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重症の腎機能低下における降圧剤中止の影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
CKDとRASの関係.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年11月3日掲載された、
高度の腎機能低下時における、
リスクの想定される降圧剤の中止の可否についての論文です。

慢性の腎臓病が、
CKDという国際的な名称の元に、
以前よりその管理が重要視されるようになっているのは、
皆さんご存知の通りです。

慢性腎臓病の管理において問題となることは、
何よりも透析が必要なような、
末期腎不全の患者さんを減らすために、
より軽度の腎機能低下の患者さんに、
適切な指導や治療を行なうことです。

その段階において、
レニン、アンジオテンシン、アルドステロンという、
一連のホルモンの連鎖を抑制する、
RA系阻害剤と呼ばれる薬剤の効果が、
多くの臨床データによって確認されています。

アンジオテンシンは血管を収縮させる作用があり、
アルドステロンは塩分や水分を身体に貯め込むような働きがあります。

これはいずれも身体のバランスを保つために、
必要不可欠な働きなのですが、
腎機能の低下した状態では、
腎臓を通過する血液の量が少なくなるので、
身体はそれを水や塩分が少ない状態だと誤解して、
アルドステロンやアンジオテンシンが上昇し、
血圧が上昇すると、
それが今度は更に腎臓に負担となる、
という悪循環が生じるのです。

このためにアンジオテンシンやアルドステロンの働きを低下させる、
ACE阻害剤と呼ばれる薬や、
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)と呼ばれる薬が、
軽度から中等度の腎機能低下に対して使用され、
その後の腎機能の低下を抑制して、
透析に至るまでの期間を延長するような効果が、
確認されています。

より厳密にはそのうちの多くのデータは、
ACE阻害剤の使用によるもので、
ARB単独の効果については、
やや見劣りがしています。

さて、ここで1つの問題は、
ACE阻害剤やARBというRA系阻害剤には、
カリウムを上昇させるような副作用がある、ということです。

腎機能の低下が高度になると、
カリウムの排泄が低下して、
血液中のカリウムは増加します。
この上昇が著明になると、
不整脈の原因となり心臓死のリスクを高めます。

更には高度に腎機能の低下した患者さんに、
RA系阻害剤を使用すると、
その血液濃度が上昇することにより、
急激な血圧の低下や、
それによる腎機能の更なる低下を招くことがあります。

つまり、高度の腎機能の低下した患者さんへのRA系阻害剤の使用は、
却って患者さんの予後を悪化させる可能性があるのです。

しかし、それではどの段階までの腎機能低下に対して、
RA系阻害剤を使用することが適切なのでしょうか?
また、継続的に使用していた患者さんの腎機能が更に低下した時、
その薬を中止するべきなのでしょうか、
それとも継続するべきなのでしょうか?
仮に中止するとすれば、
何を指標にするべきでしょうか?
腎機能の悪化でしょうか、
それとも血液のカリウムの値でしょうか?

こうした点については、
現時点で必ずしもクリアな方針が示されていません。

CKDはeGFRという指標で、
その重症度が分類されています。
この指標がeGFRが60mL/min/1.73㎡未満であるのがCKDで、
30mL/min/1.73㎡未満が高度低下(G4)とされ、
最も重症の15mL/min/1.73㎡未満が末期腎不全(G5)とされています。

現行の多くのガイドラインにおいては、
このG4もしくはG5の状態では、
ACE阻害剤やARBの使用は、
その有害事象に注意しつつ慎重に行い、
カリウム値の上昇や腎機能の低下があれば、
その減量や中止も検討する、
というように記載をされています。

これは高度の腎機能低下におけるRA系薬剤の中止により、
腎機能が改善した、というようなデータが報告されているからですが、
それに反するようなデータもあり、
現状はまだ明確な方針が確定していないのが実際なのです。

今回の研究ではイギリスの複数施設において、
ACE阻害剤やARBの投与を半年以上継続していて、
eGFRが30mL/min/1.73㎡未満と高度腎機能低下の事例、
トータル411例をくじ引きで2つの群に分けると、
一方はそのままRA系薬剤を継続し、
もう一方はそれを中止して、
その後3年の経過観察を施行しています。

その結果、3年の観察期間において、
両群の腎機能低下の速度には有意な差はなく、
透析導入のリスクについても有意な差は認められませんでした。

つまり、今回の検証においては、
腎機能が高度低下した状態でRAS系薬剤を中止しても、
そのまま継続していても、
患者さんの予後に明確な差は認められなかったのです。

この結果は高度腎機能低下においても、
こうした薬剤を継続して問題はない、とも取れますが、
一方で予後に差がないのであれば、
中止しても問題はないようにも取れます。

この問題は、まだまだ検証の余地を残しているようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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