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橋本病の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診の整理をして、
それから今PCに向かっています。
今日は何事もなく過ぎるといいのですが。

それでは、今日の話題です。

今日は「橋本病」の話です。

「橋本病」は人口の30人に1人はいる、
という統計があるほど、
多い病気です。

圧倒的に女性に多く、
男性の発症率は女性の10分の1です。

橋本病は甲状腺の病気です。
甲状腺はのど仏のすぐ下の辺り、
気管の前にあります。
中央は小さく、
両側には広がりがあり、
蝶が大きく羽根を広げたような形をしています。
甲状腺の役割は、
甲状腺ホルモンというホルモンを分泌することです。

甲状腺のホルモンは自律神経をコントロールし、
ストレスから身を守ります。

甲状腺のホルモンが足りなくなると、
元気がなくなり、
思考力は低下し、
素早く動くことが出来なくなります。
身体はむくみ、筋肉はつり、
脈は遅くなり、肌は乾燥し、便秘になり、
悪化すると心臓の働きが悪くなって、
心不全になります。

逆に甲状腺のホルモンが多過ぎると、
イライラとして落ち着きがなくなり、
汗をかきやすく、脈が速くなって、
動悸を覚えます。
下痢になり食欲はあって、
むしろ食事量は増えるのに、
体重は急激に減少します。

甲状腺ホルモンが足りないのを、
甲状腺機能低下症と言い、
逆に多過ぎる状態を、
甲状腺機能亢進症と言います。

上の症状でもお分かりのように、
甲状腺の知識のない医者に掛かると、
機能低下症は認知症や心臓病、うつ病などと誤診され、
機能亢進症は不安神経症や癌、
更年期障害や統合失調症などと、
誤診されることがあります。

そして、甲状腺機能亢進症を起こす病気の代表が、
「バセドウ病」で、
甲状腺機能低下症を起こす病気の代表が、
「橋本病」です。

橋本先生というのは、
九州大学の講師で、
ドイツで外科学と病理学とを学び、
甲状腺の組織を病理学的に分析、
甲状腺の中に、
リンパ球が塊のようなものをつくっているのを発見して、
記載したのです。
これが1912年のことです。

海外の教科書にも、
Hashimoto thyroiditis ときちんと記載されているのですが、
何故か日本の文献には、
「慢性甲状腺炎(橋本病)」と書かれています。
まあ、橋本先生が記載されたものより、
もっと範囲の広い病態を、
現在では「橋本病」」と呼んでいるので、
その意味合いもあるのだとは思いますが、
多分もっと人間的な理由もあるのだと思います。
せっかく日本人の名前の付いた数少ない病名なんですから、
本国でもっと使って上げればいいですよね。
ちょっと了見の狭い気がします。

ちなみにバセドウ病は、
英語圏ではあまり使用されていない名前で、
あちらでは Graves 病というのが、
一般的です。
これも、科学者の縄張り争いですね。
アメリカかぶれの日本では、
グレーブス病と言えば良さそうですが、
これはどうも語呂が悪いので普及していないようです。

面白いでしょ。

病気のことに話を戻します。

「橋本病」も「バセドウ病」も、
自己免疫が絡んだ病気であることは同じです。
従って、両者を合わせて、
「自己免疫性甲状腺疾患」と一括りに呼ぶこともあります。
実際両方の病気が一緒にあることも、
稀ではありません。

自己免疫疾患というのは、
本来外敵に対して身体が作る「抗体」という蛋白質が、
何故か自分の組織に対して、
作られてしまう病気です。
(作られる抗体のことを、自己抗体と言います)
代表的なものは慢性関節リウマチのような膠原病ですが、
他にも多くの慢性の病気が、
自己免疫と関係があります。

甲状腺に関わる自己抗体には、
抗サイログロブリン抗体と、抗マイクロゾーム抗体、
そして、抗TSH受容体抗体の3種類があります。
このうち、抗TSH受容体抗体が原因となる病気が、
バセドウ病で、
他の2つの抗体が主な原因となる病気が、
橋本病です。
サイログロブリンは甲状腺が作る蛋白質で、
マイクロゾームは甲状腺の作る、
これも蛋白質を区分した表現で、
その実体はペルオキシダーゼという酵素であることが、
分かっています。

ペルオキシダーゼは、
甲状腺ホルモンを作るのに、
必要不可欠な酵素です。
従って、これに対する抗体が、
身体の中に出来てしまえば、
その周りにリンパ球が集まって、
炎症を起こし、
甲状腺のホルモンがうまく作られなくなって、
甲状腺の機能は低下します。

