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抗体測定による感染症診断の具体例 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は割合と気持ちのいい朝ですね。
健診の結果を整理して、
介護保険の意見書を書いて、
それから今PCに向かっています。

診療所でパートの看護師さんを探しているんですが、
見付かりません。
こんなところにそんなことを書くのは反則だと、
分かってはいるんですが、
誰か来てくれないでしょうか。

ごめんなさい、余計な話でした。
さて、今日の話題です。

百日咳の疑い症例を、
複数検討する機会がありましたので、
その内容をご報告したいと思います。

勿論、守秘義務がありますので、
症例の特定は出来ないように、
配慮した上での報告とさせて頂きます。

今日はその前置きとして、
まず、抗体を測定することによる、
感染症の診断というものが、
どういうものかを、見て頂きたいと思います。

診療所の実例です。

患者さんは、70代の女性です。
ある年の1月23日から、高熱が出て、
その翌日の1月24日に、診療所を受診されました。

インフルエンザの流行っている時期だったので、
迅速診断を行ないました。
鼻の奥に細い綿棒のようなものを入れて、
そこから取った粘液で、インフルエンザの抗原を検出する、
皆さんもされたことのある例の検査です。

結果はすぐに出て、A型のインフルエンザが陽性でした。

通常ならこれで済ませるところです。

ただ、この患者さんは毎年インフルエンザのワクチンを打っています。
それでいてA型インフルエンザになったことが、
ちょっと引っ掛かりました。
勿論、ワクチンの効果が不十分だった、
という可能性はあるでしょう。
しかし、新型インフルエンザの可能性も、
皆無とは言い切れません。
丁度新型インフルエンザの流行が危惧され、
頻繁にニュースになっている時期でもあったので、
血液の抗体価を測ってみることにしたのです。

今言われている新型インフルエンザは、
A型インフルエンザの範疇に入ります。
従って、陽性率は低い、との報告はありますが、
迅速検査のA型の試薬に、反応した可能性はある訳です。

それで、A型のHI抗体価を測りました。
HI抗体とは、赤血球凝集阻止抗体のことです。
やや複雑な説明になりますが、
ちょっと我慢してお聞き下さい。

患者さんから取った血液から赤血球などを取り去り、
そこに鳥(ヒヨコやガチョウ)の赤血球を入れて、
色々な濃度に薄めます。
その中に同じ量のインフルエンザウイルスのA型抗原を入れると、
それが中にある抗体と反応して、
鳥の赤血球の凝集を抑制します。
赤血球の粒同士がくっついて固まるのを、抑えるのですね。
これがぎりぎり起こらなくなる濃度を見て、
その原液からの薄め方を、
何倍という数字で、表現します。
たとえば、抗体価が4倍、というのは、
4倍に薄めれば、ぎりぎりくっつかなくて、
それより僅かに薄めたらくっついた、ということです。
これが8倍であれば、
より少ない量で、凝集が起こったということになり、
それだけ多くの抗体が、
予め入っていた、ということになります。
従って、8倍の方が、抗体の量が多いのです。

ややこしいですが、
何とか分かって頂けたでしょうか。

では、先に進みます。

その患者さんの、1月24日の抗体価の結果はこうです。

H1N1 10倍。 H3N2 40倍。

HとかNというのは、
インフルエンザの表面の抗原という蛋白質の種類です。
この種類に数字をふって、
インフルエンザのウイルスのタイプを、分類しているんですね。
H1N1は、Aソ連型、と言われるタイプです。
H3N2は、A香港型ですね。
両方とも、代表的な流行型のインフルエンザで、
勿論今使用されているワクチンでも有効な筈です。
しかし、両方とも、それほど上がってはいません。
これはどういうことかと言うと、
ワクチンの効果が不十分だったと言うことです。
ワクチンが効いていれば、
もっと抗体は上がっていておかしくないんですね。

さて、これだけでは、まだ診断に至りません。

患者さんは、1月27日に解熱しました。
経過は順調でした。

それで、2月3日に、もう一度抗体検査を行ないました。
本来は、もう少し時間を置きたかったのですが、
丁度患者さんがみえたのがその日だったので、
止むを得なかったのです。

結果はこうでした。

H1N1 10倍。 H3N2 640倍。

どうでしょう。
Aソ連型は変わっていないのに、
A香港型は16倍も上昇していますよね。
10日間の間にこれだけ体の中で抗体が作られた、
ということは、
その感染が起こったということを示しています。

要するに、この方のインフルエンザは、
A香港型だったのです。
ワクチンが有効でなかったためで、
新型インフルエンザではなかったんですね。

抗体による感染の診断は、
このようにして行なわれます。
読んで頂ければ分かるように、
この方法の欠点は、
治った後でないと、
診断が付かないことが多い、
ということですね。

そのために、遺伝子診断のような方法が、
抗体検査に代わって主流になりつつあるのが、
現代の情勢です。
しかし、これから取り上げる百日咳のように、
まだ抗体診断に一般には頼らざるを得ない病気も多いのですね。

ふーっ。
ようやく、本題に近付きました。
明日は百日咳診断の具体例に話を進めます。

明日も長くなりそうですが、
めげずに読んで下さいね。

それでは、今日はこのくらいで。
週の後半です。
もう一息頑張りましょうね。
今日はきっといいことがありますって。

石原がお送りしました。
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