れません。
しかし、慢性のうつ病など、
滅多に存在しないのではないでしょうか?

ここで、実は「うつ病」という最初の診断が、
誤診だったのだ、
という考えが出て来ます。

それでは、一見「うつ病」と考えられたこの病気は、
何なのかと言えば、
それが「双極性障害」だと言うのです。

「双極性障害」の一部には、
遺伝子の異常が関与していると言われ、
生涯病気と付き合っていかなければならないケースも、
存在します。
そして、「双極性障害」を単純なうつ病と判断して、
抗うつ剤を使用すると、
却って情緒の不安定さは増悪し、
症状が重症化し易いとされているのです。

専門家の先生は、
多くの「双極性障害」の患者さんが、
うつ病と誤診されて、
不適切な治療を受けている、
と発言されています。

ただ、今そうした意見を言われている先生の多くが、
数年前には「うつ病」が急激に増えている、
と主張し、
躁状態にもなりにくい薬として、
SSRI の使用を推奨していた、
という事実を忘れてはいけません。
「SSRI は躁病になる副作用も少なく安全な薬だ」
と言っていた同じ舌が、
「安易にうつ病と診断して漫然とSSRI を使ったために、
双極性障害を見落として、
いたずらに病気を悪化させ長引かせている」
と言っているのです。

最初の意見が結局は誤りだったのなら、
今回の意見が正しいと、
どうして確信を持てるのでしょうか?

一般的に言うところの「情緒不安定」な状態が、
比較的軽いうつ症状や、不安発作などの後に、
持続する事例が極めて多いことは事実です。

こうした病態の全てが、
「双極性障害」の気分の揺れで説明可能ならば、
それに越したことはありません。

ただ、僕は必ずしもそうは思いません。

急性症状が慢性化したのは、
何らかの理由があったからです。
その中には確かに、
「双極性障害」の見落としの事例があるのでしょうが、
その比率はさほど多いものではないと僕は思います。

むしろ、本来抗うつ剤をあまり使用すべきでない病態に、
抗うつ剤を継続使用したことが、
脳に何らかの変化を及ぼし、
それが内的リズムの意識化と相まって、
こうした現象を起こしているのではないでしょうか?
元に「双極性障害」が存在したから薬で悪化したのではなく、
薬の不適切な使用が、
「双極性障害」と表現し得る情緒不安定な状態を、
生み出したのではないでしょうか?

長くなりましたので、
今日はこのくらいで。

「双極性障害」とは何か、を含め、
明日から僕なりに、
「気分の異常」についての概説をお届けしたいと思います。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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