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百日咳の検査による検証事例 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は第4土曜日なので、
午後は心療内科の専門外来と、
栄養指導、ダイエット外来の日です。
カルテのチェックをして、健診の整理をして、
それから今PCに向かっています。

さて、今日の話題です。

今日は、百日咳の診断についての、
僕が関わった具体例を、
調査レポート形式でお届けします。

百日咳の予備知識については、
以前のブログに書きました。
まだ、読まれていない方は、
まずこちらをお読み下さい。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-06-12
続いて、これを。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-06-13
さて、予備知識が入ったところで、本題に入ります。

本年の5月下旬を中心として、
比較的高齢の患者さんに、
長く続く咳症状の事例が多く見られました。
発熱は多くはなく、あっても37度台前半の、
いわゆる微熱です。
2週間以上続く咳症状の場合、
念のため結核等を否定するため、
血液の白血球数と炎症反応、それに胸のレントゲン撮影を行います。
血液検査のみをまず行ない、その結果でレントゲンを撮るかどうか、
判断する場合もあります。
6名の患者さんにこうした検査を行ない、
百日咳流行との情報があったため、
百日咳の抗体価の測定も行ないました。

結果、その全例で百日咳抗体の値は以下の通りでした。
ワクチン株 10未満。 流行株10未満。

専門用語を説明します。
これは、凝集抗体と言われる検査で、感染を受けると、
この抗体の値は上昇します。
昨日説明したHI抗体と、
似た検査だと思って頂ければ、間違いはありません。
ワクチンを打っていると、ワクチン株は上がっていておかしくないので、
どちらかと言えば、流行株の上昇が、
感染の診断に有用です。
ただ、一方の抗体が上がれば、
それ以外の抗体もある程度影響を受けるので、
通常の感染では、両方の抗体が上がることが多いのです。
これを、交差反応と言います。

結果はいずれも感度以下で、
咳症状発症から、
2週間以上経った時点での検査であることを考えると、
百日咳の可能性はほぼ0と断定出来ます。

ここで、検査のポイントは、
若年者との違いですね。
幼児期にワクチンを打っている若年者では、
ワクチン株の抗体価は、弱いながらも陽性を、
示すことが多いのです。
それに対して、60代以上の方では、
自然感染のない限り、抗体価は殆ど陰性です。

従って、高齢者で或る程度以上の流行株の上昇があれば、
単独の測定でも、
かなりの確率で急性感染の診断が可能です。

例数は少ないですが、上記の6名の実例から、
そのことは強く推定されます。

さて、次の事例に移ります。

診療所が関わっているある企業で、
百日咳が大流行している、
という連絡が入ったのが、
6月の初めのことでした。

その企業の労務の担当者から、
僕に対応策の依頼があったのです。

百日咳の診断が、それほど簡単なものではないことは、
分かっていたので、
まず本当に医療機関で百日咳と診断された社員がいたのかどうか、
という聞き取りをしてもらうことにしました。

その結果、医療機関を受診した社員は複数いましたが、
実際に血液検査をしたり、培養の検査をしたりして、
診断を受けた社員は皆無であることが分かりました。
症状経過だけから、
「百日咳かもしれないね」と言われただけのことだったのです。
もし、本当に疑ったのなら、慎重に経過をみなければいけませんし、
百日咳に準じた治療が行なわれてしかるべきですが、
抗生物質は3日間程度しか処方はされず、
その後の指示も出ていないといった状況でした。

それで、まだ咳が続いている社員については、
なるべく診療所を受診して頂き、
症状の詳細な聞き取りをして、
必要であれば、検査を行なう方針としました。

以下、その中間報告を示します。

初発患者に近いと見られるAさんは、30代の男性です。
数日間の体調不良の後、
5月日頃より、咳症状が始まりました。
受診は6月12日。
その時点で発熱はなく、症状は頑固な咳だけです。
血液の白血球は5500と上昇はなく、
小児の百日咳の特徴とされる、リンパ球の上昇も見られませんでした。

Aさんから感染したと思われる社員が複数いたことから、
抗体の検査を行ないました。
病初期しか陽性率の低い培養検査は行いませんでした。

結果はこうです。
ワクチン株 40倍。 流行株 80倍
Aさんのことを、便宜的に症例Aとします。

結果は微妙でした。
40倍でも陽性と取る、という研究者もいますが、
ワクチンの影響も否定出来ません。
流行株の抗体価が更に上がるかどうか、
もう一度検査が望ましいと思われました。

それで、百日咳に有効な、
クラリスロマイシンの10日間の内服を指示しました。

症例Bは30代の男性、症例Cは20代の男性です。
2人とも2週間前頃からの咳症状あり。
いずれも白血球、リンパ球の上昇はありません。
抗体価は、
症例Bが、ワクチン株 40倍。 流行株 10未満。
症例Cが、ワクチン株 80倍。 流行株 10未満。
いずれも、ワクチン株優位の軽度の上昇で、
百日咳感染の可能性は否定的と判断しました。
この抗体のパターンが、おそらくワクチンを打った、
若い世代の示す典型的な反応と思われます。

症例Dは、30代の男性で、6月15日頃からと、
少し遅い発症です。
抗体価は、ワクチン株640倍。流行株20倍。

症例Dは、やや特異なケースで、
感染は否定出来ませんが、発症初期であることと、
流行株が陰性であることから、急性感染ではない可能性が高い、
と判断しました。

以下は省略しますが、もう3名の患者さんの検査を行ない、
B,Cと同様の抗体価のパターンが得られました。

症状経過が似ていることから、
同一の原因による感染の可能性が高いと判断されます。
とすれば、検査値のばらつきから、
今回の事例が百日咳ではなかったと考えるのが、
妥当と思われました。
潜伏期も、百日咳より通常の感冒に近いと思われます。

クラリスロマイシンの内服は全例で行ない、
現在流行は終息に向かっています。

最後に、百日咳の疑いが、
非常の濃厚なケースを紹介します。
患者さんは10代後半の女性で、
咳症状が3週間持続した時点で、
診療所を受診されました。

その時の抗体価の結果がこうです。
ウイルス株 10倍。 流行株 160倍。

回復期にもう一度検査をしないと断定は出来ませんが、
明らかに流行株優位の上昇で、
抗体の上昇も、感染の時期に見合っています。

この方はかなり感染の疑いが高いと判断。
現在治療にて経過を見ているところです。

以上、百日咳に関する簡単なレポートをお送りしました。

どうでしょう。
こんなものも、たまには面白いかと思って。
以前の記事と併せて読んで頂ければ、
並みの医者より皆さんの方が、
百日咳のエキスパートですよ。

それでは今日はこんなところで。
来週はちょっとヘビーですが、アスペルガー症候群のことなど、
取り上げるつもりです。

お休みの人は良い休日を。
僕と同じように仕事の人は、めげずにやりましょうね。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。



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