これが「橋本病」の実体です。

ただ、これは通常、
何十年という時間を掛けて、
ゆっくりと進む変化なので、
最初のうちは、この病気があっても、
甲状腺の働きは正常です。
ただ、ちょっと、ホルモンを作る効率は悪いので、
それだけホルモン生成工場はフル稼働しなければならず、
派遣労働者を大量に雇い入れ、
工場を増やすような状況になるので、
甲状腺は大きく腫れます。
これが、「甲状腺腫」です。
従って、一般的に甲状腺が腫れている時には、
甲状腺の機能は正常なのです。

そのうちに工場も目一杯の状況になり、
労働者も疲弊して、
生産性が低下すると、
ホルモンの量は下がり、
ある程度以上下がると、
機能低下の状態になります。

従って、橋本病で通常問題となるのは、
甲状腺の機能低下です。

甲状腺の大きさがかなり大きい場合、
ホルモン剤を早めに使うこともありますが、
一般的には甲状腺の働きがはっきり低下してから、
ホルモン剤を使うのが一般的です。
これは補充療法なので、
副作用はありませんが、
原則として、
一生飲み続ける必要があります。
甲状腺ホルモンは血液の中で、
蛋白とくっつき、
安定した状態で存在するので、
通常1日1回薬を飲めば、
それで十分です。

生活上の注意としては、
甲状腺ホルモンの原料であるヨードを取り過ぎると、
機能低下が進むことがあります。
(多量のヨードがあると、
却って甲状腺の中にヨードが入らなくなってしまうのです)
ですから、海草を沢山取ることは、
橋本病の患者さんには、
お勧め出来ません。

これが「橋本病」の大雑把な話です。

これだけだと、
特に注意点のない、
大して怖くはない病気だと、
思われる方が多いかも知れません。
それは一面の事実ですが、
それでもこの病気が重症となり、
命に関わる事態となることも、
ない訳ではありません。

明日はその話に移りたい、
と思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 17

老爺

貴重な内容の記事を有難うございました。
by 老爺 (2009-04-26 09:40) 

fujiki

老爺さんへ
読んで頂きありがとうございました。
何かご参考になることがあれば幸いです。
by fujiki (2009-04-26 13:13) 

ichi

現在うつ病で休職中の、橋本病患者です。
きちんとした説明を受けたことがなかったので、とても分かりやすいご説明をありがとうございました。

by ichi (2010-01-19 22:53) 

fujiki

ichi さんへ
コメントありがとうございます。

少しでもご参考になる点があれば嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2010-01-20 08:25) 

HWK

橋本病で、機能亢進になるのはなぜでしょうか?
無痛性甲状腺炎のようで、いろいろ不安です。
by HWK (2010-06-23 21:25) 

fujiki

HWK さんへ
コメントありがとうございます。

それは通常は無痛性甲状腺炎のことです。
つまり炎症により、
甲状腺ホルモンを溜めている貯蔵庫が壊れて、
一時的にホルモンが血液の中にどばっと入り、
一時的な機能亢進を起こすのです。
一時的ですから、通常は短期間で元に戻ります。
そんなに心配な状態にはならないことが殆どです。
by fujiki (2010-06-23 23:05) 

hiibo

妻が中国在住で病院で橋本病と診断され、今、首から肩あたりが、なにか引っかかってるようで痛みがあります。蛋白抗体が606、TPO抗体が90.27であとは正常です。2ヶ月で甲状腺の大きさが14mmから17mmになり、腫瘍が2つあるようです。首の痛みをなくすにはどうすればいいでしょうか。
by hiibo (2010-09-23 12:01) 

fujiki

hiibo さんへ
コメントありがとうございます。
通常は甲状腺機能が正常の橋本病で、
痛みの出ることはないと思います。
痛みの原因が何であるかを、
検索することが重要ではないかと思います。
by fujiki (2010-09-23 18:59) 

hiibo

先日もメールさせていただきましたが、甲状腺の腫れが2ヶ月で14mmから17mmになって、妻が言うには自分は急性ではないかということで腫れが自然に治るのかどうか聞いてほしいらしくコメントさせていただきました。痛みのほうは日々差があるようなんですが、油物を食べない日のほうが痛くないらしいんですけど、そんなことってあるんですかね。つまらない質問ですみません。でも先生のこのブログのおかげで、私たち二人は非常にありがたく思っております。
by hiibo (2010-10-04 14:17) 

