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脂肪肝と低血糖リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
朝は保育園の検診、それから老人ホームの診療と周り、
午後はレセプト作業をして、
夜はいつものように昨日のRT-PCR結果の説明電話に追われる、
というスケジュールです。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脂肪肝と低血糖.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年2月23日掲載された、
脂肪肝炎と低血糖リスクについての論文です。

糖尿病の患者さんの治療において、
大きな問題となるのは、
副作用や有害事象としての重症低血糖です。

糖尿病は全身の血管に障害を起こす病気であり、
糖尿病の患者さんの予後を改善するためには、
血糖を極力正常に近づけることが必要なのですが、
血糖降下剤を使用すると、
その有効性が高いほど、
当然血糖が下がり過ぎて低血糖になる、
という危険性は増加します。

最近開発されたインクレチン関連薬やSGLT2阻害剤は、
それまでのインスリン注射やSU剤と言った薬剤と比較すると、
格段に低血糖のリスクは低くなりましたが、
それでもゼロという訳ではありません。

低血糖では、
異常な空腹感や頭痛、
手の震えなどの症状が出現しますが、
その多くは自律神経症状なので、
抗尿病の合併症である神経障害が進行したような患者さんでは、
このような低血糖症状が出現せず、
急に昏睡状態になって、
初めて低血糖であったことが分かる、
というようなケースも稀ではありません。

重症低血糖は脳などの臓器にダメージを与えますから、
その予防は重症の患者さんほどより必要性が高いのですが、
その一方で重症の患者さんほどその予防が難しい、
というジレンマがあるのです。

同じようなレベルの糖尿病の患者さんでも、
同じように重症低血糖を起こす訳ではありません。

それでは、どのような糖尿病の患者さんが、
重症低血糖を起こし易いのでしょうか?

その1つの因子として考えられているのが、
肝機能の低下です。

典型的なのは肝硬変のケースで、
肝硬変を合併した糖尿病の患者さんでは、
重症の低血糖を来し易いことが知られています。

身体のブドウ糖が不足した状態においては、
糖新生と言って、
肝臓の細胞にグリコーゲンとして保存されている糖質が、
ブドウ糖に変換されて血液中に放出されます。

これが低血糖を予防する働きをしているのですが、
肝硬変では糖新生の働き自体が低下しているので、
低血糖が起こりやすい状態になると考えられているのです。

それでは、より軽度の肝機能障害や肝炎でも、
それがない人と比べれば低血糖は起こりやすいのでしょうか?

非アルコール性脂肪性肝疾患という病気があります。

これは以前は脂肪肝として一括りにされていたものですが、
お酒を飲まない人でも脂肪肝があり、
それが持続的にALT(GPT)の数値を上昇させていると、
肝硬変や肝細胞癌のリスクにもなることが明らかとなって、
最近注目をされている疾患概念です。

これは内臓脂肪の蓄積に伴う、
メタボの1つの現れと考えることも出来ますが、
糖尿病自体もメタボと関連がありますから、
この2つの病気が一緒にあることは、
実際には非常に多いと想定されます。

それではこの脂肪性肝疾患の存在と、
糖尿病の患者さんにおける低血糖の起こりやすさとの間には、
何らかの関連があるのでしょうか?

今回の研究は韓国において、
1945381名の2型糖尿病の患者さんの医療保険のデータを、
後から解析することにより、
この問題の検証を行なっています。

その結果、
関連する因子を補正した結果として、
非アルコール性脂肪性肝疾患を併発していると、
重症の低血糖リスクが、
1.26倍(95%CI:1.22から1.30)有意に増加していることが確認されました。

これはまだ確定的とは言えないデータで、
また別個の臨床データにおいて確認される必要がありますが、
軽度の慢性肝障害においても、
糖尿病治療における重症低血糖が起こりやすいとする今回の知見は、
臨床的には非常に示唆的なもので、
日々の臨床においてもこうした患者さんの低血糖リスクについては、
常に気を付けつつ診療に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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