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高マグネシウム血症の一例 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診の整理をして、
それから今PCに向かっています。

インフルエンザのワクチンが、
もうかなり品薄のようで、
診療所では在庫限りで終了の見込みです。
十分量は用意されている、
との話だったのですが、
新型インフルエンザの報道もあり、
今年は予想を上回ったようです。
もし接種がまだでお考えになっている方は、
そういう事情ですので、
お急ぎ下さい。
多分年明けには殆ど流通しない状態になると思います。

それでは、今日の話題です。

以前、酸化マグネシウムという、
便秘に使う薬剤で、
高マグネシウム血症が起こり、
死亡例が報告されたことについて、
僕なりの検証結果を記事にしました。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-12-02
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-12-03
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-12-04

実は最近その点について、
興味深い事例を経験しましたので、
この場でご報告します。

患者さんは80代の女性です。

高度の便秘があり、
コントロールが困難で、
硬い便が溜まると食欲も落ち、
腹痛を訴え、
無理に食べると、
その後にもどしてしまいます。

胃癌や大腸癌の可能性も疑い、
可能な範囲で検査をしましたが
CTや超音波検査では異常なく、
便の鮮血反応も陰性。
(これは便に微量の血液がないかを検出する検査で、
陰性であれば、
大腸癌の可能性は低くなります)
血液の腫瘍マーカーも正常でした。

認知症もあることより、
胃カメラや大腸のカメラは、
行ないませんでした。

便秘のコントロールのため、
ラキソベロンという液体の下剤と、
漢方薬(麻子仁丸という薬です)、
それから、酸化マグネシウムを、
便の硬さを見ながら、
少量から開始しました。

気になったのは、
腎臓の機能です。
血液のクレアチニンは、
1.3mg/dl 。
年齢も考えると、ある程度の腎機能低下の、
存在する数値です。
しかし、その時点ではこのレベルであれば、
マグネシウムが危険なほど蓄積する心配はないだろう、
という判断で、
酸化マグネシウムの使用を続けました。

酸化マグネシウムの1日量は、
3.0g になりました。
僕の考える1日の最大量です。
便通はそれでまずまずの状態でした。

ところが…

ある日から、
患者さんの食欲が減り、
意欲も低下して、
昼間もぼんやりとしているようになりました。

そのことを聞いて、
もしやと思い、
血液の検査をしました。

すると、腎臓の働きを示すクレアチニンの数値は、
一気に4.5mg/dl に上昇。
血液のカリウムが8mEq/l を超えていました。
これは心臓が止まってもおかしくない、
重症な数値です。

重症の腎不全の状態になっていたのです。

患者さんをすぐに病院へ紹介。
透析による治療を行ない、
症状は速やかに改善しました。

それでは、この方の血液のマグネシウムは、
どのくらいだったと思いますか?

実は3.3mg/dl 。
マグネシウム濃度の上限は、
2.4mg/dl 程度ですから、高値ではあります。
でも、このレベルの上昇であれば、
通常は全身にたいする影響はありません。
以前ご紹介した死亡例のマグネシウム濃度は、
17.0mg/dl ですから、
それが如何にケタ外れの値であるかが分かります。

実はもうお1人、
以前同じような事例を経験しています。
在宅の方で短期間で高度の脱水状態になり、
腎機能が悪化。
意識が悪くなって入院されました。
直前まで高度の便秘のため酸化マグネシウムを、
1日2.0g 飲まれていました。
クレアチニンの濃度は5.5と上昇していましたが、
血液のマグネシウムはやはり3.2mg/dl と、
軽度の上昇に留まっていました。

要するに腎機能の低下だけで、
それほど急激にマグネシウムが上昇することは、
どうもなさそうなのです。
公表された死亡例においては、
酸化マグネシウムの使用以外の原因で、
血液のマグネシウムが上がったに違いない、
と僕はその確信を強めたのです。
多分僕のこの推測は、
間違っていない筈です。
お上(厚生労働省)の発表が、
いつも事実とは限りません。
こうした問題を議論する医者は、
往々にして患者さんを殆ど診たことのない、
「専門家」だからです。

それはそれとして、
この事例には多くの反省点があります。

その第一は、
ご高齢の方における脱水状態の怖さと、
その進行の早さですね。
僕としては充分注意して、
経過を見ていたつもりだったのですが、
ほんの1週間くらいの間に、
急激な脱水になり、
意識障害に陥るのです。

脱水をなめてはいけません。

また脱水が進むと、
腎機能の低下も、急速に進行します。
仮にこの患者さんがもう数日そのままの状態であったら、
カリウムの上昇で心臓が止まり、
突然死をされていたかも知れません。
ご高齢の方が急死される事例の裏に、
結構こうした例が多いのでは、
と今僕は考えています。

それから第二は、
勿論酸化マグネシウムの使用についてですね。
腎機能の低下が軽度でも疑われる患者さんでは、
その経過を慎重に診ながら、
この薬を使う必要があります。

正直恥ずかしい事例なのですが、
今後への自戒の意味を込めて、
ご紹介させて頂きました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

きのこ

はじめまして。実は5年ほど前から便秘のため「マグミット」を1日1回500㎎服用しております。先日、健康診断のため血液検査をしましたら、マグネシウムの数値が2.4㎎/dlでした。上限ぎりぎりでしたので、ネットで調べたところ「高マグネシウム血症」という病名がヒットしました。そして、このサイトへ進んできた次第でございます。とても心配していましたが、こちらのブログを拝見させていただき、少し落ち着いてきましたが、やはり、心配です。腎機能は正常なのですが、この数値は、心配な数値なのでしょうか。また、このまま飲み続けると、徐々に上昇していくものなのでしょうか。。。

by きのこ (2016-11-08 15:19) 

fujiki

きのこさんへ
1日500mgは問題になる量ではなく、
腎機能が正常であればご心配は要らないと思います。
正常上限を少し超えるくらいの高マグネシウム血症は、
しばしばあり、
継続しても上昇を続けるということはないと思います。
by fujiki (2016-11-13 21:04) 

きのこ

お返事ありがとうございました。「高マグネシウム血症」よりたどり着きましたこちらのブログでしたが、素人の私でもわかりやすく、そしてとても興味のある内容で、いつもブログアップを楽しみにしております。
私自身更年期に差し掛かり、ホルモンの関係?で急に上がってきたコレステロールに関しては、先日の「コレステロール」の話題は参考になりました。以前にも何度か取り上げてくださっているとは思うのですが、もし、機会がありましたら「女性ホルモンとコレステロールの関係」や「更年期によるコレステロールのみの上昇時の薬物投与の種類」など、更年期の女性が悩んでいる話題も取り入れてくださいましたら助かります。なかなか、コメントできる時間がとりにくいのですが、これからも、ブログ楽しみにしています。本当にありがとうございました。
by きのこ (2016-11-14 14:56) 

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