fujiki

hiibo さんへ
食事とは少なくともその日に変化のあることは、
考え難いと思います。
ただ、問題はそのしこりの性質にあるので、
何とも言えません。
炎症性のものであれば、
時間は掛かっても自然に改善することが、
多いとは思います。
by fujiki (2010-10-05 08:21) 

shiro

こんばんは

橋本病のことでお聞きしたいのですが・・・・
喉のつまり物が飲み込みにくい痰が絡む(透明で異常に粘る)の症状が1年以上つづき内科、耳鼻科、呼吸器科と行きましたが治らず、総合病院に行き喉のエコーで甲状腺に4センチぐらいの石灰化した腫瘍が見つかりましたが特に説明もなくかかり付けの耳鼻科に紹介されました。そこでも説明はなく3か月後ぐらいに大きくなっていないか診て行きましょうと言われ特に検査はされませんでした。心配になり自分でネットで調べ近くの甲状腺の先生に診て頂いたところ石灰化した腫瘍より反対側にある症状がきになるので血液検査をします。と言われ結果
FT4 1.1 TSH 1.7 サイログロブリン16.7 抗Tg抗体 10.7
抗TPO抗体 21.2 カルシトニン 前 21で癌の値はありませんが
橋本病です。と診断されました。今は特に何もすることはないとのこと
橋本病は上記のような症状がでますか?橋本病だとすると血液検査の値的にはこのまま様子を見れば良いのでしょうか?
by shiro (2010-10-05 23:26) 

fujiki

shiro さんへ
しこりの性状が分からないので、
何とも言えないところがあるのですが、
一般論で言えば、
橋本病で甲状腺機能が正常であれば、
別に症状はないのが普通で、
咽喉の症状自体は、
甲状腺とは無関係の可能性が高いと思います。
TSH1.7 は問題なく、
当面経過観察で良いと思います。
by fujiki (2010-10-06 08:38) 

shiro

お返事ありがとうございました。本当にたすかりました。
近くならばすぐにでも受診させて頂きたいのですが
遠い地方に住んでおりそれも叶いません。
橋本病とは上手につきあっていきたいと思います。
喉の症状の原因と治療をしりたいのですが、何科に
いけばいいのでしょうか?苦痛でしかたがないのです。
現在サワテン250mgx2を毎食後に飲んでおりますが
効果は今ひとつ・・・・早く治したいです。
by shiro (2010-10-07 02:05) 

fujiki

shiro さんへ
矢張り耳鼻科か呼吸器内科か、
ということになるかと思います。
ただ、原因のはっきりしないことも、
実際には多いと思います。
漢方薬が意外に効果のあることもあります。
by fujiki (2010-10-08 19:58) 

shiro

いろいろありがとうございました。
受診した病院で聞きたかった事をわかりやすく丁寧に教えて頂いて
本当にありがとうございました。

by shiro (2010-10-08 23:25) 

えみり

石原さん、初めまして。急なご連絡申し訳ございません。ブログを拝見させていただき、どうしてもご意見を伺いたくコメントさせていただきました。2年ほど前バセドウ病と診断され、メルカゾールを毎日二錠のんでいます。半年ほど前病院にいったところ、甲状腺の機能は低下ぎみと言われたのですが、処方の量は変わりませんでした。先日検査に行ったところ、TgAb が455.9,(基準値40以下) TPOAb が37.7(基準値28以下)でした。ですがTSH,FT3,4 などの他の数値は正常値でエコーの検査でも肥大やしこりが見られないので問題ないし、橋本病ではないとの事でした。最近本当に疲労感が強く、週末は丸2日ベッドで寝ている状態です。これは甲状腺の影響か聞いたところ関係ないと言われました。メルカゾールは1日一錠に減らしてもらいましたが、これ以上機能が低下気味にならないか不安です。PCOSとも診断されています。(これも甲状腺とは関係ないと言われました)疲労感の原因がわからなく、一生このまま治らないと思うと不安です。ご意見頂ければ幸いです。
by えみり (2015-05-11 20:04) 

fujiki

えみりさんへ
記載された情報からは確定的なことは申し上げられないのですが、
甲状腺機能が不安定な場合には、
それがだるさの原因となることはあると思います。
ただ、甲状腺とは別個の原因による症状の可能性もあり、
その判断はなかなか難しいところです。
自己抗体は陽性ですから、
橋本病の可能性はあるのではないでしょうか。
by fujiki (2015-05-12 06:17) 

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